買い物面での差別
フランカがご機嫌ナナメである。
休日に買い物をして
フラティーニ侯爵邸までの配達を依頼していた」
というのだが、荷物が届かないらしい。
菓子店で菓子を買いに行き
「丁度次の便が焼き上がるまで品切れ」
状態だったため
「配達希望の注文品」
という形でお金を支払ってきたのだそうだ。
(すぐに届くだろう)
と思い、そのまま侯爵邸まで帰ってきて待っていたところ
「とうとう配達が無かった」
(商品が届かなかった)
との事。
ジェラルディーナはその話を聞いて
(菓子店の人達、「フラティーニ侯爵家」と聞いて差別してるんじゃ…)
と少し思った。
この国でも近隣国でも身分制度は絶対。
平民が貴族を差別するなど普通は起こらないが…
刑吏一族に限ってはそうした事態が起こるのである。
こういう場合
「差別が差別である事が立証」
されれば不敬罪が適用される。
ただ異端審問庁とは畑違いの一般刑罰の部署・刑務省での事件取り扱いとなる。
大抵は罰金刑。
刑務省案件で拷問や罰金以外の刑罰が必要な場合には
異端審問庁の拷問係が執行官として貸し出される。
刑務省は拷問を行わず、罰金以外の刑罰も行わない。
そのため世間的には
「何かと罰金を取りたがる面倒な連中」
と認識され、疎まれてはいるものの…
異端審問庁のように憎まれてはいない。
その分、権威も低い。
加害者が被害者へ支払うように命じられる慰謝料・賠償金支払い要請はかなりの確率で無視される。
刑務省が血道をあげて取り立てるカネは被害者への償いではなく
自分達が働いた分の給金へと反映する罰金である。
その事を皆心得ているので
大抵の加害者が被害者への償いはせず
刑務省への罰金支払いだけで済ます。
そんな社会事情もあり、国内の民度は低い。
嫌がらせ天国。
ネチネチ他人に嫌がらせする人間のほうが開放的に面白おかしく暮らせる社会。
「カネだけもらって商品は渡さず、それでいて『そんな商取り引きは無かった』或いは『ちゃんと渡した』と大嘘を吐く」
ような詐欺行為を行う者達も普通に湧いて出るのである。
そんな社会背景のせいで
「差別される傾向のある者達にとっては買い物は楽しくない」
もの。
寧ろ人災のキッカケとなり得る…。
ジェラルディーナは
(「買い物」って楽しいどころか、実は苦痛なんだよね…)
と、しみじみ思う。
「休憩時間に抜け出して、そのお店まで行ってみる?」
とジェラルディーナが訊いてあげたところ
フランカは
「いや、いい。…だけど、あの店には二度と行かない。『そういう店だよ』って事実を一人でも多くの人達に触れ回ってやる」
と答えた。
噂話の良いところは
「誰が誰にその話をした」
という情報伝播経路を辿られない限り
「どんな風評加害も名誉毀損も信用毀損も立証されず因果関係も認められない」
という所だろう。
ここでも民度の低さが露呈する。
真実であれ嘘であれ大袈裟であれ
「他人の評判を陥れる話を面白おかしく吹聴する者達が風評の実権を握る」
嫌な社会である。
フランカがどの程度一般の人達の噂話界隈に影響力を持てるのかはジェラルディーナにとっては未知数。
(そう言えば、非番の日って、外で誰に会ってるんだろう?)
ジェラルディーナはフランカのプライベートな人間関係を知らない。
(案外、一族の者達とは違う一般人の友達が沢山居るとか?)
謎である。
ジェラルディーナが疑問に思っていると、フランカのほうから
「彼氏と、その友達に話を広めてもらうんだから!」
という言葉が飛び出した。
「?」
(彼氏?)
どうやら婚約者がいるのに、外に恋人がいるらしい…。
ジェラルディーナの視線に気付いたフランカが
「あっ、別に疾しいところはないよ?『広報局の役員に取り入ってお付き合いするように』って指示があって、それに従った結果としての『彼氏』なんだから、別に結婚を望んで本気になってたりしないし、それこそ愛着はあっても愛してはいないから」
と早口で説明してくれた。
「広報局の役員、とかなら、結構な歳のオジサンなんじゃない?」
「そうだよ。その上、顔もあんまり良くない。向こうは『婚約者のいる女のほうが妊娠させても責任を取らなくて良い分助かる』って思ってるから、こっちが侍女風情でも平気で付き合うの。都合が良いからね」
「うわぁ〜…」
「ジェラルディーナもそのうち何処かのモテないオジサンと偶然の出会いを演出してお付き合いするようにって指示が来るんじゃない?」
「それって非番の日も仕事してる事になるんじゃない?」
「そう。だから半日非番の日も多く入れてくれてるし、給金も高いの。多分、見習いなのに私のほうがフェリチタさんやバルトロメアさんよりも多くもらってると思う」
「そうだったんだ…」
「でもあくまでも、ここの侯爵家からもらう給金が、だよ。フェリチタさんやバルトロメアさんは奥方様の御実家のほうからもお金もらってる可能性がある」
「バレるでしょう?そういう不忠は」
「バレたところでバルダッサーレ伯爵家とことを構える気が旦那様に無いなら見て見ぬふりしてもらえるだろうから、もらえるものはもらっておこうという腹積りなんじゃない?
そもそも本気であの2人が旦那様に反意を持ってるなら、今頃普通に誰かに殺されてるだろうし。
無害だから野放しになってるだけでしょう」
「そうなのかな?」
「とにかく、何かしらの方面で力を持ってる人が彼氏だと、助かる事も多い。フェリチタさんみたいに若い騎士とのセックスに溺れるバカはそういう物の道理が理解できないんだろうけどね」
要するにフランカは
「社会的影響力・権力は不細工なオジサンを魅力的に見せる最大の要素だ」
という真実をよく理解できている人だったという事だ…。
結局のところ
「護る」
という行為は
「物理的に護る」
のみならず
「社会的に護る」
事も指す。
当たり前のように物理的かつ社会的に護られている人達には、それが分からない事もある。
(「若いイケメン」に無条件で惹かれ、衝動のままに関係を結ぶ女性は「社会的に護られる」事の重要性を実感した事がない?のかも知れないな…)
フェリチタのような盲目性が結果的に得するのか
フランカのような計画性が結果的に得するのか
ジェラルディーナには正直なところ未だ判断できない気がした…。




