第1話「第 2の人生始まった⁈」
「……んーんぅ…」
私は、まぶしい朝の光で目が覚めた。
カーテンの隙間から春の風が入り込んで、どこか甘い匂いがした。
まだ眠たい目をゆっくりと開ける。
目の前の光景に胸の奥が、ざわっとする。――知らない天井だ。
「……え?」
寝返りを打つと、見慣れない部屋。
壁に貼られたポスター、机の上の文房具、棚に並ぶ漫画。どれも見覚えがない。私の部屋でもない。
でも、それよりも――
「え、息しやすい……!?」
そのことのほうがずっと驚きだった。
昨日まで、息をするたびに痛くて。
寝返りすらできなくて。
ずっと病室で、チューブの音と心電図の音だけ聞いてた。
なのに今、胸がこんなに軽い。体がふわふわする。
カーテンの隙間から入る春の光が、まぶしくて少し泣きそうになる
――夢?
そう思いながら、
ゆっくり体を起こす。
まぶしい。
見上げた先の天井は白くて、病室のようで、でも――少しちがう。
私はゆっくり視線をめぐらせた。
花柄のカーテン。机の上には、学生鞄。
壁に貼られた中学校の制服案内のプリント。
カレンダーが、目につく。
"2025年4月7日"
(は?今年は2015年でしょ、てか、まだ冬のはずだった気がするのに、もう4月、、、?)
「……ここ、どこ?」
手のひらを見つめる。自分が記憶していた手よりもひとまわり小さい。
それに、こんなに血の気があってふっくらしている肌……自分のじゃない。
もっと細くて、白くて、何より点滴の後がたくさんあったはずだ。
ベッドから降りて、ふらふらと部屋の隅にある全身鏡の前へ。
そこに映ったのは――見知らぬ少女。
淡い髪に、少し眠たげな目。
顔を近づけても、触っても、鏡の中の子は同じ動きをする。
「……誰?」
思わずつぶやいた瞬間、鏡の中の自分が口を動かす。
「……え、これ……私?」
鳥肌が立つ。
背後で風が動いた気がして、思わずカーテンを開けた。
――知らない街。
勢いよく窓を開ける。
青い屋根、通りを行く制服の子たち。
そのうちのひとりと目が合って、
思わず「え?」と声が出た。
向こうも「え?」と顔をしかめて去っていった。
「……えぇぇ……?」
部屋に戻り、鏡をもう一度のぞく。
淡い髪の少女も、同じ顔で驚いていた。
心臓がばくばくして、膝が笑う。
頭の中がぐるぐるして、息が乱れる。
なのに――ちゃんと息ができている。
呼吸のたびに、胸が温かく膨らんでいく。
それが何度も繰り返されて、ようやく理解した。
――私、まだ生きてる。
「明日香ー!入学式、遅れるよー!」
階下から声がして、思考が止まった。
“明日香’’
聞き慣れない名前。
高校生のときの私――“紬”ではない。
けれど、鏡の中のその子は確かに息をしている。
だが、それ以外にも問題がある。
「……は? 入学式!?」
思わず叫んでしまった。
下から階段を駆け上がってくる音がして、どうしようかと手を挙げたり部屋を回ったり、変な声を出したりして、意味の無いことをしてしまう。
足音の主、おそらく先ほど多分私の名前を呼んだ人物が部屋に着くまでの時間を潰しておく。
何もしないよりは気がまぎれる、、、気がする。
そして次の瞬間――
ドアが勢いよく開く。
見知らぬ女性――たぶん“お母さん”が顔を出す。
手を挙げながら肩足立で静止している私と目が合うと、向こうも一瞬固まった。
先に口を開いたのは母親と思われる人物。
少し笑いながら、
「なに朝から叫んでんの!それに何、そのポーズ。グリコなのかラジオ体操なのか知らないけど、早く顔洗いなさい!」
だが、その顔に見覚えはない。
「えっ、どっどちら様⁈」
失礼だと思いながらも、思ったより大きな声で喋ってしまった。
病院にいた時、たまに見舞いにくる母とは違う。その事実が少し悲しい。
少しの沈黙の後、
お母さんが眉をひそめて、半ば呆れ顔になる。
「なに言ってんの、寝ぼけてるの?アニメの見過ぎかしら?ほら早く支度しなさいよ!」
そう言い残してドアを閉める。
私はその場に呆然と立ち尽くした。
鏡の中の“新しい私”が、ほんの少し笑った気がした。
そして、ふとこんな言葉が頭に浮かぶ。
――これが、“第2の人生”ってやつ?
外からは鳥の声、そしてどこか遠くで子どもたちの笑い声。
春の風がカーテンを揺らす。
そんな部屋の様子が、私の考えをさらに実感させる。
私はまだ、生きてるんだ。




