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第一話

 第1話 


 唐突に風が吹いた。

「きゃあ~~~~!」

 少女たちはスカートを必死に抑えるが風は一向にやまず、スカートはめくれ続けた。

 そんな中、彼女達の様子を一心不乱にカメラを構える二人の少女がいた。一人は普通に どこにでもいる少女。そしてもう一人は烏天狗の様な容姿をしている少女である。

 二人とも美しい少女だった。しかしその烏天狗のような少女はある能力を持っていた。何を隠そう彼女こそが風を起こした張本人であった。

 普通の少女の名は林 麻耶。そして烏天狗のような少女の名は射命丸 文。二人は文の能力を使い、日々スクープを追い求める内に何故か少女のパンチラ写真を追い求めていた。

「むなしい…、虚しすぎる…。なんで私たちはこんな事をしているのかしら…」

 麻耶はかつて自分が目指したジャーナリストへの志がひどくくだらない事のように思えてきてしまった…。

「はぁ…、いくら数字は取れるしニーズがあるからって…。なんかこう…私の血が騒ぐようなことないかしら…。大体なんでこんな事に需要があるのかしら…」

 麻耶がひどく落ち込みながらふと横を見ると、相方である文はひどく満足そうな顔をしていた。心なしか顔が艶々しているのは気のせいであると願いたい。

「ねぇ、文。私たちはもっと他の物を追い求めたほうがいいんじゃない? もっと他に私達が追うべきもの、私達だからこそ追わなくてはいけない事が在る気がするのよ」

 そう話を振ると文はひどく驚いたように

「何言っているの? 世間の人々の求めるニーズはこれなのよ? 美しい少女がどのような下着を穿いているのかを追い求める。まさにロマンじゃない!」

 文は目をキラキラしながらそう力説した。

「はぁ…」

 所詮言っても無駄だった。射命丸 文とはそういう人物である。改めて思うとよく文と付き合っていけるものだと麻耶は自分で自分に感心する。麻耶はこの変人である文との出会いを思い返していた。


 麻耶は少し前までは日本に住む普通の女子高生であった。普通に高校に通い、普通に授業を受けて、普通に部活をして家に帰る。そんな日々を送っていた。

 部活は写真部に入っていて将来はジャーナリストとして世界を飛び回り、スクープを追い求める。そんな事を幼い頃から夢見る高校生であった。世界に飛び出した時、一人で身を守れるようにと武術も幼いころから習い続けた。しかし世界を飛び出すどころか自分が住む県も出ないような至極普通な生活を日々送っていた。

 しかしある日転機が訪れる。部室の書類を整理している時、ある一冊の書類を見つけたのだ。

 それはひどくボロボロであり、何年も昔の物に思えた。好奇心をくすぐられた麻耶はその書類に目を通す事にする。するとそこにはある一つの興味深い事が書かれていた。


 幻想郷


 その書類にはまず大きくそう書かれていた。この世には「幻想郷」なるものが存在し、この世から切り離された存在であるという。そこでは妖怪が存在し、独自の文化が存在しているという。

 普段の生活において写真部に所属し、日々ジャーナリストになる為の努力を行っているが、所詮は高校生の麻耶がスクープを取ることは全く無い。それは当然の事で、どこにでもある高校に何か不思議な出来事など起こるはずも無い。しかしもし、これに書かれている事が本当であるならばスクープになる事は間違いない。

「行ってみるか!」

 麻耶はそう決心した。その書類には神霊山に幻想郷の入り口があると書かれている。神霊山は麻耶の自宅から少し距離があるが決して行けない距離ではない。麻耶は即座に帰宅すると出立の準備に取り掛かることにした。 

 次の休みの日、麻耶は神霊山を訪れた。来てみた感想としては普通の山と違いは無いように思え、本当にここがあの書類に書かれていた幻想郷なるものへの入り口なのだろうかと不安に思えた。

