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訪問者

挿絵(By みてみん)


「ダレッシオを根城にしているポンペオ・フォルミッリが首都に来ている」


そう聞いてーー

サルヴァトーレ・ガストルディは真っ先にジェラルディーナの事が頭に浮かんだ。


のだが

「………」

自分でしばし自分の事を俯瞰してみる…。


結果

(どうやら、俺はあの子に頼りたい気持ちが強いみたいだな)

と自己分析の結果判定を自分自身にくだす。


これまでは

「面識のない相手と接触する」

時に

「相手の知り合いを通じて接触する」

ような方法を取ろうとは思わなかった。


いきなり押しかけて

いきなり本題に切り込んで

いきなり情報をもぎ取る

という無骨な方法を取っていた。


妖術師は社会性という面で一般人に足並みを合わせる事が難しい。

一般人とは異なる倫理で生きているからだ。


とは言え、今回は未だ今代の予言者の没年月日が判っていない。

リベラトーレ公国占星庁以外の人間にも多少は好感度を気にして社交的に接した方が良いのかも知れない。


そう思いながらも

(自分で自分の考え方が一般人への歩み寄り姿勢になっている事が判る…)

と少し皮肉に感じる。


ともかく、この社会の多くの人達は

「接触を取りたい相手が知人の知人である時には、知人に紹介してもらう」

という手段を選ぶ。

今回に限りサルヴァトーレもその方法に倣う気でいる。


(また、あの子に会えるな…)

と思うと、気分が浮かれそうになる。

ヘラヘラと緩みそうになる頬を引き締めて、フラティーニ侯爵邸へ遣いを出した…。



********************



ジェラルディーナは何も知らず、いつも通りにクレメントのお世話と護衛騎士の訓練への参加という日課を果たしていたのだが


「ジェラルディーナ嬢に来客がある。待合室で待っていただいているとの事だが、客に会う前にカッリストさんの所へ寄って指示をもらうように、だそうだ」

と従僕が告げに来た。


「?」

客と言われて真っ先に弟のロベルトの顔が浮かんだが、実家で何か起きたとかじゃない限り本人が押しかけてくる事はない筈だ。


そもそもフラティーニ侯爵邸の使用人はフラティーニ侯爵の親戚。

格下に見ているフラッテロ家の人間が客として訪れても「待っていただいている」だのとは言わない。


(一体誰が来たんだろう?)

と思い

「訪問客のお名前は伺ってますか?」

と訊くと


「ガストルディ家令息と名乗ってらした」

との事。


(ガストルディ家令息って…)

サルヴァトーレ・ガストルディの事だと判る。


思わず顔を顰めるジェラルディーナに対して従僕は

「そういう顔を客に見せるな」

と忠告してから自分の仕事に戻って行った。


ジェラルディーナは言われた通りにカッリストの所へ直行。

家令用の執務室へ着くと

「『ガストルディ家令息』と名乗る客が私を訪ねてきてるらしいんですが、どうしたら良いでしょうか?」

と単刀直入に訊いた。


前置きして話す時間がないので多少無礼になっても仕方ない。


カッリストは澄ました顔で

「そうですか。なるほど」

と頷いた。


「スミマセン。突然で。私も驚いてるんですよ」

ジェラルディーナが謝ると


「いえ、サルヴァトーレ・ガストルディがジェラルディーナ嬢に接触してくる可能性は充分に考慮していました。

予想としてはジェラルディーナ嬢の非番の日を調べ上げて、外に出た時に偶然を装って接触してくるだろうと思っていたので、堂々と屋敷まで押しかけて来られたのが意外だっただけです」

とカッリストが苦笑した。


「屋敷まで押しかけて来るなんて厚かましいですよね?」


「まぁ、彼らしくない、かも知れませんね」


「ん?カッリストさんはサルヴァトーレ・ガストルディと面識があるんですか?」


「おや?ジェラルディーナ嬢はお気付きになられませんでしたか?基本的に瘴気の影響を受けない拷問係適性者は貧民の中から探す事になっているでしょう?それ以外の階級でそういう特性を持つ人達は大抵が妖術師ですから」


「その可能性はあると思ってましたが、案外、普通っぽい人ですよ?別に変人とかでもなく犯罪者っぽくもない感じの」


「この国では妖術師は占星庁の麾下に収まる事で保護されています。人格の破綻を気付かれにくくするように擬態できる余裕もあるので初見では特定できません」


「それだとどういう点が決め手になって妖術師だと判るんでしょうか?」


「妖術師が肉体を乗り換える時期は一斉です。なのでその時期に『急に人が変わった』人間が、その後貴族家に養子に入るなりしていたら、かなりの確率でそれです」


「サルヴァトーレ・ガストルディがそれに当てはまると?」


「ええ。なので、彼との接触でジェラルディーナ嬢に気を付けて欲しい点は一つです」


「気を付ける点、ですか」


「彼とのやり取りを一言一句間違えずに記憶して報告してください。特に何かを聞き出そうとして会話を誘導する必要はありません。

ことさら媚びて仲良くしようとか距離を取ろうとか意図する必要もありません。自然に知り合いや友人のように接してください。

気を付ける点はとにかく彼の言動を記憶して報告する事。何気ないやり取りの中に、こちらにとって有益な情報が含まれている事があります。妖術師相手だと特に」


「記憶して報告、ですね」


「はい。くれぐれも宜しくお願いします」


「分かりました。では、行ってきます」


「行ってらっしゃいませ」


そんなやり取りの後、ジェラルディーナは待合室へ向かいながら妖術師という存在について考えた。


リベラトーレ公国の異端審問庁では、他の国の異端審問庁同様に

「異端者」という濡れ衣は

敵国諜報工作員

下剋上売国奴

などのためにある。


他の国の異端審問庁は本物の魔女や妖術師も

「異端者」の枠に含めて断罪するらしいが…

この国ではそれはない。


リベラトーレ公国異端審問庁にとって妖術師は

「見て見ぬフリをするべき存在」

だと言える。


「自分から近づくな」

と言われてきたが…


今回のような場合

「相手から近づいてきた」

のだから変に避けないほうが良いのだろう。


妖術師と関わる事で占星庁の情報が聞き出せるかも知れないが、自分からその目的で接触すると、その言動自体が占星庁の怒りを買う可能性が高い。


占星庁にとって人の命は異端審問庁以上に軽いのだ。

必要もなく占星庁を怒らせてはならない。


待合室は「室」と付くものの、ドアもない一画。

玄関側に衝立で仕切りをして椅子を置いているだけのもの。


やり取りを近くにいる者達全員に聞かせるためでもある。


ジェラルディーナは

(何の用なんだろう?)

と不審に思いながらも


衝立の向こうに向かって

「お待たせしました」

と明るく声をかけたのだった…。


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