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刀闘記  作者: 燈海 空
風銀立神 篇
4/14

ー参ー


「おれがもっと強かったら、父さん、生きてたかな」


 ぼんやりとした視線を庭に投げながら、あぐらの秋が言った。


「七歳の子供がどれだけ強くても、上位魔じょういまにはかなわんよ。いま、おまえが考えるべきは、おまえの命のことじゃよ」

「おれなんて死んだって……。悪魔祓いはほかにもいる」

「バカもの」

「死んだって悲しむのは母さんと、じいちゃんくらいだよ」

「わしと、かすみを悲しませるのは大罪じゃな」

しゅう、ほら、やっぱりご飯を食べないと」


 かすみが重くなりかけた空気を変えようとする。


「いてっ! なんだよ……」


 秋の足首に電気のような痛みが走った。銀次が噛みついたせいだ。


「いつまで腐った顔しておる」

「だからって噛むことないだろ……」

「はよ、メシ、食え」

「わかったよ……」

「食わねば食われる。言い伝えじゃ」

「それ、何億回も聞いた…」

「35億」と言って、銀次は妙な動きをした。

「おじいさん、知っているのですか」かすみが笑う。

「わしも流行には敏感じゃでの!」老人ハムスターが誇らしげに言う。

「それもう古いよ」秋は溜息混じりに言った。



 秋が居間でそうめんをすすっていると、訪問者を知らせる呼び鈴が室内にひびいた。


「だれかな?」


 かすみは座布団から立ち、玄関に向かった。玄関にいたのは、半袖の水色のワイシャツと、黒のスーツパンツすがたの中年男性。ネクタイはしていない。


「あら須賀さん、いつもどうも」

「世話になっております。秋は?」

「居間です。いまちょうど、食事を」

「あがっても?」

「ええ。あの子、きのうは大した事なかったみたいで」

「そうですか、そんな気はしました。現場を見たかぎりの想像ではありますが」

「どうぞ、上がってください」

「失礼します」


 かすみの丁寧な手に導かれるように、須賀は頭を低く、靴を脱いだ。


「邪魔するぞぉう」


 居間でスイカを食べる秋の背中に、須賀が声をかける。


「どうしたの。おっさん」

「おっさん言うな」

「おっさんじゃん」

「おっさんだがな」


 須賀は、ちゃぶ台をはさんで秋と向かいあった。

 あぐらもよろしく、さっそく本題に入る。


花山峠かざんとうげ、知ってるか?」

「うん」

「そこで、みょうな事故があってな」


 しゅうは黙り、須賀すがの次の言葉を待った。しゃりしゃりと、スイカを噛む音だけが秋の口から鳴る。


横転おうてんしていた二輪車と、そのドライバー。恐らく方向は正面から。三本の長い刃物に切り裂かれ、人間の体ごと四分割されたような形で発見された」

「正面から?」

「これだ、めしのあとでわるいが、見てくれるか?」


 秋はこくりとうなずく。テーブルに置かれた写真には、三本の長い刃物に正面から突っ込んだような斬られ方で、分割されたバイクと人間の遺体が写っている。


「人間とバイクが野菜みたいに斬られるなんて、悪魔じゃなきゃ無理だと思うが……」須賀が神妙に言う。

「翼でとんでるだけのやつが、走るバイクとすれ違いざまに、バイクごと人を斬ったとも考えられるけど。なんか、斬ったほうもバイクに乗ってる気がする」

「だとしたら、最近やたらと通報が入っているストリートレースに関係、あるかもな」

「だから、その欲だよ」

「レースに勝ちたい、って欲か?」

「レースに勝って、相手を負かしたい。負かしたら」

「殺す……、か」

「まだ、個人的なうらみで殺しただけかもしれないけど。時間が経てば、見境がなくなって、《《だれでもよくなる》》。無関係の被害が出る前に片付けたほうがいいよ」

 



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