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奥方様

挿絵(By みてみん)


「やっぱりロザリンダが犯人ですが、奥方様がロザリンダを擁護して自分が命じた事のように取り繕い出したので、結局はジェラルディーナ嬢を挨拶に寄越す事になりました」

チェザリーノにそう言われる前から、不思議とそうなる予感がしていた。


「…なら、今から行って来ます」


「あっ、付き添いますよ。身元について訊かれるでしょうから、それは当人の自己申告のみより第三者の保証があったほうが良い筈です」


「…有り難う御座います」


「では行きましょうか」

チェザリーノがジェラルディーナの淹れたお茶をグッと飲み干してから、ジェラルディーナを案内すべく廊下へ出た。


「『何をするにも目的意識を持つ』という事を忘れないでくださいね」

とチェザリーノに念押しされて


ジェラルディーナは

「はい」

と返事をした。



********************



フラティーニ侯爵夫人。

クレメンティーナ・フラティーニ夫人。

元バルダッサーレ伯爵令嬢。


バルダッサーレ伯爵家はバルディ侯爵家の分家。

バルディ侯爵派の重鎮に位置する家門だ。


バルディ侯爵家の親戚筋の寄子はバルディーニ子爵家、バルデッサリーニ男爵家、バルドゥッチ士爵家が知られている。


しかしバルディ侯爵派自体が社交をあまりせず

しかもそれでいて繁栄している派閥なので

「実は占星庁を仕切っている裏王家はバルディ侯爵家なのではないのか?」

という噂もある。


占星庁の職員名簿など存在せず、何処の誰が占星庁職員なのかを誰も知らないという不思議な事態。

それは何もリベラトーレ公国だけのものではないらしいが…

「秘密主義にもほどがある」

とジェラルディーナはかなり不満に思う。


野心的な国が

「他国を堕とそう」

と思った時に真っ先に狙うのが標的国の占星庁。


そんな事もありーー

占星庁本部がリベラトーレ大公邸たる首都宮殿の一画に在る事を誰もが予想してはいるが、宮殿のどの位置が占星庁本部なのかに関しては誰も知らない。


迷路状になっている地下

宮殿のアチコチにある隠し部屋

そういった

「一般使用人が立ち入れない所に在るのだろう」

という事だけは予想がつく。


謎に満ちた組織

謎に満ちた一族


そういった関連がありそうなバルダッサーレ伯爵家から来た人…。


(アベラルド様は奥方様と仲良くしたいんだったよね…)

とフラティーニ侯爵の意思を汲むなら


ジェラルディーナや他の使用人達が

「どういった対応を取るのか」

はかなり限定されてくる…。


(ロザリンダと乳母を上手く排除できれば、奥方様をフラティーニ家に取り込む事も難しくない筈…)


それには大人しく振る舞いながらもロザリンダと乳母を追い落とす隙を窺い続けるしかない。


ジェラルディーナが目的意識を明確にしながらチェザリーノにニッコリ微笑むと…

チェザリーノの方でもジェラルディーナの内面のグラウディングを察知したかのように力強く頷いた…。


夫人が1日の大半を過ごされる部屋。

夫婦の寝室の隣にある居室。


そこへ通されて、如何にも貴族夫人らしい風格の女性の前へ向かわされた。


自分から口を聞く事も視線を向ける事もしてはならないらしく、俯いたお辞儀状態で数分待たされる。


あとからフランカに聞いた所によると

マリアンジェラに至っては

「呼び出されて行ってみると、顔を上げる許可を出してもらえず、1時間以上お辞儀状態で待たされた」

との事だった。


ようは嫌がらせだ。


ジェラルディーナからすれば

(呼び出しておいて無視し続ける神経が分からない…)

