第一話 日常の異変
僕は空っぽだ。
ドアの向こう側から声が聞こえた。
「おはよう!トニー!朝ごはんできてるよ」
母の声だ。その声で起きるのがオレの一日の始まりだ。
オレは重い体を起こし、部屋のドアを開けた。
ドアを開けた瞬間、パンとスープのいい香りがした。
「おはよう~母さん」
「おはよう、トニー。また夜遅くまで稽古していたの?」
「ふあ~~、うん」
「あんまり無理しすぎると、体壊しちゃうわよ。」
「うん、気を付けるよ」
オレの家庭は、オレと母さんの二人暮らしだ。父さんはこの村と近くの王国を守る王国騎士団の副団長だった。だが、魔物の襲撃があり、そこで父さんは戦死してしまった。
その知らせを聞いて、母は泣き崩れてしまった。その姿を見て、オレは母を守るために強くなると決めた。
それから約五年がたち、オレは16歳になった。
「今日も騎士校に行くんでしょ?」
「うん、夕方までには帰ってくるよ」
「気を付けてね。最近、道中で魔物がまた出てきてるって噂になってるし。」
「わかったよ。その時は全力で逃げるよ。逃げ足だけは取り柄だからさ!じゃ、ごちそうさま。」
「いってらっしゃい。」
「いってきます!」
オレが家を出るのは早朝、ここから近くの王国にある騎士校まで、約五時間はかかる。最初は、道中で、へとへとになって、何回も遅刻をしていた。でも、今は騎士校に一番に着くくらい体力が上がった。
「この道もだいぶ慣れてきたな。」
駆け足で、森を走り木と木の間をスイスイと抜けていく。
「お!そろそろ滝のとこだな。」
森を抜け、視界が広がり、滝が見えた。滝のほうに一瞬目を向けたその時、人のようなのが立っているのをみた。
「えっ!?」
その姿は、黒いローブを被り、左には杖のようなものを持っていて、右手は滝に伸ばしていた。
だが、その右手は、人間の手ではなく、骨であった。そして、その人影はこちらに振り向き、目が合った。フードで顔全体は見えなかったが、その隙間から見えたのは、骨だった。それはまるで、有名な魔物種エルダーリッチのようだった。
コンクは駆けていた足を止めた。そして、もう一度滝のほうを見た。しかし、さっき立っていた人影はいなかった。
「あれ?見間違いか?」
辺りを見渡したが、やはり見つからない。トニーは頭を搔きながら、また駆けだした。
ザッ
その駆ける後ろ姿を森の奥で、先程の人影が見ていた。




