人
真辺先生
突然手紙を差し上げる失礼をお許し下さい。
先生にお会いすることなく、自ら死を選んでしまいました。
精神科医でいらっしゃる先生が、自殺未遂の方にお会いになり、寄り添われ、自殺を図った経緯を聞き取っておられるということを知りました。一人一人の原因を理解することが自殺防止につながるのではないか、とのお考えからと承っております。
つきましては、私の事例がお役に立ちましたら幸いに存じます。
ただ生きているだけで、私には十分しんどかったのです。人は生きているだけで、それだけですごいことだと思おうと致しました。
でも今の日本で、生きているだけで許される人間はいるのでしょうか。こんなにしんどいのに、まだ何かしなくてはいけないのでしょうか。
「死にたい。」という言葉が時々出るようになりましたので、自分自身うつ病を疑い、本も読んでみました。心の症状はほとんど当てはまるように思われました。しかし、身体の症状として疲れやすさはあるものの、それ以外は残念ながら当てはまりませんでした。
ありきたりの表現ですが、死が永遠の眠りであるなら、私は喜んで死にます。目覚めることなく、眠っているのと同じ感覚ならば、どんなに有り難いでしょう。
いつか必ず人は死にます。それでもなぜ生きたいと願うのでしょうか。死ぬことができる病気になられても、辛い治療をお受けになってでも治そう、元気になろうとされる方がおられます。せっかくご自分の死因らしきものが分かられたにもかかわらず。
この手紙を書いている時点では、どうなるのか自分でもわかりません。一瞬でも怖いでしょうし、おそらく痛いでしょう。実際のところどうであったかを、先生にお伝えできないのは残念です。だた、永遠の眠りに心踊り、死んでいったことはご理解下さい。
最後までお読み頂き、どうもありがとうございます。
乱筆乱文お許し下さい。
有氏 陽子
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真辺は手紙を読み終えた。そして、顔を上げ、優しく瞬きをした。まるで目の前に誰か座っているかのように。