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魂の兄弟姉妹

挿絵(By みてみん)


「至聖所」に押し込められている少年少女達は男女半数づつの5人組か6人組でグループ分けされているので

男2+1

女2+1

という状態になりやすい。


なのでこういう仲間はずれを生み出すグループ分けはジェリーには

「非合理的だ」

と感じられたものだが…


教務官らに言わせると

「魂の兄弟姉妹は男3人女3人の6人兄弟姉妹」

との事。

ゆえに理に適ったグループ分けだ、という解釈になっているらしい。


だが実際の家庭で

「子供が3人の男子・3人の女子から成る家庭」

がどれだけあるだろうか?


医療の未発達な文明圏では避妊もできず子供は平均7〜8人産まれる。

そのうち成人まで(15歳まで)育つのが平時で5〜6人が平均。

戦争や疫病が降りかかれば2〜3人に減ったり、時には1人も残らない。


「魂の兄弟姉妹は男3人女3人の6人兄弟姉妹」

という考え方は一体誰が言い出した事なのかよく分からないが

「誰がそれを事実だと証明できるのだ」

という点で不信感を感じ続けた。



ジェリーが教わった神秘学では

秘密結社カバルの性質が基本的に同胞結社フラタニティであるのは『魂に組織性を持たせる』という目的によるものだ」

との事だった。


社会とは粘着なもの。


結社自体が社会活動上のコネクションとして機能。

メンバーらが身を立てていくのをサポートする。


そんな機能があるので

「市民権を持つ者達はこぞって何かしらの結社へ加入する」

ようになっている。


その結果、秘密結社カバルのみならず

同業結社ギルドも乱立している世の中。


だからこそ犯罪者を村八分にする排外作用も強いし

無辜の市民に対しては優しいものでもある筈なのだが

必ずしも社会は非力な無辜の市民に優しくない。


人が寄り合ってグループを形成するのは

「何かしらの目的があり自発的に集まる」

のが普通だという事だ。


それに反して「至聖所」に集められた少年少女達には目的などない。

それでいて抑圧されている。


そんな中ーー

不満の捌け口がやり返せない者へ嫌われ者へと定められていく…。


(ウンザリなんだよな…)

とジェリーは対人関係に嫌気がさしていた…。



********************



鰐の目撃情報がある場所に縛られて置き去りにされたらしいイジメられっ子…。

ベッタという略称の女子。


(まだ生きてると良いけど…)


ジェリーはランタンを掲げ持ち

「ベッタ〜!何処〜!?」

と声をあげた。


ここではベッタと略されているが

おそらくはベッティーナという名前…。


声が響くので、生きてるのなら声が届かないという事はない筈。

ただ返事が返って来ても

何処から聞こえたか場所の特定はできないという点が問題。


清掃や補修工事のために出入りする者達は皆ランタンを持っているので、明かりが届く範囲まで近付いたらすぐに判る。


だが

(多分、ランタンも回収してて、真っ暗闇の中であの子を放置してる筈だ…)

と向かいの牢の連中の悪辣さがジェリーには簡単に予想がつく。


(目撃情報が出ている箇所は複数。返事を返してくれない事には場所が特定できない…)


ジェリーは溜息を吐いた…。


(鰐がランタンの灯りや人の気配に釣られて餌を漁ろうと出てきたりとか、しないよね?)


不安要素は大きいが…一応縄を切る鋏を手に握っている。

武器としては心もとないが…何もないよりマシだと思う事にした。


鰐が目撃された地点の範囲は広いが、最新情報の目撃地点に一番近い筈だとあたりをつけて進んでいくと、かすかに人の声がするので、勢い込んで速度を速める。


(…あれ?声が男の声のように聞こえるけど…)


声のした方向へと進むとーー

程なく人影が見えてきたのでジェリーは安心してホッと息を吐き

「ベッタ!」

と声をかけた。


相手もランタンを持っている。


その灯りがーー

ランタンの持ち主とベッタの姿を浮かび上がらせていた。


「…お迎えご苦労さん。アンタ丁度良い所に来てくれたな。さっさとこの子を引き取ってくれないか?」

ランタンの持ち主にそう言われてジェリーは目をパチクリさせた。


訝しく思いながらも

「こっちは依頼を受けて鰐を駆除しに来ただけなのに『連れて行ってください』って、しつこく縋られて困ってたんだ」

と言われて、だいたいの事情は察した…。


男の足元には鰐の死骸があるし

ベッタは男の服の端を掴んでいる。


「…スミマセン。そういう事なんですね。その子は責任を持って安全な所まで連れて帰りますんで、ご安心ください」

ジェリーがそう言ってベッタの腕を掴もうとすると


「冗談じゃない!」

とベッタが急に大声を上げてジェリーの手を振り払った。


ベッタの手首に縛られた痕が鬱血して残っているのが目についた…。


(「逃げたい」という気持ちは分からないでもないけど…)


「…逃げようとしたり、逃げたら、その後どんな目に遭うか知らない訳じゃないでしょ?その方は貴女の命を救ってくれたんでしょ?命の恩人だよね?なのに、その命の恩人さんに迷惑がかかるような事を頼むのはおかしいよね?」

ジェリーは正論で諭そうと試みるが


「マトモな人間のフリをするな!!!…アタシがイジメられててもずっと見て見ぬフリしてたクズの偽善者のくせに!!!」

とベッタがまたも大声を出した。


「…まぁ、貴女から見れば、私はクズの偽善者なのかもね?」

ジェリーは軽く肩をすくめてみせた。


イジメというものは

「嫌がらせされた時に誰も庇ってくれない」

事でエスカレートしていく。


前世ではジェリーはそれを痛感させられていた。

その記憶があるからこそベッタが

「助けてくれない傍観者=クズの偽善者」

という決めつけをする気持ちも判る。


(そりゃぁ、そういう物の見方になるよね)


だがーー


元から知り合いだった訳でもなく

友達でもない

気が合うとも思えない人間がイジメられていて

どれだけの人が自分もイジメられるリスクを背負って

「助けよう」

と思うのかは謎だ…。


(管理責任者の教務官達がイジメを放置してるせいで、こうやって子供同士の間に怨恨が生み出されるんだって事だけはハッキリしてる…)

ジェリーが疲れたような視線でベッタを見遣ると


「…とにかく、アタシは逃げる。アンタはアタシには会わなかったという事にしなよ。アタシは『鰐に喰われて死んだ』という事にしてもらう」

とベッタはジェリーに言い放った。


「…死を偽装するには食い散らかされた死体が要るよ?ベッタはその辺のことちゃんと分かってる?」


「『死体がない』とハッキリするまでは下水のドブ浚いをする筈だから、その間は時間を稼げる」


「絶対見つかる。拷問されるよ。絶対やめておいた方が良い」


「…このオジサンみたいに傭兵になる。戦う力があれば追手なんて怖くない。返り討ちに遭わせれば良い」


「…そんなに甘くないよ。世の中は」

ジェリーにはベッタが世間知らずに思えて仕方がなかった…。



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