第10話 似ている
いつもと同じようにホームルームを受け、屋上に向かう。
今日はずっと待っていた本が届き気分が良い。
コツコツと階段を上がり、屋上の入り口の扉の前で止まる。ドアノブに手をかけたところで屋上に知らない気配があることに気付く。
自然と眉間に皺がよる。
「はぁ……」
一つ溜息をつき沈んだ心を浮上させる。楽しみしていた本を知らない人がいるところで読むのは少し嫌だが、邪魔されると決まったわけじゃない。そういい聞かせるようにしながら、扉を開いた。
靴と靴下を脱ぎ裸足で芝生の上を歩いて行く。見渡してみれば屋上の少し端に青年がいた。
芝生と一緒に彼の群青色の髪が揺れる。こちらに気付いたのか彼が私を見た。
空と同じ目だ……。そう思った。でもその空は生きているようには見えない。何も感じない。ただこちらを見ているだけの目。…………どこかで見たことがあるような気がする目だ。
普段はあまり見知らぬ人には近づかない私だが、彼の目を見てまぁいいか、と思った。
サクサク歩いて行き彼のほど近くの場所に腰を下ろす。そうすると彼のが少し驚いたような顔をした。
「何故、ここに座る」
「気分」
話しかけられたことに少し驚きながらもそう返した。
読みやすい体勢をつくり本を読みだす。『偽りと真実』たった一巻からなる本でいつも読んでいる著者の本だ。
『 心を偽るのは簡単で、だから偽っているうちに自分の心が分からなくなる。私も心を偽りすぎて“本当”が分からない者の一人だ。』
この本はこう始まり、
『 私は今もこれからも迷子。』
この文で終わる。
何故か私と似ているこの本。この著者。
いつか私も自分の心が分かるだろうか。壊れてしまった心でも分かるだろうか………………。
「…………似ているな」
「え? 」
考えていたことと同じことを言われて驚く。
「…………いや、なんでもない」
?
一体なんだったんだろう?
何を考えているのか分からない空色の瞳を見る。
何を考えているのか分からないけど、どこかその瞳は寂しそうで、悲しそうで、泣き出しそうだった。
零が卓のことを警戒しなかったのは、のちのち明らかになる秘密?があるんです。