表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/120

アルカンタル王国の行方不明者リスト

挿絵(By みてみん)


ポンペオ・フォルミッリはサルヴァトーレ・ガストルディとジェラルディーナ・フラッテロが連れ立って帰るのを見ながら

(…そういや、ダニエーレは「ジェリー」を気に入ってるんだったな)

と思い出した。


ベッティーナ・ボッチという足手纏いを押し付け合うためにダニエーレとジェラルディーナはネチネチと心理的にやり合っていたらしいが…


そういう事情さえなければ

(普通に気が合いそうな相性の2人だったろうな)

と、ポンペオは密かに思っている。


(ジェラルディーナがサルヴァトーレ・ガストルディの愛人なんかになったら、アイツ、ショックを受けるだろうな…)

と少し心配になる。


とりあえず契約を交わした依頼は

「ジェラルディーナが攫われた頃くらいから、ジェラルディーナが逃亡した頃くらいまでのダレッシオでのよそ者の出入りを調べる事」

だ。


手紙では、その他にも

「アルカンタル王国の行方不明者リストを手に入れて欲しい」

とあったが…


「可能なら」

という条件が付いていたので

敢えて自分からは話題にしなかった。


他国の情報を仕入れるツテはなくもないが…

ポンペオの場合は

「ルドワイヤン公国とストラウク連合国の情報」

に限定される。

アルカンタル王国は範囲外なのだ。


(それにしても、アルカンタル王国かぁ〜…)

と、引っ掛かるものを感じはする。


「妖術師はアルカンタル王国の予言者の情報を欲しがる」

という迷信じみた話を聞いた事がある。


「何ゆえに妖術師達がアルカンタル王国の予言者をストーキングするのか?」

因果関係が謎なので、これまで大して気にも留めていなかったが…


(本当に妖術師っていう人種がそうなんだとするなら、「サルヴァトーレ・ガストルディは妖術師だ」って可能性があるんだよな…)

という事実に気がつく。


得体の知れない男に気に入られて

徐々に外堀を埋められていってそうな

ジェラルディーナに対して


「…嫌なら、頑張ってもがけよ」

と内心でエールを送り、ポンペオは独り寂しく店を出た…。



********************



フラティーニ侯爵邸当主執務室にてーー。


アベラルド・フラティーニ侯爵は東部領地からの報告書を見て、思わず瞬きを繰り返していた。


(これは思わぬ収穫だったな…)

と顔が綻ぶ。


アルカンタル王国の商人を通じて

「アルカンタル王国の行方不明者リスト」

が手に入ったとの事で、東部の私兵からその写しが届けられたのだ。


この写しから更に写しを取るなら

占星庁ならびに妖術師との交渉が有利になる事だろう。


サルヴァトーレ・ガストルディことチプレッソが

「予言者かも知れない」

と疑っていた

「ミナ」

という少女。


その少女の名前も分かった。


「テラデージャス伯爵家令嬢エルミニア・オルネラス」。

テラデージャス伯爵家は今現在、商家のカルデナス家に乗っ取られている貴族家だ。


エルミニア・オルネラスの母親は元バランディン子爵家令嬢。

両親共に古い家柄の生粋の貴族。

(おそらくカルデナス家に虐げられたことだろうが)

エルミニアは血統の良い貴族令嬢という事になる。


そのエルミニア。

表向きは病気療養中とされている。


貴族家の令嬢の場合

「攫われた=傷物」

という評価が付く。


政略結婚の駒としての価値を失うので、本当は行方不明になっていても、表向き用に人前に出ない理由がこじ付けられる。


アベラルドは独り言で

「…私兵を有する貴族家なら、令嬢が攫われたとしても国には頼らず私兵に取り戻させるのがセオリーだが…。

私兵を持たない貴族家の場合だとやはり行方不明者として国に捜索を任せるものなのだな」

と呟いた。


上位貴族家の令嬢だと行方不明者リストに名前は乗らない。


それは「予言者」の場合も同様だろうと思うのだが…

(逆にエルミニア・オルネラスを「ただの伯爵令嬢だ」と思わせるために行方不明者リストに載せている可能性もあるな…)

