運が良いのか悪いのか
「だが俺達はおそらく運が良い」
とルーベンは言う。
「えっ?どこが?」
と、すかさず否定したくなるが
ルーベンの話だと
「フラッテロ家の寄親であるフラティーニ侯爵も【強欲】の『転生者』だ」
との事。
そのフラティーニ侯爵は
「自分の魂の兄弟姉妹から徳力を超過搾取して怨恨を拗れさせるより、自分以外の【強欲】の搾取網を無効化して無力化してやった方が社会的安定にとって効率が良いんじゃないか?」
という考え方の人らしい。
ルーベンやアンジェロ達の徳力を搾取する【強欲】も
「いずれの派閥内に擁立されているのか」
既に目星がついているのだそうだ。
「…私もフラティーニ侯爵様の考え方に賛成です。『自分以外の魂を奴隷化して自分に徳力を集めて自己正当化を押し通す』ようなやり口を最も上手にやれる外道が神子として君臨するだなんて…
国の在り方として邪悪過ぎて間違ってる気がします。
要はフラティーニ侯爵は『(自分にとっての兄弟姉妹以外の)加護無し転生者を救済する事で自分以外の【強欲】の邪魔をする』ように意図してらっしゃるという事ですよね?」
「まぁ、そういう事だな」
そういう方針だとーー
「フラティーニ侯爵の魂の兄弟姉妹だけが社会的虐待から救われない」
という事になるのだが…
その辺はあまり深く考えずにおくに限る。
何せ
「フラティーニ侯爵以外の【強欲】達もフラティーニ侯爵と同じ事を考えている」
可能性が高い。
そうした【強欲】達に協力する『転生者』達もまた
「社会的虐待から自分だけが救われない」
という落とし穴ポジションに堕とされるのが
「自分でさえなければ良い」
と思っているかも知れない。
つまり
(私を犠牲にして自分達は助かろうとする奴らがアチコチに居るかも知れない…)
訳である。
それを思うと
「他人を犠牲にして自分達は助かろうとする」
心理が自分の中にある事を
「悪い事だ」
と自己批判する気は、どうしても起きない。
(運が良いのか、悪いのか、端的な判定はできないよね?)
と思ったジェラルディーナなのであった。
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退室後にジェラルディーナは報告書作成に没頭した。
異端審問庁を明日付で退職する事になったのだ。
退職後の進路としてーー
「ルーベンと婚約」
「フラティーニ侯爵家で侍女見習いとしてしばらく働く」
「ルーベンと結婚後はフラテッロ子爵家の侍女として働く」
という路線が用意される事となった。
(婚約者、ルーベン兄さんに決まっちゃったのかぁ…)
と、少しガッカリしたジェラルディーナに
「…実はお前にはフェッリエーリ伯爵から婚約申し込みがきているんだが…。嫌だろう?個人的に」
とアンジェロが含みのある言い方をした。
(ああ…。バレてるんだ…)
過去の黒歴史。
異端審問官の房中術習得は
「書物で知識を得る」
「専門の娼婦・男娼を相手に実践」
という方法が普通。
なのに何も知らなかったジェラルディーナは、研修期間の1ヶ月間、教官役だったランドルフォ・フェッリエーリに騙されて散々な目に遭った…。
まさか
「変態が教官役に就いて、新人を騙して性的に調教する」
なんて、そんな鬼畜な所業が罷り通るなどと…
普通は誰も思わない。
「えっ?新人研修って、こういう事されるの?」
と疑問に思いながらも…
当時はまだ羞恥心があって家族に相談もできなかった。
そんな無駄な秘密主義が仇となり
研修時期にジェラルディーナはやられ放題にやられた。
そんな生き恥が
(首都の親戚にまで周知されてるのか…)
という事実に慄然として…
ジェラルディーナは
「…その言い方だと、今現在のフェッリエーリ伯爵は『あの人』だという事ですよね?
…お気遣いいただいて、有り難うございます。『あの人』との縁談はどうか絶対に綺麗サッパリ断ってください。
…ですが、従兄弟と結婚というのも遺伝子的にどうなんでしょう?血が近過ぎると思うんですが?」
ときまり悪そうに指摘してみたところ
アンジェロは
「問題ないんじゃないか。お前らは父方の従兄弟だが、お前もルーベンも母親似だ。お前の母方の祖母はカルデローネ士爵家の分家からの嫁入りだったし、ルーベンの母親はベルニ士爵家の分家でこれまで全く姻戚関係が無かった」
と澄まして返答した。
「何より『転生者』同士で互いに身を守ってくれてた方がこちらも面倒が少なくて済む」
という本音までポロッと漏らしてくれたこともあり…
ジェラルディーナは
(アンジェロ・フラテッロ子爵に思慮深さを期待してはならないという事は、もうちゃんと理解できてる…)
と独り納得し
「了解しました」
と了承の旨を伝えた…。
(ルーベン兄さんも「異論なし」の意で頷いてるし…)
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その後も、『転生者』問題に関しては大事なアドバイスを受けた。
「…魂の兄弟姉妹は同時期に産まれる。つまりはお前の【強欲】はお前と同じ歳くらいの奴らが怪しいって事になる。
それによってお前にチョッカイをかけたガストルディ侯爵派が擁している【強欲】が『お前と同じ歳頃なんじゃないのか』と推理できる」
とルーベンが教えた。
ジェラルディーナは
「なるほど…」
と頷いた。
こちらを餌にしようとしている【強欲】を
「年齢から推測できる」
というのなら、特定はそう難しくはない。
尤も普通に暮らしていても遭遇する機会自体がないのだから、瘴気の状態を看るという事もないのだが…。
「そういった事情もあり、ガストルディ侯爵家及び、ガストルディ侯爵家と縁の深い家々でお前と同じ歳頃の連中をリスト化してみたところ、運の良い事にそのうちの何人もが王立学院に在籍している。
王立学院ではロベルトが寮暮らししているし、お前もロベルトの従僕のフリをして学院寮に出入りしても良いんだぞ?
ロベルトは『瘴気を認識する感性』が未だ未発達だしな。お前が自分で容疑者を割り出しに行っても良い。
ロベルトはお前と違って文武両道だから一緒に居ればまんまと人攫いに遭うような事も無いだろう」
「…私、頭悪い訳じゃないと思いますけど…」
「お前は『自分にとって興味がある事柄』に関する記憶力は凄まじいが、それ以外だと平凡だろうが。
武道の才もない。日傘・雨傘に仕込む仕込み杖を上手く使う事もできない。
お前みたいなレベルの暗器術じゃ不意打ちが決まる以外では誰一人殺せない」
「…スミマセン」
ルーベンとのそうしたやり取りの結果ーー
ジェラルディーナはロベルトが休日の日に
ロベルトと行動を共にする事になった…。