「普通の山みたいだけど、ここに本当に幻想郷なんてあるのかしら?」

 不安は募るが、とにかく上ってみないと始まらない。恐らく上っていると何かしら分かるはずだと思った。

「よし! 上ってみるか~!」

 麻耶は決心し神霊山を上り始めた。


「着いたけど…?」

 そう、全く何事も無く頂上までたどり着いてしまった。頂上はすばらしい景色が待っていた。山々は木々が生い茂り、風が髪を揺らす度に心地よさが訪れるこういう所は普段何も用が無くても来てもいいと思える、そんな場所に思えた。

「風が気持ちいいな~」

 麻耶は伸びをしながら近くにあったベンチに腰を下ろすと、ウトウトし始めた。なんせ今日は普段よりも物凄く早起きしたため眠かった。この清清しい環境も影響していることは間違いないだろうが。

「ちょっと眠ろうかな。一眠りしたらまた幻想郷探しを始めよう!」

 麻耶はそう決心し、気が付くと夢の世界に落ちていった。


 眠っている間、麻耶は誰かの声を聞いた気がした。それは最初何を言っているのかは麻耶には分からなかったが、よく聞いていると自分に何かを問いかけている事に気づいた。

「あなたは幻想郷に来たいの?」

「あなたは誰? 幻想郷を知っているの?」

 麻耶は夢かもと思いつつ、幻想郷を知っていると思わしき声の主に問いかけた。その声は少女のような大人のような…年がはっきりしない感じだった。

「質問を質問で返すのは感心しないわね。来たいのか来たくないのか、はっきりしてちょうだい」

 麻耶の言葉に声の主は少し機嫌を損ねたようだった。麻耶は慌てて

「い、行きたいです!」

 と返した。ここで手がかりを失っては永久に行く機会を失ってしまう気がしたからだ。

「わかったわ。今日は気分がいいから連れてってあげる。私気まぐれだし」

 なんだかよく分からないが、麻耶は幸運であったようだ。ということは幸先いいみたいだ。

「では連れてってあげる…。ようこそ…私たちの幻想郷へ…」

 そう言うと声は聞けなくなってしまった。そして麻耶は深い眠りの底に落ちていった。


 そして眼を覚ました麻耶は驚愕する。辺りを見渡してみるとそこは先ほどの光景と全く違ったのだ。辺りが木々で生い茂っていることは変わりなかったが、そこは森の中だったのだ。眼を覚ました瞬間は声の主とのやり取りは夢ではないかと思ったが、この風景を見ると夢ではなかったのかもしれないと思えた。

