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生存率

挿絵(By みてみん)


異端審問庁ではーー


ジェラルディーノ・フラッテロが行方不明になって1ヶ月も経った頃には職員の殆ど全員が

「生存率は絶望的だ」

と見ていた。


ただでさえ官吏は恨まれやすい。

不正を行って恨まれる者もいるが、大半は単に職務を遂行しただけで逆恨みされて、拉致され殺されている。

特殊官吏である刑吏の場合は尚更だ。


誘拐犯が何かしら要求を突き付けて来る時には誘拐犯側の正体も掴めるが…

そうでなければ逆恨みも含めて容疑者予備軍が多過ぎてろくに犯人を特定もできない。


ジェラルディーナの場合は

「異端審問官として働いた期間は実質半年と少しで、関わった事件の件数も少ない」

「彼女を明確に恨んでいる者達がいる」

ので容疑者の特定は簡単だが…

だからこそ

「それに紛れて害を為す」

ような者も出て来かねない。


どの道

「容疑者は異端審問庁関係者」

という答えが割り出される。


ジェラルディーナが行方不明になって以降

「コスタ家・コスタクルタ子爵家」

には監視が付けられたが…


「外部に実行を依頼して既に依頼料も支払い済み」

だとするなら

「事件後に監視を付けても犯行の証拠は出ない」

可能性が高い。


異端審問庁の捜査能力は一流。

だがその捜査能力は同じ異端審問官一族を探るのではなく

あくまでも「異端者」へ向けられるべきもの。


「コスタ家・コスタクルタ子爵家に対する家宅捜査は行わない」

と長官が判断している。


コスタ家・コスタクルタ子爵家が犯人だった場合

「彼らが余程のマヌケでない限り、彼らは捕まらない」

事だろう…。


「異端審問庁が身内監査ではどうやらアテにならない」

と見切りをつけたからなのだろうが

「ジェラルディーノ・フラッテロの親族が傭兵を雇って捜査させている」

らしく…

「フラテッロ家が私的に動いている」

様子が見られる。


あと、意外な事に

「フェッリエーリ伯爵がジェラルディーノを探すのに懸賞金をかけている」

事が明らかになっている。


フェッリエーリ伯爵はコスタクルタ子爵家の寄親。

少し前に前伯爵が亡くなり、前伯爵の弟が爵位を継いでいる。


「一体、何を考えているんだ?」

と皆、不審がり

「自分らで拉致して殺しておいて、疑いから免れるために懸賞金までかけて捜索してるフリをしてるんじゃないのか?」

と密かに囁きあっている…。



「…そう言えば、ジェラルディーノは弟のロベルト・フラテッロと一緒に首都に出てきたんだったな…」


ジェラルディーナの(ジェラルディーノの)同僚だったトマーゾ・バルディーニがふと思い出した。


ロベルト・フラッテロは優秀だ。

首都の王立学院で成績は常に上位をキープしているらしい。


ジェラルディーノ・フラッテロが行方不明になって半年が経ち

「生存の可能性は無い」

と皆が思ってる中ーー


何故かフラテッロ子爵であるアンジェロ・フラテッロはジェラルディーノの生存を確信しているらしく

「ジェラルドの(ジェラルディーノの)帰還にはおそらく相応の大金が掛かる」

と予算を組んでいた事が判った。


それに対して

「公金の私的流用だ!」

と誰も文句を言わないのは

「異端審問官が誘拐される」

という危険がこの社会ではありふれた出来事であり

「明日は我が身」

と誰もが内心で不安に思っているからでもある。


トマーゾ・バルディーニは実家及び本家のバルディーニ子爵家から

「ジェラルディーノ・フラテッロの様子を監視し定期的に報告するように」

という命令を受けていたので

「ジェラルディーノは行方不明になった」

とちゃんと手紙で書き送った。


現在は監視対象がいないので

「監視員役はおしまいだろう」

と思うのだが

「その後の進捗はどうか」

と返事の催促が度々来ていた。


実家及び本家のバルディーニ子爵家も

「ジェラルディーノ・フラテッロは生きている」

と思っているかのようだ。


つい先日は

「アンジェロ・フラテッロが金を支払う逃し屋がどの土地の逃し屋なのかを確認するように」

と、おかしな指示まで来て、流石にトマーゾは首を傾げた。


(そこには何か秘密がある)

という予感がヒシヒシとしてくる。


だがそうした秘密に立ち入る勇気はない。

(ジェラルディーノは良いヤツだったが…。ジェラルディーノのために自分を危険に晒す程の絆はない…)


トマーゾは社会の真実の一端を理解している。

「人間社会は特権階級の人々の偏執狂パラノイアによって舵取りされている」

という真実を。


貴族家の邸宅には地下室が必ずという程作られていて

「立ち入り禁止」

となっている。


それこそ何か異端的な儀式が行われている可能性があるものの…

「それを知るべきポジションではない者がそれを知れば殺される」

という禁忌感によって

「知りたいとも思わない」

状態なので

「ただ指示に従って言いなりになる」

しかないのである。


異端審問庁に入庁して異端審問官になってからも

「貴族を異端者として告発する」

ようなつもりは全くない。


「自分自身の保身だけが一番大切なのだ」

とトマーゾは本能的に理解していた…。




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