ので、クレメンティーナとその侍女達が本気で気狂いに思えた…。


同じ姿勢で居続けるのは地味にキツい。



「お呼びに従い、新人の侍女見習いをご挨拶に伺わせました」

と、チェザリーノが入室の際に言った言葉を再び繰り返すが…


何の反応も返って来ない。

ジェラルディーナは顔を伏せて床を見ているだけなので、クレメンティーナとその侍女達の様子は見えない。


チェザリーノはジーッと無表情で女主人と侍女達を眺める。


クレメンティーナのほうでは、チェザリーノの無表情の凝視が不気味に感じられて、無視し続ける事が微妙に不安になり

「よろしい。顔を上げなさい」

とジェラルディーナに声を掛けたものの


「…また、フラッテロ家なの?」

と顔をしかめた。


フラッテロ家がお気に召さないようだ。


名乗って良いと許可がないので、ジェラルディーナはお辞儀の態勢を解いて顔を上げたものの視線は伏せている。

無言のまま目を合わせるのも、これまた

「不敬だ」

と因縁をつけられかねないからだ。


「…若いわね。どうせ『フラッテロの女の若い方』としか呼ばないから、名乗る必要はないわ。でも歳は気になるかしら。何歳なの?」

と問われて


「16歳です」

と答える。


(流石に視線を上げても良いか?)

と思い、ジェラルディーナがクレメンティーナを見ると


確かにそこにはそこそこの美人がいた。


意地悪そうには見えない。

寧ろ、フラティーニ侯爵と同じく夫人もタレ目がちで一見優しそうな見た目をしている。


…のだが、やはり【強欲】の加護を持つ『転生者』。


目があった途端ーー

ジェラルディーナは体が震えそうになった。


なので必死に自分の行動の目的意識を思い出し

浅く早くなりそうな呼吸をゆっくり深く整えた…。


そうして自分自身の身体の制御に意識を向けていると…

他人に対する見方も極端に物理的な見方になる気がした。


「相手が何を考えているのか」

を推測しようとする心理的観点が自分の中から抜け落ちて…


「相手が意地の悪い心境でいる時にどんな雰囲気を纏っているのか、瘴気の状態がどうなっているのか」

に着目してしまう物理的観点。


そうした見方で、クレメンティーナを見ると

(…この人の瘴気の動きはアベラルド様とは違うんだな…)

と気付いた。


(…この人の瘴気の動きはトリスターノの瘴気と似てる…)


ジェラルディーナから見て、アベラルド・フラティーニ侯爵の瘴気は

「逆五芒星のように広がっていて、先端が虚空に繋がっているように消えている」

ように見える。


一方でクレメンティーナ夫人やトリスターノの瘴気は

「蛇のようにうねって当人に纏わりついている」

ように見える。


(もしかして、前世の記憶がない【鬼子】だと、こういう瘴気の状態になるのか?)

と、一つの仮説が思い浮かぶ。



「…流石に旦那様も六つも下の子供に変な気は起こさないでしょうから、貴女がこの屋敷に居る事は許容してあげるべきなのかも知れないわね。

…どうせ貴女も持ってるんでしょう?フラッテロ家の血族特有の異能とやらを」


「瘴気を認識する能力でしょうか?」


「そう。それを使って『呪いを受け付けない人材』を探し当てて、『拷問係』にスカウトとかしていたのでしょう?」


「はい。異端審問庁で働いていた時は、そういった任務もありました」


「…私達のような普通の人間にはよく分からないのだけど、『呪いを受け付けない人材』というのは具体的にどんな風に見えるの?」


「…そうですね。具体的に瘴気をどんな風に認識するのかが同じフラッテロでも人それぞれなので、一概にこうだと言えるものではありませんが、私の場合には、『呪いを受け付けない人材』は『モノトーンの雰囲気を纏っている』ように見えます」


「モノトーン…」


「人の雰囲気というもの自体が私の目には『光と微粒子の混ざり合った大気』のように見えるのですが、普通の人達は光に色が着いていて、微粒子にも色が着いています。

光の色は、その時々の当人の感情と関連して色が変わり続けますが、微粒子の色は一定していて大抵の人は赤と緑と濁った灰色です。

『呪いを受け付けない人材』の場合だと、その微粒子が白と黒と灰色なので、雰囲気に濁りがない『モノトーン』になってます。刃物を連想させるイメージでもあります」


(アドリア大陸からの『転生者』だと黄色と紫と灰色の微粒子だから黄色を見逃せば、一瞬『呪いを受け付けない人材』に見える事もあるけど…。奥方様の場合は黄色が多いから、見間違う余地がないな…)


