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切り札

挿絵(By みてみん)


アンジェロが

「サルヴァトーレ・ガストルディの場合は生粋の平民という訳ではなく、元々ガストルディ侯爵の弟の息子なんですね」

と指摘すると


アベラルドは

「この国の妖術師は自己証明できれば貴族に引き上げてもらえるから普通は貴族と縁のない平民を攫って肉体を奪う事が多いんだが…。

妖術師の中には高度な魔道具技術を持つ者もいて、そういう連中は『元々のスペックが高い個体』を狙うものらしく、それが貴族家子息に該当する。

その結果、能力の高い妖術師は占星庁による介入がなくても貴族ポジションに就いている事が多い。

そういった者達は占星庁にも重宝されてより優遇される」

と答えた。


「…サルヴァトーレ・ガストルディ。ジェラルドに付き纏ってるらしい眼鏡の若造…。意外に大物だったんですね」


「『チプレッソ』という呼び名の妖術師が活躍する期間は眼鏡型魔道具の普及が充実すると密かに有名らしいから、アイツ、殆ど正体を隠してないな」


「そんなヤツいたんですね…」


「…ガストルディ侯爵の後継者候補は3人。サルヴァトーレ・ガストルディはその1人に過ぎないが、能力的に見ても、占星庁との繋がりの深さから見ても、当人が『面倒くさい』だのと拒んだりしないなら、次期侯爵はサルヴァトーレで決まりだろうな」


「ん?…侯爵位を、『面倒くさい』とか言って欲しがらないヤツなんて居るんでしょうか?」


「妖術師という人種は大層気まぐれだ」


「アベラルド様、詳しいですね?」


「…私に庶出の従兄弟が多数居るのは知っているだろう?侯爵家当主があちこちで子種をばら撒くような浮気をしまくる事はできないんで、基本的に代々フラティーニ侯爵は身持が堅いが、その兄弟はその限りではない。

父にも庶出の従兄弟が多数いたし、その手の親戚はとにかく数が多い。

私の庶出の従兄弟の中には妖術師もいて、ソイツはフラティーニ侯爵位に充分手が届く程の高スペックの持ち主だったにも関わらず『面倒くさい』という理由で継承権を放棄してるんだ。

あの手の人種は利己主義の塊だからな。…『民のために』などといった公共の福祉を重んずる貴族精神はひたすらに気持ち悪いんだと」


「「うわぁ〜…」」

思わず、ジロラモとアンジェロがハモって声をあげた。


「つまり妖術師という人種は博愛主義とは真逆の理念で生きているという事だな。まぁ、瘴気の影響を受けない人間は妖術師でなくとも、社会通念や一般的常識感覚に疎い者が多いがな。

しかも瘴気の影響を受けない人間にはフラティーニ家の能力が利きにくい」


「…そんなヤツがジェラルドにちょっかい掛けてるなんて、大丈夫なんでしょうか?」


「サルヴァトーレがジェラルドを害する事はないだろう」


「ですが占星庁の思惑が見えません。占星庁がジェラルドを邪魔だと思えば害するのでは?」


「その辺はサルヴァトーレが気付くかどうか次第じゃないのか?占星庁がジェラルドを害する可能性があるとサルヴァトーレが危惧して、万が一の場合に備えた対応をするなら占星庁の方でも大事な妖術師を怒らせるような真似はしないだろう」


「だと良いんですが。…それより、ファビオ・チェッキーニ伯爵は『転生者』ですよ。以前、カッリストやチェザリーノと歳の近い『転生者』をリスト化してお渡ししましたが、そのリストの中の1人です」


「らしいな。加護無し『転生者』とは思えない幸運な商人。おそらくカッリスト達の魂の兄弟姉妹グループの1人だな」


「カッリスト達が【強欲】を始末した恩恵に乗っかって運気が逆転してるヤツなんでしょうね」


「サルヴァトーレがジェラルドに話したところによると、ガストルディ侯爵はチェッキーニ側の有責で婚約破棄して賠償金をせしめるつもりらしいが、ファビオ・チェッキーニが幸運な『転生者』である以上、上手くいく見込みは薄そうだな」


「…それは、『チプレッソ』の知恵の見せ所なのでは?」


「その『チプレッソ』は今現在恋愛脳で頼りにならない状態らしいんだがな」


「ジェラルドって、ダレッシオから無事逃げ出してきた猛者だろ?当人がしっかりしてるんなら大丈夫なんじゃないですか?」


「………」


「書類上だけでジェラルディーナ・フラッテロを知ってると、ジロラモみたいな考えになるんだろうが…。実際、彼女は頼りなさそうな外見だぞ?」


「そうなんですか?」


「あ、いや、私の方の偏見もあるのかも知れないな。初対面の時にガタガタ震えられたんでな」


「…【強欲】の加護持ち『転生者』と目が合って震えだす『転生者』は徳力の搾取が通常よりも多いって事でしたっけ?」


「ああ」


「なら彼女の【強欲】を殺せば、運気の逆転も凄まじい事になる訳だ?」


「ジェラルディーナは案外切り札になるのかも知れないな。特に騎士ウケが良い。うちのルクレツィオもそうだが、中央騎士団の見習い騎士の幾人かが『婚約したい』と情熱的な手紙を送り付けてきた」


「随分とモテますね」


「…彼女の【強欲】と思しきトリスターノ・ガストーニには前世の記憶がなくて、しかもトリスターノはジェラルディーナに気が有るらしい」


「そりゃまた…」


「クレメンティーナの場合と同じだな。記憶のない【強欲】は見目麗しい異性の『転生者』に惹かれやすい」


「サンプルとしては面白そうですけど」


「私としては余り他人事とは思えないな。記憶のない【強欲】はおそらく前世で『搾取状態の行き詰まり』を感じていた筈だ。

私も次の世では記憶を持たない【強欲】として無防備に生きる事になるのかも知れない」


「…だからアベラルド様は奥様に同情的というか、好意的なんですね?」


「そうだな…」

アベラルド・フラティーニは妻の顔を思い浮かべる。


物騒な【強欲】とは思えないような

低次元で意地の悪い

それでいて可愛らしい自分の妻をーー。



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