とも思う。


どの道、エルミニアのものと思しき死体はダレッシオで見つかって火葬されている。


体格や髪の色が同じ死体を用意して、鰐に食わせて個体識別不可状態にした者達がいるのなら、本物のエルミニアが生きていたとしても

「エルミニア・オルネラスは死んだ」

という事にされる筈。


「別人の名前と戸籍を用意して別人として生きさせる」

などお手のものだろう。


アルカンタル王国の占星庁には

「存在していない架空の人物を各分野で創り出す名人の集団だ」

という国際的評価がある。


アルカンタル王国占星庁は他国の占星庁と比較しても

「認識阻害魔道具の普及率が高い」

と言われている。


「存在していない架空の人物を各分野で創り出す」

など、認識阻害魔道具を駆使しての荒技だ。


リベラトーレ公国の妖術師は魔道具製作・修繕技術が大陸一。

アルカンタル王国占星庁からの引き抜きの可能性は常にある。


(「チプレッソ」がジェラルディーナを欲しがるのなら、与えてやっても良いのかも知れないな…)

と、ふとアベラルドは思案する。


実の所アベラルドは

「医薬省の役員の接待にジェラルディーナを使おうか?」

と考えていた。


それこそリベラトーレ公国のみならず近隣諸国の医薬省は各国の占星庁並みにアルカンタル王国占星庁をストーキングしている。


それというのも一部の者達の間では

「アルカンタル王国の予言者は時間遡行者だ」

という噂が根強い。


アルカンタル王国の占星庁は流行り病や死病の薬の製法や素材の情報を占有せずに国内で広めている。

医薬面での特権階級を儲けさせていない。

国の運営として非合理である。


「それは何故だ?」

と考える者達が真剣に推理していくと


結果

「時間遡行者である予言者に薬の製法や素材の情報を持ち帰らせるためではないのか?」

という答えが導き出される、というのである。


一見、荒唐無稽だが信憑性は高い。


アルカンタル王国のストーカーである医薬省を通じて

アルカンタル王国の情報を漏れ聞く事があるかも知れない。


丁度、医薬省の役員が

「フラッテロ家の若い娘と付き合いたい」

と遠回しに要求してきていた。


「フラティーニ家の若い娘」

ではなく

「フラッテロ家の若い娘」

が指定されている。


要は

「面食いだから可愛い子を用意しろ」

という事だ。


マリアンジェラを出す、という選択肢はない。

チェザリーノが発狂してしまう。


ジェラルディーナに関しては

「くれぐれも死なせないように」

と命の危険に関しては度々アンジェロから注文が来るが…

貞操面では何の注文もない。


そもそも侯爵家で預かる時に

「必要とあらば性接待をさせても良い」

と言われていたので

「その方面で利用することがあるかもな」

と思っていた。


チェザリーノが

「ルクレツィオはジェラルディーナ嬢に気があるように見えます」

と私兵のルクレツィオの心情を心配していた事が多少気にかかるが…


ルクレツィオは欲しいものがあれば欲しいと主張できる性格だ。

(アイツはうちの切り札でもあるので欲しがるものは与えてやるつもりでいる)


当人が何も言って来ていないのだから気を回す必要はないだろう…。


ただ、医薬省の役員というのが40代の醜男だという事もあり

多方面から需要のある16歳の美少女を与えるのは勿体ない気もする…。


(高級な餌を与えて釣るなら、大物を、と思うよな…)

そんな思惑から


「医薬省の役員にはもっとランクの低い女をあてがう事にしよう」

「ジェラルディーナはチプレッソに与えよう」

と思ったアベラルドなのであった…。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