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第5話

 第五話


 先ほどから続いていた下降音が静かになりつつある。どうやら目的地に着くようだ。しかし普通のエレベーターと違って階数などが表示されているわけではないので、どれだけ下ってきたのか見当もつかない。しかし音の続いていた時間から察するに、そうとう下降したということだけは分かる。

「にしてもどれだけ大きい館なのかしら…。さっきまでの館でも相当大きい館だったのにその上地下室なんて…」

 音が完全に止まり、静かにドアが開く。そこは広大に感じた館よりもさらに広く感じる空間が広がっていた。

「凄い…。地下にこんな広い空間があったなんて…。でも一体何故こんな空間を必要としたのかしら…」

 地下を少し探索する事でさきほどの館との違いを発見する。

 まず部屋についてだ。ここは館とは違い、部屋数が限りなく少ないのだ。館は部屋の広さはさほどでもないのに部屋数は多数あった。しかしここでは少ししか探索できていないので断言はできないが、殆ど部屋を発見できなかった。つまり空間の広大さから考え、その部屋一つ一つが大きいのではと推測する。ここが大きな違いであると思われる。

 次にこの空間そのものについてだ。全てを確かめたわけではないが、通路はコンクリートのようなもので作られている。館は木で作られているようだったが、そこが大きく違うだろう。また明かりも館では基本的に蝋燭などやランプで補われていたが、ここは何か違うもので明かりを灯していた。

「これは…蛍光灯かしら。なんだか館と地下でまるで違う気がするわね…。まるで古代から現代へ移動したみたいな…。あのエレベーターはタイムマシンだった…なんてね」

 今は何も確信が得られないため検証は中断し探索を再開する。とりあえず麻耶は一番手前にあった部屋に入ってみることにした。館は基本的に木の扉であり、何か温かみがあったが、この地下のフロアは金属でできているので何か冷たさを感じた。

「失礼します」

 一応礼儀として声をかける。まあここまで勝手に入っておいて礼儀もなにもない気がするが、それは気分だ。どうやら鍵はかかっていなかったらしく、扉は簡単に開く事ができた。

「ここは開いているようね。これは何の部屋なのかしら?」

 部屋は暗闇に包まれていた。館にいるときは部屋の所々に蝋燭が灯っていたため明かりがあったが、ここには何も無かった。

「とりあえず明かりは無いのかしら。廊下が蛍光灯で明るくしているという事はここも恐らく蛍光灯だと思うのだけど…。だとしたらどこかにスイッチがあるはずね」

 麻耶はドアの近くの壁を手探りで必死にスイッチを探していると不意に何か固いものに触れた。そこを丹念に調べるとどうやらスイッチのようだ。

「これね。ちゃんと点くといいけど」

 スイッチを押すとチカチカと音を立てて明かりが灯った。

「よし。さてこの部屋は…」

 部屋に明かりが灯り、徐々に部屋の全体像が見えてくる。そこには所狭しに棚がおいてあった。どうやらここは資料室のような役割をしているらしい。

「ものすごい資料の数ね。部室の資料室も資料がいっぱいあったけど、ここと比べると大した事ないわね」

 正直一つ一つ資料を確認していきたい所だが、そんな事をしていたら何日あっても足らないと考え、適当に身近にあった資料を抜き出して中を見てみることにした。

「これは何語なのかしら。難しすぎて読めないわね」

 英語なら多少読める自信があったがそれは英語ではなく、何か他の言語であった。諦めて他の資料を手にとって調べてみたが、どれも麻耶には読むことはおろか、タイトルさえ解読する事ができなかった。

「残念ね。ここは諦めましょう」

 しばらく挑戦してみたがここにいてもできる事は無いと諦め、他の部屋に移る事にした。

「ん?」

 手に取っていた資料を棚に戻そうとすると何かがひらりと落ちた。何かと思い拾いあげて見るとそれは一枚の紙だった。どうやら誰かが書いたメモのようだ。

「何かしら?」

 自分に読めるか不安だったが、どうやらこのメモは読めるようだ。メモに書かれているのは走り書きのようで、慌てて書いた形跡がある。そこにはこう書かれていた。


 これで博士の秘密は握った。後はこれを公開すれば全てが終わる。失った者たちはこれで救われる。神よ…我を見守りたまえ…


「う~ん…、これだけだとこの書いた人物が博士の弱みを握った事しか分からないわね…。この博士というのは恐らくアークライト氏よね。で秘密というのは人体解剖の事でしょう。これらの事からアークライト氏は人体解剖を実行に移したと断定できるわね。新たに分かるのはこれくらいか」

