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苦情

挿絵(By みてみん)


ジェラルディーナの元へ弟のロベルトから手紙が来た。


ジェラルディーナは

(もしかして図書室で騒いでた学生達の身元が判ったのかな?)

と期待したのだが


「図書室で騒いでいた学生達の身元が判りましたので、結果報告はフラッテロ子爵家のルーベン兄さん宛てで送りました」

と手紙の冒頭に書かれていてガッカリした。


(でもそれじゃ、一体何の用なんだろう?)

と疑問に思い、読み進めるとーー


要は

「トリスターノ・ガストーニ子爵令息に付き纏われて困っている」

という内容だった…。


「トリスターノ・ガストーニ子爵令息の婚約者フィロメーナ・ドニゼッティ男爵令嬢の死亡届が正式に提出された事で2人の婚約が正式に無効になった」


そんな話が出回り出した直後からーー

噂の当事者であるトリスターノ・ガストーニが

「用もないのにロベルトの近辺をうろつきだした」

との事。


学年も上のトリスターノが話しかけて来るでもなく

「ロベルト・フラッテロは何処だ?」

とロベルトの友人に所在確認して、物陰から見つめてくる…


そんな日々が続いて…


怖くなったロベルトが

「男に付き纏われるのは気持ち悪い」

「姉さんに対して何か言伝でもあるのかも知れない」

「トリスターノ・ガストーニに付き纏われる心当たりはないか?」

と尋ねてきた文章だった。


「………」

心当たりーー

という程の心当たりではないが…


「中央騎士団の公開訓練の見学に行った時に顔を合わせて、少し話をしました」

と微妙にボカして事情説明する事にした。


「もしかしたら私はストーカーと勘違いされているかも知れないので、しばらく貴方の所には顔を出せない」

「ボブはシッカリしてるから大丈夫だよね?」

という事も書いておく。


文武両道のロベルトだ。

万が一襲い掛かられても充分反撃できる筈。


ジェラルディーナは手紙を書き終わると、アルフレーダの執務室まで持っていった。

使用人の手紙のやり取りは基本的に家政婦の管理下で行われるのだ。

(当主一家の手紙のやり取りは執事が行なっているが)


貴族家では御者と従僕が手紙の配達を担う。

案外、勝手に読まれる事が多いので他人の悪口や恋文を書く者は少ない。


(返事も書いたし、この件はこれで終わり)

と思う事にして、ジェラルディーナはトリスターノに関してそれ以上考える事を放棄したのだった…。



********************



ルーベン・フラッテロは

「サルヴァトーレ・ガストルディの素性調査」

「トリスターノ・ガストーニの素性調査」

と並行して

「ダニエーレ・ガスパリーニの素性調査」

を行なっていた。


アンジェロ・フラッテロ子爵からの指示であると共に

「ウチのジェラルドに関わる男の事はキッチリ調べておかなければ」

とルーベン自身も思ったからでもある。


当人も自覚していて、周りも気づいているが…

ルーベンは「身内が殺される事態を異常に恐れる」性質だ。


何の裏もない事故や病気で亡くなる分には、自分も心穏やかでいられるが…

何者かの悪意によって自分の身内の命が刈り取られたりしようものなら報復するまで気が収まらないくらいには、身内に愛着がある。


ロベルトの安否も常に気になるが

一度攫われたジェラルディーナの安否は更に気になる。


フラッテロ家自体が一族の団結力が強い家系ではあるが…

ルーベンの場合はそこに前世のトラウマも加わっている。


彼は前世でも刑吏を生業としていた。

と言ってもアドリア文明圏には異端審問庁は存在していなかった。


特殊軍事工作や諜報工作を異端に見立てるカモフラージュもなく、ただ陰湿に合法侵略や植民地化工作が行われていて、国防機関がそれらをアングラでレジストする必要があった。


そんな社会においては大衆の意識格差が大きかった。

大半の人間が特殊軍事工作を認識しない。

諜報工作をも認識しない。


そして無自覚にそれを行なっている異邦人・帰化人自身が自分の犯している卑怯な罪を認識もしておらず

「ただ普通に暮らしているだけだ」

と錯覚していたのだから…

そんな連中に蝕まれた側の国民は浮かばれない。


在住国民に成りすましている異邦人や帰化人による組織的犯罪が犯罪件数の圧倒的多数を占める社会でありながら…

そうした事実が伏せられていた国だった。


「ナショナリズム・エスノセントリズムに酔い、仲間との仲良しごっこに耽りながら在住国民を餌食にする組織犯罪の一片を担う」


卑怯極まる異邦人や帰化人らによって

保守的な、ただ自分の国に住んでるだけの人々は

脅かされ搾取され

それでいて、その現実を認識すらできていなかった。


「犯罪者には刑罰がくだる」

という当たり前の事さえも


異邦人や帰化人が犯罪者だと

「マイノリティへの差別だ!」

という屁理屈が叫ばれた。


「異邦人・帰化人」

に刑罰がくだる度に

その仲間が激昂して刑吏を逆恨みで襲撃した。


そういうリスクが存在するので刑吏は高収入の仕事ではあったが…

襲撃を受けるのが刑吏本人だけではなく

その家族にまで及ぶ事があった事もあり

「刑吏になりたい」

と思う者は少なかった。

よって刑吏になる者の大半が身寄りのない者達だった。


前世のルーベンは少数派の「家族持ちの刑吏」だったために

罪人達の逆恨みによって家族を亡くしている。

結果ーー

他の者達同様に身寄りのない者達の分類に入る事になったが…

そうした事態に決して納得はできなかった。


「死刑反対!」

という風潮が大きくなればなるほど

刑吏への風当たりも強くなった。


「仲間が死刑になる度に執行者の刑吏の家族を殺す」

ような組織犯罪者がたむろしていた闇だらけの国では


「死刑にするしか償えなわせられない」

ような罪深い鬼畜らに当然の報いを与えるだけで


無辜の民が

「復讐」

と詐称された卑怯な殺戮の被害に遭っていたのだ。


「組織犯罪者を一人残らず根絶やしにする」

もしくは

「刺激せずに野放しにしておく」


それら二つの選択肢のうちーー

社会的強者は後者を選んでいた社会。


「国が国民を守らないと決めてしまっている」

そんな狂った国では…

異邦人と帰化人は在住国民を標的とした犯罪がやり放題になる。


そんな国の人間社会は

まるで狩り放題の狩猟場。


「狩猟場の動物」

扱いされている在住国民が

「狩猟者」

気取りの侵略者達に対して

「刑罰をくだす」

事自体が侵略者達を激昂させていたのだ。


「死刑など無くせば良い」

「刑務所も更生施設として入所者にタダ飯を提供するものにすれば良い」


そんな

「犯罪者に対して優しい社会」

を個人犯罪者のフリをした組織的侵略者達が望み…


国民の圧倒的多数がそんな侵略者達に対して抵抗しないのなら…

小数の良識人がどんなに抵抗しても無駄なのだ。

なるようにしかならない。


(自分が死んだ後にはーー)


(それこそ好きなだけ、狂った社会は、益々狂えば良い…)


前世のルーベンはそう思った。

そう思わざるを得ない程に

前世のあの国は国民を守っていなかった…。


(二度と生まれてきたくない)

と思っていた。

なのに、また人間として生まれた。


それなら

(二度と家族を殺されたくない)

と思った。


(殺される前に殺す。俺には、その権利がある。前世の記憶が俺の魂に宿る限り…)


そう思ったのだった…。


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