賠償金詐欺の婚約
ガストルディ侯爵、ヴィルジリオ・ガストルディには3人の養子がいる。
ヴィルジリオは3人の養子の中でも、ことの他甥のサルヴァトーレを気に入っている。
お気に入りの理由にはサルヴァトーレが甥であり、血縁的に他の養子よりも自分に近いというのもあるが…
サルヴァトーレの性格も実はかなり関係している。
サルヴァトーレには気の利いた事を言える才覚がある。
それがヴィルジリオには好ましく感じられるのだ。
そんなヴィルジリオはとうとう
「次期ガストルディ侯爵の妻に」
と、後継者のための婚約者を選んだ。
政略結婚の相手方の家とは
「事細かな部分にまで言及して取り決めをする」
のが普通なので…
当然、婚約破棄に関する項目も契約に含まれる。
それらの事に関してはガストルディ侯爵家の執事長が
「旦那様もお人が悪い…」
と苦笑をしている。
そうーー
ただの婚約ではない。
実のところ
「婚約者側の有責で婚約破棄して、賠償金を毟り取るのが目的の婚約」
なのである。
養子のうちの誰を後継者にするのかは未だ指名していない。
ヴィルジリオは侯爵位の他、子爵位、男爵位も持っているので、それらも養子達に譲るつもりでいる。
とりあえず養子達を次期侯爵夫人候補の婚約者に会わせてみようと思っている。
そして
「この婚約の意味をちゃんと理解した振る舞いができる者に多くのポイントを与えよう」
と内心で決めている。
「さて、『カネのなる木』として育った子はどの子だろうか?」
ヴィルジリオは独りほくそ笑むのだった…。
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そうした事態によってーー
一番迷惑をこうむったのは
もしかしたらジェラルディーナなのかも知れない。
またもサルヴァトーレ・ガストルディに押し掛けて来られたのだ…。
「暇なんですか?」
とツッコミを入れたジェラルディーナに
「暇なんですよ」
とすかさずサルヴァトーレが返す。
「本当に、王立学院の最終学年て、やる事がないんだ。一年生と二年生の前半で学習課程が終了して、その後は資格習得のための資格試験用学習。
資格を取れるだけ取ってしまえば、後は就職活動のみ。俺は就職先が決まってるんで、正直暇過ぎる」
(そう言われても、こっちは毎日やるべき事があるんだけどなぁ…)
とジェラルディーナはついつい溜息を漏らす。
「それはそうと、先日の話、どうなった?俺との付き合いに関しては『一度持ち帰って上と相談してから結論を出させていただきたい』って言ってたでしょ?」
サルヴァトーレが自信満々に尋ねるのが何とも苛つくのだが…
ジェラルディーナは澄ました顔で
「ガストルディ令息とは『親しくするように』と言われました」
と事実を述べたところ
サルヴァトーレが満面の笑みを浮かべたので
ジェラルディーナは少し怯みそうになった。
「…上からの指示でお付き合いする事になりましたと言われて、そんなに嬉しいものなんでしょうか?」
「言質を取れたのが嬉しいんだよ。お嬢さん」
「…なぜでしょう?ガストルディ令息のお顔が、今とても残念な事になってるんですが」
「ちょっと助平な事を考えてみたから?…まぁ、若い男女が親交を結ぶって、つまりはそういう事だから。…ジェラルディーナ嬢はちゃんとその辺は理解できてるんだよね?」
「それは理解してます」
「ふふっ。良かった」
「…それで?今日のご用はそれだけですか?」
「いいや。本題は今から話そうと思ってたんだ。まぁ、ちょっとした相談というか、愚痴を聞いてもらいたいというか、お願いしたい事があってさぁ」
「相談?愚痴?」
「うん。実は伯父上が次期ガストルディ侯爵夫人として婚約者を決めてしまったんだが、こっちは誰が次期侯爵なのか、誰も指名されてない状態だ。
お陰で養子の3人がそれぞれ婚約者令嬢と1人づつ会いに行かなくちゃならなくなった訳だ」
「…そういうことって、あるものなんですね?」
「いや。普通はない。伯父上が傲慢なんだよ。だいたい相手の令嬢に失礼だろうが」
「ですよね。でもそれって実は『相手の令嬢から気に入られた養子が次期侯爵の指名を受ける』とか、そういう事なんじゃ…」
「うん。そう考える人もいるよね?多分ダヴィードもエラルドもそう考えている筈だ」
「ダヴィード様、エラルド様も侯爵家の養子の方ですよね?」
(ダヴィード・ガストルディ…。『転生者』でもない、拷問係適性者でもない、ただの遊び好きの普通の人だったよな…)
と、以前学院寮で見た若者を思い浮かべた。
「そう。ダヴィードは同じく学院に通ってる。女遊びが好きなだらしないヤツだけど、当人曰く『交流の幅を広ける努力をしている』という事らしい。
『婚約者令嬢に気に入られた者が次期ガストルディ侯爵』という事なら、ダヴィードが一番有利かなぁ?」
「ガストルディ令息ーー。いえ、サルヴァトーレ様は、婚約者令嬢側の意向は次期侯爵候補選びに全く関係しないとお考えなのでしょうか?」
(ダヴィードもエラルドもガストルディ令息なんだよね…)
と思いながらジェラルディーナはサルヴァトーレの名前を言い直した。
「…堅いな。君は。俺の事はサリーとかサリー様と呼べば良い。俺もジェリーと呼ぶから」
「…わかりました」
「昨夜、ダニエーレにダレッシオでの調査報告書の受け取りに関して依頼したんだけど、彼、君の事を『ジェリー』呼ばわりしてたんで、少し嫉妬してしまったよ。
聞けば、君がダレッシオから逃亡した時に紛れ込んでいた商隊の護衛に彼が付いてくれてたんだってね。
『ジェリー』とは仲良しさんなのかな?と心配したら『ベッタ』っていう子をなすり付けあうのでいがみあってたとかで、思わずホッとした」
「その節はダニエーレさんにはご迷惑をお掛けしました。結果論的にはですが」
「異端審問庁で拘束されて無事に釈放される人って多いの?」
「罰金目当ての拘束ならダニエーレさんみたいにすぐ出られますよ」
「ダニエーレに『ジェリー』への恋心が芽生えてなくて、ホント良かった」
「………」
(あの状況で恋が芽生えるなら、相当なマゾだと思うよ)
ジェラルディーナが憮然とした表情をすると
サルヴァトーレは
「ともかく。それはそうとダヴィードの事だったね」
と話の軌道を修正した。
「ダヴィードはおそらく『婚約者令嬢と懇意になれば侯爵位の後継に有利になる』と考えている」
「普通はそう考えますよね?」
「うん。でも、伯父上はそんな考え方の人ではない。あの人は筋金入りの拝金主義者だ」
「…不敬だと言われるかも知れませんが、異端審問庁の長官としてはかなり無能に思えます」
「無能か有能かは実のところ『何を目指しているのか』という部分での達成点だ。有能な売国奴が無能な愛国者を装ってる場合もある」
「なるほど。ならサリー様はガストルディ侯爵が実は有能な人物だと思ってらっしゃるんですね?」
「カネを漁る事に関しては有能、という意味でね」
「………」
ジェラルディーナはヴィルジリオ・ガストルディという人物に関してあまりよく知らない。
サルヴァトーレの顔をマジマジ見つめながら、彼の伯父への人物像について考えてみる事にした…。