「ここが幻想郷なのかしら…」

 辺りを見渡してみると見たことも無い森の中だった。だが普段の生活でビルやコンクリートの建物などに見慣れている麻耶にとってある意味新鮮だった。

「とりあえず歩いてみよう。ここが幻想郷ならいろいろありそうだし。それにしてもあの声の主は誰だったのかしら?」

 麻耶は歩き出そうとした時、突然強風が吹いた。

「きゃあ~~~~!」

 スカートがめくれそうになってしまい、必死にスカートを抑えるが、一向に風は収まる気がしない。しかも不思議な事にここら辺だけ風が吹いている。

「ど、どういう事?」

 呆然とする麻耶だったが、しばらくすると自然と風が収まった。

「や、やっと収まった…。まったく何が起きたの?」

「いや~、久々に良いものが取れました」

 いきなりそう言いながら少女が麻耶の目の前に現れた。見た感じは麻耶と同い年程に見えたのだが、後々年を聞いて驚愕することになる。

「あら、あなたは見ない顔ですね…。どうしてここに?」

「誰かの声に引かれて…。気がついたらここにいたの」

「そうなのですか。まあ偶にいるんですよね、そういう『人』が」

「ここは幻想郷で間違いないのね?」

「はい、そうです。あら、あなたそれは…?」

「え?」

 その少女は麻耶が首から提げているデジカメに目を向けた。そして次第に眼を輝かせ始めた。

「あなたも新聞記者なのですか!?」

「ま、まあ似たようなものを目指してるけど…」

 あまりの迫力で聞いてきたのでちょっとしり込みしながら答えると

「ですよね。やっぱりスクープを追い求めるのは良いことです!」

 何故かその少女はテンションが急上昇していた。何が彼女をそこまで興奮させたのだろう。

「私の名は射命丸 文。一緒にスクープを追い求めましょう!」

「は、はぁ…」

 それが林 麻耶と射命丸 文の出会いだった。


 それからは驚きの連続だったが麻耶は日々楽しかった。その過程でいろいろな人物と出会い、多くの出来事が起こるのだが、それを語るのはまた後日ということにしよう。

 撮影を取り終え帰る途中、麻耶は人だかりが出来ている事に気がついた。

「いったい何なの、これ?」

 麻耶は適当な人物に声聞いてみるが皆興奮して聞こえてないようである。なんだか面白いことが起こっている予感がし、その中心を目指そうとしたがあまりの人ごみに近づくことが出来ない。

「あ~~~~もう、邪魔くさいわね。こいつら全員パンチラ撮影してやろうかしら」

 文はイライラしてそんな事を口走っているが、しかしそれはただの変態と化してしまう為自重させ、知り合いが誰かいないか探すことにした。ちなみに文は基本的な口調は丁寧なのだが、以前麻耶が堅苦しく話さなくていいと言ったので麻耶の前では砕けた口調になっている。

「ええと…、誰かいないかしら…。ああ、魔理沙がいるじゃない」

 麻耶は人の間をぬって魔理沙の所に近づき話を聞いてみた。

「ねぇ魔理沙、この人だかりは何なの?」

「あん?」

 魔理沙がこっちを向きニヤッと笑った。魔理沙は霧雨 魔理沙といっていかにも魔法使いといった格好をしている少女である。ちなみに文と同じく異能の力を使えるのだが、以前何が出来るのと聞いたときに

「魔法が使える程度の能力だよ」

 と言われてうやむやになってしまった。というか魔法が使えるのに『程度』という表現はどうなのだろう。

「知らないのか? 今じゃこの話題で持ちきりだぜ~」

「だからそれが何なのか、教えなさいよ。知らないから聞いているんじゃない」

 麻耶もいい加減イライラして来た。他の人に聞いたほうがいいのかもしれない。私は誰か普通の人(こういうと魔理沙に失礼かもしれないが)に聞こうと思い、立ち去ろうとしたが

「まあ聞けって」

 またもや魔理沙はニヤニヤしながら麻耶の腕を取って言った。麻耶はいい加減うんざりしてきた。

「じゃあ早く言ってよ。気になって仕方がないじゃない」

「実はな、今度幻想郷スクープ大賞があるらしいんだよ」

「幻想郷スクープ大賞?」

「ああ。参加資格は特になし。とにかく誰もが驚くようなスクープ写真を撮れば優勝らしいぜ」

「へ、へぇ……………」

「で、優勝者には豪華商品がもらえるらしいぜ。お前はどうする? 参加するのか?」

 聴いた瞬間私は飛び出していた。

「お、お~い!」

 魔理沙が声をかけた気がするが麻耶の耳に届くことはなかった。


 麻耶は文の事もすっかり忘れ、走りながら興奮していた。まあ恐らく文も飛び出していったことなので問題はないだろう。

「き、きた~~~~~~~~~!!!」

 あまりの歓喜に走りながら踊り、バク宙し、歌を歌い、ヘッドスライディングする麻耶。正直他人が見たら可哀相な目で見てくれることは間違いないだろう。それか優しげな眼差しを向けられて精神科を紹介してくれることだろう。だがこの状況下ではそれさえも甘んじて受け入れるほど麻耶は舞い上がっていた。

「これよ! これこそが私が望んでいたものだわ! 絶対優勝狙うわよ。正直豪華商品も気になるけど、それよりもスクープ大賞で私が負ける分けにはいかないわ!」

 まさに疾風の如く仮住まいに帰り、麻耶は旅支度に取り掛かる。

「とりあえずこんな所かな。あとは助手か~」

 基本的に麻耶は助手を使わない。それは相棒が必要ないということではなく、一人の方が動きが取れるからという理由だった。しかし、過去最大規模の活動になることを予想し、万が一の事を考えて今回は誰か相棒を連れて行こうと考えていた。

