騎士団見学
一通り質問して答えをもらった後ーー
ジェラルディーナはチェザリーノに
「騎士団の訓練て見学可能なんですよね?」
と更なる質問をした。
(「見学」という名目で他人をジロジロ見れる機会があれば、色んな施設に見学に行きたい)
と思っていたところなのだ。
「はい。見学も参加も可能です」
チェザリーノの返事を確認してから
「今から見学しても良いでしょうか?」
とジェラルディーナが訊くと
「残念ながら、私は今日非番ではないのでジェラルディーナ嬢を騎士団訓練場までご案内する事はできません」
との事。
「…自分1人で行けますが、『転生者』を発見した場合に名前とか身元を当人以外の人から訊きたいんで、フラティーニ家の人が騎士団にいるなら、その人の名前と容姿の特徴を教えて頂きたいんですけど」
「…そうですね。これといった特徴があれば教えるのもやぶさかではないんですが、フラッテロ家の遺伝子と違ってフラティーニ家は見た目の上では平凡なんですよね。
それよりは首都のフラッテロ家の分家から騎士団に入団してる者達もいるので、その人達を頼ると良いかも知れません。
異端審問庁のマカーリオ・フラッテロの従兄弟のリディオ・フラッテロが中央騎士団の見習いにいる筈なので、マカーリオからジェラルディーナ嬢の話も聞いている筈です」
「…リディオ、ですか?マカーリオからはそんな人物の話、聞いた事がありませんでしたけど?」
「…リディオ君は美形ですからね。騎士団内でもある意味で大層可愛がられている事もあって、そういうのを『我が一族の恥だ』とか思う価値観もあるという事ですよ」
「うわぁ〜…」
(ホモか…)
「リディオ君のほうでも自分が逞しい騎士の皆様のペット扱いだろうと気にしないたちの人物で、そっちの趣味が性に合うようで…。それが一部のフラッテロらの反感と嫌悪感を煽っているようです」
「…ウチにそんな親戚が居たんですね…」
「彼の事なら直ぐに判ると思いますよ。騎士見習いで一番の美少年を探せば、それがその人ですから」
「そうなんですね。わかりました。『転生者』を発見して、名前を知りたい時にはリディオを頼る事にします。
因みにリディオはフラッテロ家の能力は発現してる人ですか?」
「いえ。そういう話は聞きませんし、能力が有れば異端審問庁への入庁が勧められる筈なので能力無しの方だと思います」
「だとしたら、中央騎士団内の『転生者』は未発見の可能性がありますよね?」
「一応、マリアンジェラの再従姉妹らが男漁りも兼ねて騎士団見学してた時期もありました」
「そういう男漁りは実を結ぶものなんでしょうか?」
「フラッテロ家の女性に一目惚れして結婚を申し込む一般人男性は多いです。騎士もその枠に入ってます。
ですが『お付き合いはすれど結婚まではしない』結果が大半です。
その代わりのように騎士の姉や妹がフラッテロ家の女性の兄や弟に一目惚れして嫁いで来る事例が増えてます。
案外、フラッテロ家はここ半世紀くらい、士爵家から嫁いできた女性の血が多く混じり出してますね」
「他家には嫁に出さず、他家からの嫁入りは受け入れる、という方針は健在なんですね?」
「ええ。ですが恋愛はその限りではなく、自由です。ここ2、3年はフラッテロ家の令嬢は誰も年若い騎士や騎士見習いをチェックしていませんでしたが、それ以前は誰かしら男漁りのために訓練場見学に通っていました」
「という事は、何歳から何歳くらいの人達をチェックするべきなんでしょうか?」
「2、3年前に18歳から25歳までの令嬢達が自分の恋人候補を探して、同じ歳か歳上の方々をチェックしまくってたので…。
20歳から30代前半の人達だけは念入りにチェック済みです。それ以外の年齢の方々と、民間の参加者の方々をチェックして頂けると助かります」
「民間の参加者とかいらっしゃるんですね?」
「…傭兵や警備兵が自己鍛錬を兼ねて新兵用の訓練に参加される事があります。中にはリベラトーレ人ではない方がリベラトーレの戦力確認のために民間人に成りすまして紛れ込んで来る事も」
「なるほど…」
「ジェラルディーナ嬢はもう異端審問官ではありませんが、婚約者のルーベンは未だ異端審問官ですので、その方面で何かお気付きになられましたら、私に教えて下さればフラッテロ子爵家への定期連絡の際に情報共有させていただきます」
「その時は頼みます」
「あと、中央騎士団内のフラティーニ家の者達に関してですが…。互いに顔を知らない者同士が身内だと確認するには間に誰か入るのが一番無難だと思うので、騎士団内のフラティーニ家の面々に関しては私とジェラルディーナ嬢の非番が被る時に紹介しますね」
「…ありがとうございます。どうぞそのように宜しくお願いします」
「では私は先に侯爵邸へ戻りますので、馬車はどうしますか?ジェラルディーナ嬢の戻る時間が分かるなら、その時間に迎えに来させますが」
「帰りの馬車は適当に辻馬車を捕まえて乗り込む事にします」
「そうですか、では、お気をつけて。人目のある場所に居る限り、また人攫いに攫われるといった人災に遭う事も無いと思いますが、教皇庁の解体が未だ思うようには進んでいませんので、あまり気を抜かないようにしてください」
「…分かりました。では」
ジェラルディーナは特に深い考えがあった訳でもない。
単に『転生者』探しの第一歩として「見学」を思いついただけだ。
(それにしても…男漁りで見学に来てた人達って、本当に自分のためにしか能力を使って無かったんだな…)
とジェラルディーナは少し目眩を感じた…。