 辺りを調べてみるがそれ以上の何かは見つからなかった。仕方なく電気を消しその部屋を後にする。

 廊下に出て探索を再開すると新しい部屋を見つけた。そこには


 Drugs room


 と書かれたプレートが張ってあった。先ほどとは違いルームプレートがついているということは重要な部屋なのだろうか。

「ドラッグルーム…。ということは薬品が置かれている部屋よね。ここも入ってみますか」

 麻耶は部屋のドアを開けた。その部屋も所狭しと棚が並んであり、そこには多くの薬品が並んでいた。

「すごい量の薬品ね。一体何の薬なのかしら?」

 薬品を適当に眺めてみたが所詮は知識が無い為まったく分からず、一通りシャッターに収めた後、その場を後にした。

「ここはまるで研究所のようね。知識が多少あれば何か少しでも分かるのでしょうけど…」

 再び廊下に出て歩きだした麻耶はある部屋を見つける。そこには再び部屋の名前が書かれたプレートが張っていたのだが、そこには


 Animals room


 と書かれていた。先ほど入った『生命の部屋』の一件を思い出し嫌な予感がするので入るのに躊躇いが起こる。

「何か嫌な予感がするのよね…。ここは普通なら入りたくは無いんだけど…」

 しかしここまで多くの事を知り、この館のことに関して無関係でなくなっているのは疑いないない事実である。となればここに入らなくてはならないだろう。全ての事実を知る為に。

「お、おじゃまします」

 部屋は相変わらず暗闇に包まれていた。部屋に入った時の感想としては、他の部屋に比べると、とてもこの部屋は広く感じられるという事だった。

「ここは今まで入った部屋の中でも大きいみたい。でも何の音もしないとなるとここには何もいないのかしら」

 しかしそう呟いた途端、小さくしかし心の底から出るような呻き声のような声が聞こえてきた。

「い、今の音は何!? とりあえず電気をつけてみないと…」

 壁を触りスイッチを探り当てると明かりをつけた。

「!!」

 チカチカと音を立て明りが灯るとそこには数多くの檻のようなものがあった。牢屋という言葉が一番当てはまるであろう。そしてそこには収容されている人の姿があった。慌ててその人を助けようと駆け寄るが

「待ってて! 今助けに… うっ!」

 正確に言うとそれは以前人であったというのが正しかった。そこにいたのは皮膚は爛れ、所々腐乱している生き物がいた。目が飛び出ておりとても生きているとは思えなかったが、うめき声を出しているということはまだ生きているのだろう。アークライト氏の写真は見る限りかなり古ぼけていたので前のものであると推測していたので、彼が行った行為は随分前の出来事であると思っていたのだが、この施設が生きているということ、そしてこの檻の中の者たちがまだ生きているということを考えると、まだ研究は続いていると考えるのが妥当かもしれない。ということはまだアークライト氏は生きているのだろうか。

「でもあの写真を見る限りだいぶ昔のような感じがするし、生きているはずがないと思うんだけど。でもこの惨状を見る限りその考えは改めた方がよさそうだし…。もう一体何がどうなっているのよ…」

 麻耶は周囲に漂う腐乱臭とそこにある惨状に吐き気を催しながら檻の様子を観察しながら部屋の奥まで行ってみることにした。

 そこで分かったのは年齢、性別ごとにエリアが分かれているということであった。まず最初に大人の男性が並んでおり、次に女性。そしてその後に子供の男の子、女の子という順序であった。そして少女の数が圧倒的に多かった。