「でも案外皆乗り気なのよね~」

 そう、多くの人間が参加意思があると思われるこのイベント。必然的に相棒選びは慎重にならなければならなかった。下手に相棒にすると情報を取られかねない恐れもあるし、なにより相棒はコンビネーションの良さが求められる。急造のコンビになる為連携の良さは勿論期待はできないが、それでも多少の意思疎通ができなくては話にならない。一番の理想は普段行動を共にする文だが、文は友である以上にライバルである。恐らく誘っても拒否するし、この際むしろ文とは戦いたいため選考からは外れることになる。下手したらすでに飛び出しているので合間見えるのは大賞発表の場であろう。

「順当にいって霊夢でもあたってみるかな~」

 霊夢とは博麗 霊夢といって博麗神社の巫女である。霊夢はしっかりしてそうだし頼りになる気がした。霊夢なら急造コンビとしても十分期待できる。麻耶は決断し早速霊夢の家である博麗神社に向かう事にする。


「霊夢~、いる?」

 声をかけるが神社からは物音が聞こえてこなかった。

「留守かな?」

 もう一度声をかけてみた。家の中にいないのだろうか…。

「お邪魔します」

 一応声をかけ家の中に入ると巫女服姿の霊夢は荷物を必死に鞄に詰めていた。それはまるで長旅に出るかのようだった。

「なんだ、居るんじゃない。どこかに行くの?」

「ああ、麻耶。ちょっと撮影に出かけるのよ」

「撮影って…、まさかあなたも?」

「当然。だって豪華商品よ? それがあればこの神社も活性化するかもしれないじゃない。うちの神社は何でか知らないけど参拝客来ないのよね。参拝客が来てくれないとお賽銭も増えないからやりくりが毎日大変で…」

 若干霊夢の目には涙があった。これは見なかった事にしよう。悲しすぎるから…。

「よいしょっと」

 霊夢は荷物を背負うと

「じゃあ麻耶、またね。いくぞ、スクープ! 待ってろスクープ!」

 と言って去っていった。置き去りにされた麻耶は途方にくれた。

「どうしよう…、他に当てが無いわけでもないけど…。咲夜にも声をかけてみようかしら」

 さっそく活動を開始し、咲夜が住む紅魔館に赴くことにする。


「あいかわらず大きな館ね。あら? 美鈴がいないわね」

 紅魔館についた麻耶はある違和感に気づく。それはいつも門番をしている紅 美鈴の姿がないことだった。門番である美鈴がいない事など今まで一度も無かった為少し戸惑ってしまう。

「どうしようかしら。この館って美鈴がいるからいつも呼び鈴なんて気にしたことなかったんだけど…。呼び鈴なんてあるのかしら…。 ん?」

 よく見ると館の壁に小さな換気口のような窓があった。あそこから覗けば咲夜が見つかるんじゃないかと私は考えた。

「よっと」

 私は窓に近づき中を覗いてみた。

「咲夜は…いないわね。外出中かな?」

 私はチャイムを探しながら咲夜を口説く台詞を考えた。

「おそらく普通に言ったら駄目な気がするんだけどな~。でもシンプルが一番とも言うし…」

 悩んだ私は何個かのパターンを考えてみた。


 パターン① 普通に言ってみる

 麻「咲夜、一緒にスクープを追い求めに行かない?」

 咲「分かった。行く、行く!」


 改めて思った。これは無いな、と。


 パターン② 強気でいく

 麻「咲夜、スクープ撮りに行くぞ。早く来い!」

 咲「はい!頑張ります!」


 麻耶はふと思った。咲夜ってこんなキャラだった?


