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推定序列

挿絵(By みてみん)


「チプレッソ」ことサルヴァトーレ・ガストルディは

「ジェラルディーナに協力のお願いをした」

その後で、妖術師仲間と連絡を取った。


妖術師達の集会場ーー。


同じ人種同士の仲間意識と互助関係。

要はギルドと似たようなもの。

そういった繋がりが妖術師同士の間にはある。


「自分達の労働力が安く買い叩かれたりしないように」

という点での利害関係の一致があるのだから

性格面で気が合わなくとも妖術師仲間は仲間だ。


それに妖術師同士の寄り合いに顔を出すと面白い話を聞ける。

「婚約破棄賠償金詐欺」

をつつがなく実行するのに何か役立つネタが欲しかったのだが…


今回の寄り合いで皆の噂の俎上に上がっていたのは

「アルカンタル王国の『アルカウドン』」

という妖術師に関するネタだった。


「『アルカウドン』と言えば…」

「近隣国一帯の違法薬物流通の元締めだなぁ」

「さぞ儲かってるんだろうな」

と羨ましい限りだが


「その『アルカウドン』がアルカンタル王国占星庁に大人しく首輪を付けられる事になったらしい」

という不穏な噂が出回っているのだとか。


「それ、アルカンタル王国占星庁の願望だろう?」


「たまに願望とか妄想をわざと噂話で流してくるからアルカンタルの裏王家は性格悪いねぇ〜」


「でもそれで『アルカウドン』の陣営は『もしかしたら本当かも』と内部不和の種を植え付けられるんだから、アングラに対して有効な風紀紊乱って事になるな」


先に噂話を流して、流言に動揺した敵が仲間割れを起こしたら流言を真実へするべく籠絡を仕掛ける。

そういう手口でアルカンタル王国占星庁に籠絡された妖術師は少なくない。


だがその手の連中はかなり厳選されているようで…

アルカンタル王国では余程特技が秀でた妖術師じゃない限り

並大抵の妖術師は普通に狩られる。


(「アルカウドン」か…。今はどんな姿でいるのか…)

妖術師は長生きなので他国の妖術師に関しても全く知らない仲ではない。


だが

「次に会うときには互いに違う名前、違う姿」

という事も少なくない。


(「アルカウドン」自体に興味はないが、アルカンタル王国の情報は貴重だ。今代予言者について情報はないものか…)


残念ながら、今代予言者に関する情報は誰も持っていなかった。


その代わりのように

「推定序列第一位の『スペクルム』と、推定序列第二位の『ファルチェ』が今回の人生では嫁を貰って家庭を作る気でいるって公言してるんだってさ」

という言葉が耳に入ってきた。


因みに推定序列とはリベラトーレ公国が勝手に妖術師に優先順位を付けてるらしいので、それを予測して妖術師達はそう呼んでいる。


「チプレッソ」は推定序列第三位なので、「スペクルム」と「ファルチェ」は「チプレッソ」よりも占星庁に重宝されている事になる。


「チプレッソ」と仲の良い「オドル」はニヤニヤ笑いしながら

「推定序列第三位の我らが『チプレッソ』も今回は結婚するとか言うんじゃないだろうな?」

と尋ねてきた。


周りは聞き耳を立てている…。


「チプレッソ」は

「今代の予言者の予言可能期間が長いなら結婚はしないと不自然だろう?一応こっちは社会的には貴族令息な訳だからな」

と肩をすくめた。


「…お前、継ぐ気になったんだ?ガストルディ侯爵位…。散々に恨みを買ってる伯父の後を継いだら占星庁の贔屓があっても暗殺の魔の手に捕まるかも知れないってビビってたくせに」

「オドル」が目を丸くする。


「…どの道、継ぐのが侯爵位じゃなくても子爵位か男爵位は譲渡される。侯爵にならずとも貴族は貴族だ。立場が強い訳じゃなけりゃ貴族で独身を貫くのは難しいだろうが」


「だから俺は継承権を破棄したぜ?」


「アベラルド・フラティーニ侯爵だったな。お前の今の肉体の血縁上の従兄弟…」


「物分かりが良い、実にできた人間さ。見た目だけは俺の今の顔とよく似てる」


「…会った事はないが、フラティーニ侯爵、『転生者』だろ?『有能だ』と評判が高過ぎる」


「そうだろうな。俺は瘴気濃度を測る魔道具も瘴気看破魔道具も持たないからよく分からないが、刑吏一族には『転生者』が生まれやすい。しかも前世の記憶もバッチリ持ってて皆有能」