「そういう人達は本当に呪いが効かないの?」


「はい。瘴気の状態がそういう状態を維持してる限り、どんなに他人から恨まれて呪詛を仕掛けられても、その精神にもエーテル体にも何の変化も起きません」


「そもそも呪いとか呪詛とかいうものがよく分からないのだけど?呪いと呪詛は違うわけ?」


「異端審問官流の解釈だと、『呪い』は人々の負の念から生じるもので、潜在的に生み出されているものまで含みますが、『呪詛』は人為的に術者が意図して行うもので『呪い』の一種です」


「つまり『呪い』は潜在的なものまで含むもので、『呪詛』の方は人為的なもののみを指すと言いたいわけね?」


「そうです」


「ふうん?それなら、悪魔祓いなんかは要は『呪詛』を祓ってるのよね?」


「悪魔祓いでは社会的影響力の大きい『呪い』全般が対象なので、潜在的『呪い』を祓う時もあれば、『呪詛』を祓う時もあります」


「潜在的『呪い』が社会的影響力を大きく持つ事があるというの?」


「本当に平和な平常時では、そういう事はありませんが、近隣国との関係が悪化した潜在的戦時状態では、そういった事も起こるとの話です」


「今は大丈夫なの?」


「今は、この国は大丈夫ですが…。すぐ隣の国のアルカンタル王国がメイトランド共和国と事を構える事になれば、この国にも大きな余波が及ぶ事が想定されています」


「?アルカンタルとメイトランドって仲が悪かったの?」


「…ガッダには移民が多いのですが、アルカンタル人とメイトランド人は一触即発な状態が続いてます。

新大陸利権で両国の利害が対立していて、尚且つアルカンタルとメイトランドの境にある小島を両国共『自国領だ』と主張しているので、近年になって対立が険悪化しているのです。

誰の目にも分かる全面戦争が起こるのはまだ先でしょうが、アングラでは既に衝突が起きてます」


「何故貴女がそんな事を知ってるの?」


「元々ガッダに居ましたので」


「何のために首都に来てるの?それもフラッテロ子爵家ではなくわざわざフラティーニ侯爵家に入り込んで」


「…お聞き及びではございませんでしたか?フランカなどもそうですが、子爵家に仕える予定の侍女は護衛役もこなせるようになる必要があるので、こちらで騎士の訓練に参加させてもらって、戦闘力を底上げするようにと子爵家から命じられて、お世話になっております」


「…騎士団の訓練は一般人も参加できる筈だし、子爵家の使用人のまま、子爵家から騎士団訓練場に通っても良かったんじゃない?」


「…実は今日、騎士団の訓練を見学して来ましたが、一般参加者は男性ばかりで、女性は1人もいませんでした。

見学者は逆に女性ばかりでしたが、恋人候補や結婚相手候補をお探しの方ばかりでしたし、そんな中で女性が訓練に参加すれば『男漁りのために訓練にまで入り込むのか』と悪評が立てられて、仕える貴族家に逆にご迷惑がかかるのではないかと思いました」


「そう…」


「過去の事例でもそういった事があって、下位貴族家は寄親の高位貴族家に使用人を預けて私属騎士の訓練に便乗させてもらう風習ができたのではないかと思います」


「(ハァァーッ)…なら、仕方ないのね。貴女みたいな若い子らが子爵家から入れ替わりやって来る事は…」


「御理解頂き有り難う御座います…」


「事情はわかったわ。もうお下がりなさい」


「失礼致します」


そんな感じに無難に「挨拶」は済んだ。


ジェラルディーナは

(「若い侍女が入り込んで来る事情が知らされてない」というのが不可解だな…)

と思ったものの、クレメンティーナ自身に対してはそこまで悪印象は感じなかった…。



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