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指向性波動

挿絵(By みてみん)


「…それで、ロザリンダさんて人は奥方様の隣にいらっしゃった方でしょうか?」

とジェラルディーナが確認を取るようにチェザリーノに訊くと


チェザリーノは

「そうです。如何にも性根の曲がってそうな顔の女でしょう?」

と憎々しげに吐き捨てた。


(ロザリンダさんとの間に何かあったのかな?)

ジェラルディーナは思わず首を傾げる。


ロザリンダは額が狭くて顎が細い顔立ち。

即物的でキツそうな性格に見える猿顔だが、その手のタイプの女を美しいと思う男性もいるにはいるので、チェザリーノが露骨に嫌悪感を持つのが意外だった。


ジェラルディーナの顔を見てチェザリーノは

「…私が既婚者だと知ってる筈なのに、変に色目を使ってくるし、マリアンジェラの事で嘘を広めようとしてたりするので、あの女が嫌いなんですよ。個人的に」

と説明してくれた。


ロザリンダの瘴気の状態は予想通りでもあった。


『転生者』ではない、生粋のミセラティオ大陸の魂。

それでいて【鬼子】と同じように右肩の辺りに仮面のイメージが浮かぶタイプの人。

他人を苦しめて泣き寝入りさせる事で自分の力に変えようとする【半鬼子】…。


瘴気の状態はクレメンティーナと同じように

蛇のようにうねって当人にまとわりつく感じ。


複数ある瘴気のうねりの先端はそれこそ鎌首をもたげた蛇のように、こちらに攻撃を仕掛けようとしていた。


【鬼子】【半鬼子】の瘴気の状態は瘴気が指向性波動となっていることだ。


そして前世の記憶のある【鬼子】の瘴気の先端は消えている。

先端の消失ポイントに亜空間があり

亜空間を通じて【奴隷魂】へと繋がっている、という事なのかも知れない。


ジェラルディーナは自分自身の瘴気の状態を見る事はできないが、ルーベン達を見た所、指向性を持つ瘴気と指向性の無い瘴気とが混じり合っている。


普通の善良な人達の瘴気が指向性を持っていない事を考慮するなら…

【鬼子】の瘴気の先端が

【奴隷魂】の側へ繋がって

魂の力を搾取しているのだと考えたほうが辻褄が合う。


前世の記憶がない【鬼子】は搾取の相手を見失った状態(?)なのかも知れない…。

だから誰彼構わず他人を攻撃しようとする【半鬼子】と気が合うし、ややもすれば敵意の矛先を操られもする…。

そういう事なのかも知れない…。


(「自分を子猫だと思い込んでいる虎」が「品性下劣な猿」に誑かされて操られてるような状況?なのか?)

と感じたジェラルディーナは…

かなり直感的に本質を踏まえてしまっているのだった…。



********************



女中の数に対して侍女は少ない。

それは何処の貴族家でも同じ事。


侍女は接客業。

お茶を淹れたり、絹製品や小物の洗濯をしたり、貴族の居室を清掃したりする時には、女中のように黒のワンピースの上からエプロンをするが、エプロンは必要ない時には外して、代わりに飾り襟を付ける。


更には来客時や、女主人・令嬢の外出の付き添い時にはブローチ付きのリボンタイを着ける。


なので水仕事や清掃に従事してない時の侍女は女中と簡単に区別がつく。


「…なんか、あの人、視線を感じて振り向くと度々見かけるんだけど?」

ジェラルディーナが見知らぬ侍女の方へ目を向けてフランカに訊くと


スッと物陰に隠れていなくなる…。


「…どんな人?」


「髪と瞳の色は焦茶色で、肌もやや色黒。唇がちょっとポッテリしてる感じの侍女。20歳前後くらいの歳?かな?」


「…フェリチタさんだろうね。バルトロメアさんは淡い茶褐色の髪だし、鼻が鷲鼻で唇は薄い。ロザリンダさんはあの通り、額が狭くて顎が尖ってる」


「フェリチタさん…。私に何か用があって監視してるのかな?」


「奥方様の命令なのかも知れないし、単に自分の興味本位で行動してるのかも知れないし、何か不気味だよね…」


「…唇の厚い人って情に厚い気がする分、粘着になられると気持ち悪いよね…」


「情に厚いというより多情なのかもね。あの人の場合」


「多情?」


「侍従のフランチェスコさんが婚約者なのに、何故か護衛騎士と一緒に居る事が多いの。しかも見る度に違う人と」


「へぇ〜」


「婚約者と言っても職場恋愛じゃなく、侯爵家の都合で『結婚したらどうか?』と暫定的に決められてるだけのものだから、気に入らなければ、他の使用人と婚約し直す事は認められてるのよ」


「そうだったんだ?」


「だからここの護衛騎士に乗り換えるのも有りと言えば有りだけど、誰か1人に絞るって事をしてないみたいで節操がないんだ。いわゆるヤリマンだね」


「…なんでそんな人がこっちを物陰から観察してるの?」


「多分、彼女がお付き合いしてる男の誰かが『新人侍女の子が可愛い』とか不用意にジェラルディーナを褒めたとかしたんじゃない?

私の時も入って直ぐの頃には付き纏われた。私室から物が盗まれて無くなってたし、挙句見知らぬ物が増えてたり。

流石に物が増えてると『盗んだ』とか濡れ衣着せるための仕込みかも知れないと思うでしょう?

旦那様に事情説明して『持ち主不明の物を入れる遺失物入れ』を家政婦管理で設置してもらって、増えた物をそこに入れるようにしてたの。

すると案の定、奥方様の宝飾品や私物の雑貨が無くなっているとかいう話が持ち上がって、『誰か盗んだに違いない』とかって流れになった訳。

私は直ぐにフェリチタさんが怪しいって思ったし、カッリストさんが嘘を見抜きながら尋問して、それでフェリチタさんがやったって事は分かった。

証拠が無かったし、目撃者も無かったし、何より奥方様がフェリチタさんを擁護したせいでお咎めなし。

他人を陥れようとする人間に罰を与えずに野放しにするのは色々問題があると思う。

本来ならフェリチタさんは奥方様に取り入って奥方様を監視する立場なのに、逆に奥方様に籠絡されてて、こちらを監視してる感があるの」


「フェリチタさんの忠誠心がどこにあるのかに関しては尋問して嘘を見抜いていけば判る事なんじゃない?」


「…狂った人間て、忠誠心をその時々の状況に合わせてコロコロ変える生き物なんだと思うよ。両方に良い顔しようとして、結果的に両方に不誠実になる感じ」


「悪人顔ではないのにね…」


「二重スパイみたいな事を結果的にしてしまう人って、多情さのせいで道を誤るんじゃない?」


「そうなのかも…」


ジェラルディーナとフランカがフェリチタの話をしてる間も、フェリチタは物陰から顔を出して2人を観察していた…。



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