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刀闘記  作者: 燈海 空
風銀立神 篇
16/55

ー拾伍ー

 白髪の男は片手を挙げた。すると近くにいた警官が首をおさえて苦しみだした。秋は刀を抜き、その場から駆けだす。


「お、おい! 秋っ」須賀が声を投げる。


 軽々と飛び、その首筋を目掛けて刀を振ろうとする——振ろうとしたが、秋の躰が静止してしまう。空中で振りかぶったまま、写真のように止まってしまった。


「おやおや、風の能力も役に立たなきゃダメじゃないか……。ヘビに噛まれただけで止まってしまっては無様だよ」

「おまえは……」秋はどうにか口を動かす。「白魔——人を悪魔に変えて遊ぶ者——ほんとうにそうなのか」


 白髪に赤い目。そして干支えとの動物に準じた異能力を使う、知的悪魔がいる。悪魔祓いなら、だれしもがその存在を知っている。だがそれは歴史書に出てくるような過去の話であり、現代で遭遇した者はいない。これまではいなかった。


「ぼくも白魔がいるとは思わなかったよ。なんせ、戦国時代にはほろんでいたハズだからね」

「彼女も、おまえが悪魔にしたのか」

「まぁ……、そうだね。ここに殺意があるよって悪霊あくりょうに紹介してあげたんだ。すこし普通とはちがう力を分け与えてから、ね」

「あんな唾液をまき散らすやつは見たことがない。余計なことを——」

「マンネリするよりはいいじゃないか。爪を振るだけが悪魔じゃない——そのほうが楽しいでしょ?」


 話しながら白髪の男は、コンテナの上で行ったり来たり——のんきに散歩をしている。途中、指をパチンと鳴らすと、苦しんでいた警官から《《なにか》》が離れた。首を絞められていた反動で、げほげほと咳こみながら、うずくまってしまう。


「ところで、秋くん。東子とうこには、会ってくれたかい?」


 白髪の男はそう言うと立ち止まり、こちらにくるっと体を向けた。そのツンとした切れ長の目はどこか、東子に似た面影おもかげを感じる。


「あぁ、会ったな」

「そっか。また会ったら、伝えてくれない? こっちにおいでって。妹に伝えて欲しいんだ」


 妹と聞いた須賀は、目を見開いた。


「おまえ、まさか三代西威みしろせいか!」

「おじさん、ぼくを知っているの?」見下す目線。

討魔第参分隊とうまだいさんぶんたいの隊長……! ある任務で、第参分隊は壊滅かいめつした。悪魔の爪ではなく、刀による裂傷れっしょうで全員死んだ。隊長だった三代西威——おまえただひとりの失踪という謎を残して、全員だ!」


 須賀の言葉をしっかり聞き届けた西威は、パチパチと拍手をした。口角は笑っているが、目は死んでいる。


「刑事さん。なぜ、三代家みしろけの悪魔祓いが刀を二本、持っているか知ってる? 左手で抜く刀は悪魔用。右手で抜く刀は人間用。三代の家訓は、己以外を信ずるな——」


 西威はコンテナから軽々と飛び降りた。コンテナの扉をロックしていたかんぬきの金具を外す。


「もういいよー」と指を鳴らし、秋を拘束から解く。透明な蛇がスルスルっと、秋から離れたように見えた。


 開いたコンテナの扉のまん前に落下した秋はそのなかでうごめぐ、太くて長い物体を見た。


「新たな命、そのお相手をよろしく、ね」


 そう言って西威は去ろうとする。

 しかし視界に入ったのは、見慣れた面影——


「東子! 来てくれたのか! お兄ちゃん、嬉しいよ!」


 西威は歩きながら両腕を横に大きく広げ、そのまま抱きしめるつもりで妹の名を呼んだ。


 東子はただそこで、黙って立っている。

 メガネが白く反射し、その表情まではわからない。


「人間にしがみつく必要はない。こっちにおいで」


 西威は歩み寄る。しかし彼女は刀を抜いた。二本の刀のうちの、左手で抜く悪魔用の刀を西威に向けた。


「お兄ちゃんを、返せ。くそ白髪悪魔が」


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