表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
刀闘記  作者: 燈海 空
風銀立神 篇
9/14

ー捌ー

 

 男の胸を行ったりきたりする刀のきっ先は血に塗れている。刺して、抜くたび、鮮血がしろがねからしたたる。男は悪魔だ。夜遊び、女遊びをしそうな服装をしている。


「お……、おい」須賀が、おそるおそる話しかける「なにやってんだ」

「なにってわたし、悪魔祓いです」


 女子高生は、真面目まじめそうな見た目そのままの雰囲気で喋った。


「それは、わかるんだが……」

「ええ。下位ですから。三七秒でかたがつきました」

「その刀は、普通の刀だろ?」須賀が言った。「妖刀だったら、そこの悪魔はとっくに塵になっているはずだ」

「そうです。よくご存知ですね」

「なにがしたいんだ」

「なにって、仕置きです」

「しおき、おしおき……?」

「はい」

「こいつが……、よっぽどなにかしたってのか」

「悪魔ですもの。わるいことしかしません」

「勝負がついたんなら、はやく終わらせればいいだろう!」

「わたし、きらいなんです。下位魔の中でも、こうゆうのがとくに」

「こうゆうの?」

「ええ。女性を肉体としかみていない、こうゆうのが。だから、お仕置きです。死んでからも後悔しないと、意味ないですからね」


 捨てるように言ってから、刀を突き刺す反復行動を再開する。ついに秋がしびれをきらした。刀を抜き、悪魔に近づく。


「お、おい秋!」


 須賀は止めようとしたが、秋はそのまま悪魔に向かう。終わらせるつもりだ。しかしその歩はぴたりと止まった。いままで悪魔を突き刺していた刀が、秋に向けられたために。


 ちょうど、目線の高さまで持ち上げられた赤黒いきっ先が、血のしずくを落とす。


立神たちがみさんちの。秋くんです?」


 女子高生は、悪魔から目線をそらさずに、秋に話しかける。


「ああ」

「なんの用です?」

「そいつを斬る」

「あなたが?」

「ああ」

「そうですか。もうすこし待っていただけませんか」

「待てない」

「なぜ?」

「趣味のわるい遊びを、ながめる趣味はない」

「それなら、黙ってここから立ち去ったらいかがです?」

「断る」

「では、この悪魔が死んだら、代わりに遊んでくれますか?」

「断る」

「なぜ?」

「趣味が合いそうにない」

「そうですか」

「どけ」

「ここはあなたの土地ですか?」

「どけ」

「あなたに従う理由がありません」

「どけ!」


 秋は刀を振り上げるも、すぐに防御の体勢たいせいを取った、女子高生が秋に向かって刀を振ったために。


 金属が重なる音。つづいてぎりぎりときしるような音。冷たく湿った刃と、乾いた刃が鍔迫つばせり合う。


「おい、よせ!」須賀が銃を構えた。銃口は女子高生に向けられている。「なんのつもりだ。おまえらがやりあったら、どっちも怪我じゃすまないだろう!」


 女子高生は至って無表情。

 その身体から冷気がただよってくる。


「ふたりとも、刀をおろせ!」


 須賀がもう一度、強めになだめる。


「なにを考えてやがる……」


 秋は奥歯を噛んだ。視線は強く、にらみを効かせる。


「なにって、悪魔がきらいなんです。それだけです」


 女子高生の身体から、より一層強い冷気があふれ、男ふたりの体温をみるみる奪ってゆく。血液が凍りはじめる。


「くっ……」秋の奥歯が震える。

「寒そうですね。わたしは暑いくらいです。立神さんと言えば、風の能力ちからでしたっけ。うらやましい力ですね」


 軽い金属音が鳴る。女子高生の方が秋の刀を払い、鍔迫り合いを終わらせた。左手でもう一本の刀を抜いて、刀身を悪魔の首に一振りをあびせる。悪魔は塵となり、その体を拘束していた氷だけがむなしく残る。


きょうが冷めたとでも言うんですかね、こうゆうとき」女子高生は無表情で言った。二刀をそれぞれ、腰のさやに納める。「邪魔をされたとは言え、同職どうしょくに刀を向けてすみませんでした。ところで、あなただれです?」


 女子高生は、須賀の方を見た。まるで、野生の動物を観察するような目だ。


「須賀、刑事だ。あんた、どこの?」

三代東子みしろとうこ花明応高校ばなめいおうこうこう二年。三代家七代目悪魔祓い」


 淡々とした、自動音声みたいな声の自己紹介だ。


夜分やぶんにお騒がせしました。あぁ、そういえば、悪魔に襲われそうになった女の子、助けましたから。無人駅とはいえ、監視カメラくらいつけて下さい。そう、刑事さんから鉄道会社にお伝えください。それでは」


 東子は心のこもっていないお辞儀をした。すたすたと姿勢よく、淡白な歩き方で、あっという間にふたりの視界から消えた。それから駐車場に止めていた青いスクーターにまたがり、颯爽さっそう帰路きろにつく。


「なんなんだよ……」秋は刀を納める。

「長袖を着てくりゃよかった…」須賀は寒そうに両腕を組み、上腕じょうわんを手でこすった。


 壁と地面に張り付いた氷が溶けて、水溜りができた。真っ赤な血と、灰色の塵が、冷たい水に混同こんどうしてゆく。そこに妖怪でもいたかのように。


「雪女って、この世にいると思うか」須賀が言った。

「ついさっきまで、ここにいた」

「だな……」

「湯船につかりたくなった」

「お、おなじこと考えたな。どうだ、一緒に入るか?」

前言撤回ぜんげんてっかい。シャワーでいい」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