第9話 隠し事
サラサラと頭を撫でられる心地良い感覚で目が覚める。重い瞼をゆっくりと上げていく。
「起きましたか?」
「ぅん……」
目を開くと朝の日差しと共にベットの端に座っている父様が映った。優しく撫でている手に思わず擦り寄る。
「くすくす……零?寝惚けているんですか……?」
微笑ましそうに笑いながら撫でてくれる手は優しい。
「ぉきてるぅ……」
起きたばかりで舌が上手くまわらないが、笑われたことに少しむっとしながら返事を返す。
「なら体を起してテーブルに行きますよ。早くしないと朝食が冷めてしまいますから」
そう言われて意識してみると食欲を刺激する美味しそうな匂いに気が付いた。香ばしいパンの匂いが食欲をくすぐる。とても甘い誘惑だ。人の三大欲求と言われているだけに、抗いがたい欲求が体を動かそうとするが生憎私はもう一つの睡眠の欲求の方が今は大きいのだ。っと心の中で意味が分からない反論をしながら、拒否するかのように目を閉じて寝る体勢に入る。……この心地良い時間にもう少しばかりまどろんでいたい、そんな少しばかりの我侭だ。
「はぁ……仕方ないですね」
溜息とともに存外楽しそうな声が聞こえた。
少しばかり疑問に思っていると急な浮遊感が私を襲った。
「きゃっ!」
思わず平時ではでないような声を出してしまう。それに恥ずかしく思いながら、私を抱き上げた父様を睨む。その抱き方はよく言うお姫様抱っこで、その抱き方がますます私の顔を赤くする。
「可愛い声でしたね」
「っ///」
なっなにを言うんですか父様!?
「くすくす…」
「かっからかわないで!」
「それでは行きましょうか」
まだおかしそうに笑いながら父様は歩いて行く。
「ちょっと父様自分で歩くから!降ろして!せめてお姫様抱っこ以外のにして!\\\」
ジタバタと暴れてみるがビクともしない。父様はますます楽しそうに笑いながらビクともせずに歩いて行く。
はぁ、しょうがない…か。私の力で父様に敵うわけないし……。
「……?零何を笑っているんですか?」
「え?笑ってた?」
「ええ。嬉しそうに笑っていましたよ。そんなに喜んでくれて嬉しいですね」
なにやらニヤニヤとした笑いに変えた父様はそう言いながら顔を近づけてきた。
チュッと音をたてながら額にキスをされる。
「\\\」
自分でもわかるぐらい頬が真っ赤になっている。
この甘々な空気は朝からこれはかんべんして欲しいよ……。喜んでいる自分を棚に上げてそんな風に思う。
「そう言えば言ってなかったんですが、新しい転校生を入れました」
知っていますか?と訊かれて、昨日のことを思い出す。
「う~ん……なんか変な奴なら昨日私に話しかけてきたよ」
「零に、ですか?」
「えっ、あっ、うん」
急に雰囲気が険悪になった父様に驚く。
そんなに反応するようなことだっただろうか……?
「零は昨日屋上に行かなかったんですか?」
「え? 行ったよ?」
「(と言うことはわざわざ零に会いに来たということですか)」
「? 父様?」
急に黙りこんでしまった父様を不思議に御思って声をかける。
「ああ、すいません。少し考え事をしていました。早く朝食を食べましょうか」
そう言って椅子に降ろされ座らせられる。目で父様を追い顔を見る。先程感じた違和感はもう無かった。でもさっき父様は確かにおかしかった。なにか隠てる…………。