「他人事みたいに言うんだなぁ。相変わらずマイペースなヤツだ…」


「代々異端審問庁長官を務めていたフラティーニ侯爵が今代ではその座をおわれているんだ。

刑吏一族が大公家・公爵家ならびに占星庁の権力を脅かす時代は二度と訪れない。

俺は政争と無縁に暮らせるものと自負してるよ」


「そう思いたいが、刑吏一族以外の『転生者』は前世の記憶を持たない者が多くなっている現状では、占星庁も刑吏一族を勝手に脅威に感じる事を止められないんじゃないのか?」


「困った連中だね。まさか刑吏一族の『転生者』達は『刑吏一族以外の転生者の多くが前世の記憶を持たない』という事に関して何も知らず、その事実を想像もしないんだろうな。

大公家・公爵家・占星庁が祀り上げる神子は運気の恩恵を持たず、この国の最高権力は既にハリボテ化してしまってる」


「20年くらい前からその傾向に気付いて刑吏一族の力を削ぐ方向で動いてるんだから、占星庁の権力欲の逞しさだけは凄まじいと感心するよ」


「『前世の記憶を持たない転生者は徳力デュナミスの搾取ができない』という、たったそれだけの情報を隠蔽するだけでハリボテ権力が未だ実質的に機能してるように見せかけられてるのがスゴイねぇ」


「本当にこの国が神子至上主義なら、フラティーニ侯爵が記憶持ちの加護有り『転生者』だった場合、神子は間違いなくフラティーニ侯爵という事になる筈なんだがな。なかなかに、この国も闇が深い…」


「占星庁の狡賢いところは、排除しながら、籠絡の手も差し伸べるところだね。

アベラルドの正妻クレメンティーナは元バルダッサーレ伯爵令嬢。夫婦仲はイマイチらしいけど、舅のバルダッサーレ伯爵はアベラルドに良くしてやってるって話だ」


「『いずれ神子として擁立する事になるかも知れない』と保険を掛けたいなら、初めから排除せずにいた方が良かっただろうに」


「占星庁も一枚岩じゃない。知ってるだろ?前世の記憶を持たない加護有り『転生者』をハリボテ神子として傀儡化して実権は自分が握る、という手口で味を占めてる者達もいる。

その手の連中は徳力の搾取に伴う運気と能力の向上という現象に関して甘く見過ぎている」


「無能の傀儡を神子として擁立して、それで国がおさまると本気で信じていられるのには、ちゃんと原因があるんだろう?」


「それが『スペクルム』と『ファルチェ』の話に繋がるんだよ」


「まさか…。推定序列第一位と第二位を『神子候補の側近に』とか考えてるとかじゃないだろうな?」


「ご明察〜」


「…頭が痛くなるような話だな。バカ過ぎる…」


「チプレッソ」と「オドル」がプライベートな話を続けている傍らでは…



他の者達は

「要は推定序列一位から三位までの上位連中が全員今回は所帯を持つつもりでいるって事だな?」

と深刻そうな表情で結婚問題に関して語っていた。


「…嫁に対して変に情が移ったらどうするんだ?」


「嫁が女妖術師なら情が移っても問題無さそうなんだがな」


「そうは言っても、女妖術師ーー魔女ーーは人工的に生み出そうとして生み出せる存在じゃない」


「それは俺達も同じだろ?適性が有ったから『肉体乗り換え』なんて離れ技をできるんだ」


「…難儀だな。下手に一般人に心を持ってかれると、1人残されて生き続けるのが辛くなる」


彼らの言い分は妖術師にとって永遠について回る問題だ。


誰かを好きになっても

それが妖術師ではない一般人なら

「ずっと一緒に居る」

という訳にはいかない。


必ず来る別れ。

それを知っていて縁を結ぶ先に訪れる喪失感。


妖術師なら誰もが一度はそれを経験している…。


なので結婚する妖術師は時に仲間内で

「勇者」

と呼ばれるのだ。


その日ーー


首都の妖術師達の間では

「勇者が3名出た」

という話があっという間に広まったのであった…。



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