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ダレッシオ大教会

挿絵(By みてみん)


リベラトーレ公国最北部、旧都ダレッシオ。

そのダレッシオの地下。


そこには数十人もの少年少女が囚われている…。

ジェラルディーナ・フラテッロもその一人。


囚われている少年少女の身分は千差万別。

貴族家の令息・令嬢も居れば貧民もいる。


「身分差を感じさせないように」

という事なのだろうが…

ここでは姓を名乗る事が許されていない。


ジェラルディーナ・フラテッロは

「ジェリー」

と名乗らされている…。


とは言え、略称から本名の予想はつく。

ウル→ウルバーノ

リオ→リオネッロ

フィロ→フィロメーナ

プル→プリシッラ

といった具合に。


ジェリーの班は5人組。

ウル

リオ

フィロ

プル

ジェリーの5人で作業して暮らしている。


皆、攫われてきて、此処にいる。

ジェラルディーナもそうだ。


ジェラルディーナ・フラッテロ。

ジェリーがーー

生まれ育ったフラテッロ家は刑吏一族。


異端審問庁に代々勤務する一族の家柄だ。


本家はフラッテロ子爵家。

(子爵家の寄親はフラティーニ侯爵家)

一応「貴族家に連なる家の娘」という事になる。


初めは地元ガッダの異端審問庁西都支部に勤めて

途中から首都ロッリの異端審問庁本部へと栄転になり

親元を離れてロッリで新生活を始めて間もなかった。


そんな頃に人攫いに遭い、ダレッシオまで連れて来られた。


このダレッシオは旧ダレッサンドロ皇国時代の皇都。

聖教の大本山でもある。


教育を受けた者達なら誰でも知っている事ではあるが…

リベラトーレ公国は元はダレッサンドロ皇国の一地方。


ダレッサンドロ皇国が

アルカンタル王国

リベラトーレ公国

ルドワイヤン公国

の三つの国へ分裂。


そしてそのダレッサンドロ皇国だが

「三つの秘蹟」があった事が有名。


それらが丁度アルカンタル地方・リベラトーレ地方・ルドワイヤン地方にて起きるものとされていた。

今現在では秘蹟発現地方が国名へと昇格している訳である。


ダレッシオ大教会の地下では

「秘蹟体現者の早期発見と早期教育」

を目的として


攫われてきた少年少女が

「刑務所暮らしのような清貧・奉仕強制生活」

を強いられている。


アルカンタル王国の先読みの秘蹟体現者である予言者

リベラトーレ公国の恩寵の秘蹟体現者である神子

ルドワイヤン公国の癒しの秘蹟体現者である聖者

その候補者達が集められているのだ。


「それぞれの秘蹟体現者はそれぞれの地でしか生まれない」

という事もあり


アルカンタル王国から攫われてきた子達の中には予言者が

リベラトーレ公国内から攫われてきた子達の中には神子が

ルドワイヤン公国から攫われてきた子達の中には聖者が

それぞれ含まれている可能性があるものと見做されている。


だが具体的に

「予言者は何をもってして予言者なのか」

「神子は何をもってして神子なのか」

「聖者は何をもってして聖者なのか」

は迷信じみた伝承に彩られていて明確ではない。


ジェリーも他の子達同様に

「何ができれば『神子だ』という事になるんだろう?」

という点では無知だった。


(予言者は予言ができれば予言者なのかな?と予想がつくし、聖者も癒しの術を使えれば聖者なのかな?と予想がつく…)


一方で神子は…

「国に富をもたらすのが神子だ」

と言われても漠然としすぎている。


「画期的な搾取術を編み出せば神子だ」

と言えるのだとしたら…

それは余りにも世俗欲に満ちている恩寵だと言える。


(此処では不透明な事が多過ぎる…。本気で萎える…)


ジェリーが攫われてきて半年近く経つ今となっては

ジェリーも他の子達同様に逃げ出す事を諦めてしまっていた…。


人間は段々と抑圧された強制労働生活に適応できてしまう生き物。

「半年もすれば非日常は日常になる」

のだ。


しかし、そんなある日のことーー


物騒な事件が起きた。


「地下水路に大型爬虫類が棲みついた!」

というのだ。


勿論

「勝手に大型爬虫類が何処からかやってきて棲みつく」

などという事はない。


「酔狂な金持ちがペット用に取り寄せて、地下水路に捨てたのだろう」

という話だった。


大型爬虫類ーー鰐ーー。

南方に生息する生き物らしく寒さに弱い。


「冬には水温も下がるし、それで死んでくれるだろうが…。それまで水路の清掃ができないというのも不衛生だ。

各自、鰐の所在地を把握して、遭遇を回避しながら清掃するように」

と言い渡されていたが…


とうとう死人がでた。

アルカンタル王国から攫われてきていた女の子だ。


アルカンタル組の子達が騒いでいたので

リベラトーレ組にもルドワイヤン組にも

「一人少女が死亡した」

事が伝わった。


気の弱い少女数名が泣き出したが…

その涙は死んだ子の命を惜しんでのものではなく、こんな場所に囚われてる自分自身を憐れんだ涙なのだとジェリーには判った。


人間、悲惨な環境に在ると

「他人の不幸を悲しんであげる心の余裕すらなくなる」

のだ…。


犠牲者の遺骸は

「腐肉が病原菌の発生に繋がりかねないから」

という衛生面の都合により


大人達によって回収されたのち

埋葬はされず…

焼却炉で燃やされた。


まるで罪人のように…。


(…アルカンタル組の子だったから「予言者候補」だったのだろうに…ちっとも大事にしないんだな。死んだ後までも…)

そう思うと、ジェリーは本気で気が滅入った…。



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