「この少女が多いことは何の理由があるのかしら…。何かしらの意図がありそうだけど…」

 麻耶は居た堪れない気持ちだったが部屋の様子をシャッターに収めその場を跡にしようとしたが、ふとある一つの檻だけまだ新しい事に気づいた。

「あら? この場だけ新しいわね。なんでかしら?」

 その場所は最奥な為あまり明かりが届いていなかったが、よく見てみるとそこに入っているのは見覚えのある姿をした少女だった。

「もしかして…チルノ!?」

 そこにはチルノの姿があった。麻耶はチルノに呼びかけるが、何かの薬でも与えられたのか、麻耶の声に応える事はなかった。

「まさか…、もう既に?」

 麻耶は心が焦るのを自覚した。この部屋の様子を見れば、ここにいる者がこの先どのような結末を迎えるのかは容易に想像がつく。もしそうなってしまっては後悔しても後悔しきれない。

「ねえ、チルノ! 起きているなら返事して! 狸寝入りなんかしている場合じゃないわよ! 早く返事しなさいよ!」

 周りのことも忘れ、必死にチルノに呼びかけるが、チルノから返事はなかった。

「とにかくこの牢を開けないと…」

 チルノが入っている檻の入り口を必死に開けようとしたが、当然鍵が掛けられており開かない。無理も承知で檻に手をかけ力いっぱいこじ開けようとするが、案の定ビクともしない。

「どうしよう…、早くチルノを助けないと大変なことになる。何か…何か方法はないのかしら」 

 こうなれば自棄だと天上桜で檻を破壊しようとするが「カンっ!」と小気味いい音が響くだけでビクともしなかった。辺りを見渡したが当然ここに鍵は無く、在るのは檻だけであった。

「とにかく鍵を探さないと…、待っててね、チルノ!」

 麻耶は鍵を探すため部屋の外に向かおうとすると

「――――して」

「え?」

 何か声がした。辺りを見渡しながら耳を澄ますと

「殺して……」

 そう聞こえた。

「誰? 誰なの?」

「殺して!殺して!殺して!殺して!殺して!殺して!」

 最初は一つの声だったので聞き取れなかったが徐々にその声は大きくなり、そこにいる全ての者が檻にしがみつき麻耶に向かって自らを殺すように懇願し始めた。

「な、何なの…、これ…」

 麻耶は恐怖した。もはや人の姿でない、何十、いや何百といったゾンビのような者たちが自分に殺してと言い寄ってくる。そんな光景が想像できるであろうか。それはまさしく地獄絵図であった。麻耶は足がガクガク震えていることに気づいた。

「ひっ!」

 そこにいる者たちは自分を殺す事を懇願しながら次第に檻を揺らしはじめた。檻を揺らすガシャガシャという音と、殺してという叫び声が部屋中を覆い尽くす。チルノを救う事が出来ない事の未練は残るが、今自分がここにいても何も出来ないという事、そして何よりこのままじゃ自分の精神が持たないと思った私は、ドアだけを見つめ一気に駆け抜ける。

「チルノ、待っててね! 直に鍵を持ってくるから!」

 麻耶はこの状況に一つだけ感謝した。それはチルノが目を覚まさないことだった。もしあの状況で目を覚ますことになったのなら恐らく気が狂ってしまうことだろう。麻耶は目を覚まして欲しいという気持ちと、目を覚まさないで欲しいという矛盾した気持ちを抱きながらその部屋を飛び出した。

 部屋を出た私は麻耶を探すため廊下を歩き続けた。部屋を見つけてはドアを開け、中を探す。また部屋を見つけては中を探す。そんな行動を必死に続けたが一向に鍵を探すことはできなかった。

「一体どこに鍵はあるのかしら。早く鍵を探さないとチルノが…」

 気持ちが焦りに焦っていたが、こういう時こそ落ち着かなくては冷静な判断ができない事を思い出し、深呼吸を2、3回して心の落ち着きを取り戻した。

「ふう…」

 深呼吸する事で思考が再びクリアになる。どこかに鍵があるのは間違いない。とすればまず一番重要な部屋を探せばいいという事に今更ながら気づく。

「この施設で一番重要な部屋。それは…」

 麻耶は黙々と歩き続けて、ようやく発見することができた。

「これよね」

 その部屋はプレートでこう書かれていた


 Master room


 と。Master、つまり主の部屋である。

「さあ…行くわよ!」

 麻耶は緊張しながらそのドアを開けた。


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