 パターン③ 弱気でいってみる

 麻「咲夜さ~ん、お願いします。私の今後がかかっているんです~。ど、どうかお慈悲を~」

 咲「まあそれは大変ね~。いいでしょう。私が力になりましょう」


 麻耶は、自分はこんなキャラじゃない! と思い却下する。


 結局呼び鈴を探すより、どうやって口説くかで入り口をウロウロしていた。そんな時、、麻耶はまるで漫画で頭に豆電球が浮かぶように閃いた! もうノリで乗り切れば良いのではないかと。つまり


 パターン④ テレフォンショッピング的なノリ

 麻「見てくれ~、咲夜。どうだいこのスクープ撮影旅行。まさに完璧だろ~?」

 咲「ホントね~、麻耶。でもこれ大変なんじゃないの?」

 麻「そんなことはないさ~。見てくれ、こんなに簡単だろ~」

 咲「まあ、ホントね。私ビックリだわ!」

 麻「一緒に行ってくれるかい?」

 咲「ええ、もちろん!」


 ……………………。何やってるんだろう…、と思わず麻耶は自問自答してしまう。

「あなた、館の前で何やってるの?」

 考えるのに必死で周りが見えてなかったのか、いつのまにか前には咲夜が呆れ顔で立っていた。

「まったく、メイドが家の前に行ったり来たりしてる不審者がいるというから来てみれば…。何のようなの?」

 ちなみに咲夜は紅魔館のメイド長である。恐らく彼女の部下がウロウロしている麻耶を見つけて不審に思い咲夜に報告したのだろう。

「あら咲夜。美鈴はどうしたの?」

「なんか急に休暇をもらいますとか言っていなくなったわ。なんだか豪華商品を取ればこれで皆に名前がどうとか…」

「ふ~ん」

 奴も敵か。

「それで、何の用なの?」

「うん、私と一緒にスクープを追い求めに行かない?」

「行かない」

 一言言って咲夜は館の中に去っていった。

「ちょ、ちょっと」

 麻耶は慌てて引き止めようとするが、無常にも扉は閉められてしまった。

「こうなったら…」

 麻耶は一秒間に16連打という脅威の連射能力を駆使し、ひたすら扉を叩いた。

「うるさい!」

 との声と共にナイフがご丁寧に16本飛んできた。

「あ、危ない…」

「いい加減にしなさいよ。何なの?」

「だから一緒にスクープ探しに行きましょうよ。知らないの? 幻想郷スクープ大賞の事」

「何それ?」

 麻耶は咲夜に事細やかにその事を伝えた。

「なるほどね~」

「ね、ね? 一緒に私と行きましょう!」

「行かない」

 咲夜は再び踵を返した。

「ま、待って~。行かないで~」

 麻耶は必死に咲夜にしがみついた。もはやここまできたらキャラもプライドも無い! プライド? 何それ、食べれるの? おいしいの?

「あなたと一緒にやりたいのよ~」

「まったく…」

 咲夜は呆れ顔に振り返りながら

「私は館の仕事で忙しいのよ。お嬢様の世話もあるしね。だから無理なのよ」

「そっか……」

 お嬢様とは館の主、レミリア・スカーレットの事である。咲夜はレミリアに従事している為、確かに館を離れるのは無理というのは当然である。

 理解したところで麻耶は途方にくれる。数少ない候補に振られてしまい、もう候補がいないのである。他に誰が適任がいるだろうか……。

「そのかわり…」

「?」

「なんだか清流村ってところには変な館があるって話をメイドから聞いたことがあるわ。なんでも誰も住んでない館に毎晩明かりが灯っているようで…。これはスクープになるんじゃない?」

