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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

隣人

作者: I-pur

 もう私は長い間、隣人の悪質な嫌がらせに耐え続けてきました。

 隣人、佐藤一家が隣に引っ越してきたのは私達夫妻があの住宅地に一戸建てを構えて住み始めて十年が経とうとしたある日のことでした。佐藤一家は私達が住んでいる住まいよりも一回りほども大きな家を建て、私達よりも倍ほども広い庭を作ったのです。この時点は私は佐藤一家が私達に対抗意識を燃やしているとしか思えませんでした。まあ、私はそんなことで一々腹を立てるほど子供ではないのでそのときはあまり気にしないようにしました。しかしその日から私の地獄のような日々は始まったのです。




 若く、美人な隣の奥さんはいつも日曜になると派手な服装で化粧もばっちりと決めてハンサムな旦那さんと外出をしていました。もうすぐ四十を過ぎる私達夫妻へのあてつけでしょうか?あまりのわかりやすさに思わず失笑してしまいました。

 しかしいくら私が寛容な女だとはいえ、私だって人間です。我慢の限界だってありますよ。ただ、あの奥さんにわかってほしかっただけなのです。本当ですよ?だから、私はお隣が飼っている猫を殺して玄関先に置いておいたのです。私なりの無言のメッセージというやつでしょうか?これで円満な御近所付き合いを送れるなら……私だって藁にも縋るような想いだったのです。

 しかし、お隣の一家が行った行動は私の願いを踏みにじるものでした。信じられないことにお隣は庭の我が家からもよく目の届く場所に猫の墓を作ったのです。これは完全に私に対する嫌がらせだと思いました。そして、あろうことかそれから毎日、まるで私に見せつけるかのように、小さな娘と旦那と三人で猫の墓の前で手を合わせるようになったのです。私は悔しくて涙が止まりませんでした。

 それからも隣の一家の嫌がらせは毎日のように続きました。

 あるときは子供のいない私達を小馬鹿にするかのように娘を庭で遊ばせ、またあるときは夫婦仲の冷めきった私達を嘲笑うかのように家族旅行に出掛け、そのお土産を一家総出で我が家に訪問して送りつけてきたのです。

 私の神経は日に日に擦り切れ、佐藤一家が越してきて一年が経ったある日、私は限界を迎えました。いえ、とっくに限界など通り過ぎていたのかもしれません。

 私は台所から包丁を持ち出すと、佐藤宅の庭に向かいました。直接本人に文句を言おうかとも思いましたがそうするとやっぱり角が立つじゃないですか?いくら私がこれまでずっと辛い想いをしてきたとはいえ、やっぱり平和的に解決できるならそれが一番だと思ったんです。

 佐藤宅の庭に到着するとそこでは娘が独りで遊んでいました。最初は私の方を見て不思議そうな顔をしていましたが顔見知りということもあり、すぐに笑顔でこちらに駆け寄ってきましたよ。私はとりあえずその子を取り押さえ、包丁で斬り殺しました。ええ、それほど難しくはなかったですよ。まだ幼稚園に入るかどうかというくらいの小さな女の子ですからね。

 私は娘を殺したあと、さてどうしようかと考えた末、首を切り落とし庭に植えられた木の枝に突き刺しておくことにしました。猫のときは失敗でしたが今度こそは奥さんが私の願いに気づき、嫌がらせをやめてくれると信じていたのです。

 しかし私がちょうど娘の生首を枝に刺し終わったころ、事件は起きました。なんとタイミングが悪いことに買い物を終えた奥さんが帰宅してきたのです。

 奥さんは持っていた買い物袋をドサドサと地面に落としてしばらく呆然とこちらを見つめていたかと思うと、いきなり凄まじい剣幕で私の方へ詰め寄ってきたのです。その恐ろしい形相に私は命の危険すらも感じましたよ。この女は話し合いの通じる相手ではない、私はそのとき確信しました。

 そして、私はなんとか自分の命を守ろうとそのとき偶々持っていた包丁を奥さんのお腹に突き刺したのです。……奥さんですか?ええ、倒れてからもしばらくは生きていましたが近くに転がっていた娘の首から下に這い寄って抱き締めた後、すぐに動かなくなりましたよ。




 話は終わりです。聞いていただくとわかるとおり、私はただお隣の一家との関係を良いものにしようとしただけなのです。本当に最後の最後までお隣の奥さんと和解できなかったことは残念に思います……


 ……あの、刑事さん?







 ーーこの件に関して正当防衛は適用されるのでしょうか?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 奥さんの供述、凄いぞくぞくしました 相手の受け取り方ひとつで、こうも違うのか!と よかれと思ってする事 または、気にせず行ってる「当たり前の行為」 それがこう受け止められるのかぁ!と …
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