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三題噺もどき4

夏の日常

作者: 狐彪

三題噺もどき―ななひゃくにじゅうご。

 




 喧しいセミの鳴き声が部屋に飛び込んでくる。

 窓ガラス越しでもうるさいと思っていたのに、直接聞くとさらにうるさい。耳を覆いたくなるほどに盛大な合唱が鳴り響いている。

 彼らは彼らで次につなげるための大切な時期なのだろうけど、勘弁してほしい。

 今朝なんてその鳴き声で起こされたくらいだ。

「……ふぁ」

 最近はまた、少し暑苦しい日々が続いている。

 おかげで寝不足とまではいかなくても、若干本調子にはなっていない気がする。

 今何か襲われでもしたら案外あっさりやられるかもしれない。

 ……ま、こんな明るい夕方の時間に襲ってくることはないのだけど。その前に自分が死ぬからな。夕方とは言え、夏のこの時期はまだまだ明るい時間だ。

「……」

 開けた窓ガラスを閉めることなく、その先にある網戸も開ける。

 更に蝉の鳴き声がうるさくなった気がしたが、気のせいだろう。

 ベランダに置かれているサンダルをこちら側に引き寄せ、足をかける。

「……」

 後ろ手に網戸―ではなく、窓ガラスを閉めながら、ベランダに出る。

 置かれている室外機が、ものすごい音を立てながら回っている。

 陽が直接当たらないように、カバーをしたりしているが、果たして意味があるのかどうか……生憎私にはわからない。まぁでも、効きはよくなったような気がする。

 さすがにこう暑い日々が続くと、クーラーは手放せない。基本的にどちらか一人は一日中家にいるし、寝ている間もつけっぱなしである。……電気代の事は考えないでおこう。

「……」

 片手に持っていた煙草の箱の中から、一本取り出し。

 ハーフパンツのポケットの中に入れていたライターで火をつける。

 カラリとした夏の空気の中に、煙がゆっくりと溶けていく。

「……ん」

 眼下に広がる住宅街。

 目の前の家の塀には猫が寝ていたが、何かに気づき、逃げるように走っていく。

 その猫が向けた視線の先から。

 お祭り騒ぎのように、何やら掛けてくる足音と、それに伴って子供のはしゃぐ声が聞こえてきた。

 元々住んでいる子供たちが祖父母の家から帰ってきたのか、それともこの辺りが実家だと言う人々の子供なのか。

「……」

 見て居れば、いかにも夏の少年という装いの子供たちが走り回っていた。

 半袖短パンに帽子に虫取り網に虫カゴ……ここらのどこで虫取りができるのか知らないが。あぁ、あそこの公園はたまに虫が居たりはするが。ついでに、この辺にいるであろう蝉も取ってくれるとありがたいな。

「……」

 走る彼らをぼんやりと見ていると、住宅街にまだ残っている雨の痕が視界に入る。

 追い付いていないのか、どうしようもないのか。

 電柱の足元には、どこから流れてきたのか分からない草の塊がまとわりついていた。さすがに大きなものは落ちていないが、誰の物とも分からない物が所々に落ちている。

 この辺りはそうでもなかったはずだが、さすがに多少水はたまったのだろう。

「……」

 そういえば、昨日の少年は何に乗って流されたのか分からずじまいだった。別に気にすることでもないだろうと放って置いたのだ。

 結局、帰りに憑いて来ていたし、雨は関係ないのかもしれない。……もう一度送りなおした。

 縛られていたのが動けるようになっただけなのか、まぁ、あそこにとどまり続けるよりは飽きることもないだろうから、良いか。

「……、」

 短くなった煙草を、灰皿に押し付け、火を消す。

 まだまだ元気に遊び足りないように走り回る少年たちを横目に、私は部屋に戻るとしよう。

「……」

 彼らのように無邪気に駆けまわることが、あの少年にも出来るようになったのなら、今度公園にでも連れて行ってみようか。

 ブランコも気にいるだろうし、犬は……苦手かもしれないがまぁ、遊んでみればわかるだろう。





「今日はどこに散歩に行かれるんですか?」

「どこ……決めてないが……」

「公園と墓場以外にしてくださいね」

「……ん」










 お題:雨・猫・お祭り


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