「本当!?」

「ええ、でも信憑性が高くないからホントかどうか疑わしいわね…。ってあれ?」

 咲夜が言い終える頃にはすでに麻耶の姿はなかった。

「まったく… まあいっか」

 咲夜は無かったものと考え館の中に戻っていった。

 麻耶は咲夜の情報を信じ清流村に向かう事にした。

「そんな情報を聞いて行かないわけないじゃない!」

 麻耶は走る中、ふとある一人の人物を思い出す。

「あいつか~…まったく頼りにならないけどいないよりはマシかな~…」

 麻耶は方向を変え、湖に向かった。


「お~い、チルノ。いる?」

 返事はない。ただの静かな湖のようだ。

「おかしいな~。いつもここにいるんだけど…」

 もう一度声をかけてみた。しかし結果は変わらず返事は無かった。

「しょうがないな~」

 麻耶は少し考え

「チルノ、チルノ。ば~か、ば~か」

「バカっていうな~!」

 麻耶の策に嵌りまんまと姿を現したチルノ。これを馬鹿といわずして何と言おう。ちなみにチルノとは妖精の姿をした馬鹿である。それ以上でも以下でもない。

「なんだ、いるじゃない」

「は! し、しまった…」

「やっぱりあなたってばかね~」

「ば、バカっていうなぁ…」

 ちょっと涙ぐんでいる。こういうところは素直に可愛いなと思いながら

「チルノ、行くわよ!」

「へ? どこに?」

「清流村に!」

「?」

「スクープよ、スクープ!」

「ちゃんと説明してよ、それだけじゃわからないよ~」

「あなた幻想郷スクープ大賞しらないの?」

 チルノは頭に?マークが3つぐらい浮かんだ顔をしながら首を横にふった。

「あのね…」

 麻耶は事の顛末をチルノに話した。

「分かったけど…なんであたいが行くの?」

「あんた暇でしょ?」

「暇じゃない。あたい忙しいもん」

「何してんの?」

「蛙の冷凍…」

「…は?」

「だ、だから蛙の冷凍だって!」

「そんなことしてどうするの?」

「湖で溶かして遊ぶの」

 麻耶は知らずに涙が溢れてきた。なんてこの子は寂しい子なのだろう…。

「あ、哀れむな~!」

「じゃあ行くわよ、チルノ」

「あたい、行きたくないよ~」

「じゃあ勝負しましょう。それで私が勝ったら行くのよ?」

「な、何の勝負?」

「そうね~…」

 麻耶は少し考え

「じゃあ、ナゾナゾにしましょうか」

 と提案する。馬鹿のチルノにとってはこれほどの無理ゲーはないだろう。

「え、えっと…ナゾナゾは…」

 案の定怖気づくチルノに

「バカじゃなかったら大丈夫よね?」

 と挑発する麻耶。結果は勿論

「バカじゃないもん。大丈夫!」

 この通り。やはりチルノである。

「じゃあ問題ね。パンはパンでも食べられないパンは?」

「あたいをバカにしているのね? 答えは簡単よ!」

 チルノは妙に自信満々だった。さすがに簡単すぎただろうか。

「へぇ…、じゃあ答えは?」

「レーズンパン!」

「…なんで?」

「あたい嫌いだもん。だからパンはパンでも食べられない!」

「………………」

「え? え? 違うの?」

 麻耶は思った。こいつはやっぱりバカだ、と。そしてチルノを選択肢に入れた自分が愚かだったと。

「よくよく考えたんだけど、やっぱりあなたは来なくて良いわ」

「え? なんで?」

「だってあなた…ねぇ?」

「な、何? その哀れむような目は」

「気にしないで。じゃあ!」

 麻耶はチルノを捨て置き一人で清流村を目指すことにした。よくよく考えたらチルノを連れて行ったら1+1が-100になる気がした。

「ま、待ってよ! あたい聞いたことがあるかもしれない」

「聞いたことがあるって清流村を?」

「そう。その村は水が凄く綺麗だからその名前がついたらしいんだけど、その水が特産品で健康にいいって聞いたことあるもん」

「別にその村の名前の由来や特産品について知りたいわけじゃないわ」

「それでその話の中に場所についての話も出てたのよ。あたいについてくれば大丈夫!」

 チルノはポーチをさげ

「さあ、行くわよ!」

 とズンズン歩いていった。麻耶はチルノを静かに見送る。さらばチルノ。Forever~

「ついて来てよ!」

「しょうがないわね」

 よくよく考えてみると、私はその村がどこにあるかすら把握してなかった。あまりの事に舞い上がってたようだ。場所も知っているようだし、何よりこれ以上候補も見つからない。麻耶は苦渋の決断としてチルノで妥協することにした。

 私がメインだというような顔で先陣をきるチルノ。二人はスクープを求め清流村を目指した



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