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賞金首引渡し

挿絵(By みてみん)


検問の突破はポンペオの言った通り何の問題も無かった。


塩漬け肉の樽の中をわざわざまさぐる門衛もおらず、樽の蓋を開けて上面をパッと見ただけで

「よし、異常なし」

と通してくれた。


問題は検問を過ぎて街道へ出てから。

何度となく襲撃があった…。


盗賊は野盗と強盗に分類される。

強盗は町や村の囲いの中で活動し、野盗は囲いの外、街道沿いで活動する。


野盗の内、山で活動する連中は山賊と呼ばれるが、地形を知り尽くしてそれを利用してくる分、特に手強い。


騎士団の参謀部などはそういった地形を利用した戦闘への対応をどうするのかという点で評価が決まるのだが、異端審問官のような暗部の活動をする組織も同様だ。


異なるのは騎士団が正攻法で戦うのに対して

異端審問官の場合は陰湿に罠を張る戦い方となる。


ジェラルディーナは異端審問庁のセオリー通りに

「野営の前には野営地へ襲撃しやすいルートを想定して罠を仕掛ける」

という予防線を張ったが…


それが無駄になる事なく、悉く野盗・山賊が罠に掛かった様子を見て

「ホント、世の中物騒なんだな…」

と世の中の実情にガッカリした。


商隊の専属護衛にもダニエーレにも言える事だが

「戦闘職の人間は戦闘中異様に口が悪くなる」

という特徴がある。


そしてそれは野盗・山賊にも言える事。


雄叫びの一種だろう。


自分自身に檄を飛ばして自分自身を奮い起こすために

「死にさらせ!」

「こん畜生!」

「クソ虫が!」

だのと怒鳴りながら戦っている…。


ジェラルディーナとは真逆。

異端審問官の短剣術や暗器術は暗殺者のそれに近く…

背後を取って、無言で殺す…。


周りがジェラルディーナとは違う騒々しい戦い方なので

「野蛮人だらけだ…」

と感じる。


逆に護衛やダニエーレの側から見ると暗殺者のような戦闘形式は不気味で気持ち悪い。

何を考えているか分からない人間が背後を取って音もなく首を狙ってくるというのは、自分がやられているのでなくても気分が悪い。


「お前は戦闘に加わらなくて良い。大人しく樽にこもってろよ」

とダニエーレが苦笑して戦闘参加を牽制するが


「塩分で肌がふやけて浮腫むので、長時間の樽籠りは健康上無理があります」

とジェラルディーナはダニエーレの意見を否定。


ベッティーナは検問を過ぎると早々に樽から出て、乗り合い馬車の乗客気分でアレコレ不満を言い続けているのだ。


「ジェラルディーナだけを樽に押し込めておく」

という訳にもいかず…

ダニエーレはジェラルディーナの行動を容認するしか無い。


現に、ジェラルディーナのお陰で戦闘に余裕がある。


自分達とも盗賊とも違う静かな殺し方。

それは確かに有効なのだ。


だが専属護衛達の間で不満が溜まっていく…。


「行き先が異端審問庁本部って話だから異端審問庁の関係者だって事は分かるが、何とも不気味なヤツだよな…」


「ああいうのが揃ってるのが異端審問庁なのかと思うと、やっぱり物騒な組織だな」


「だが占星庁よりはマシだって聞いた事があるぜ。占星庁の職員ってヤツらになるとマジでおっかないらしい」


「自国の公的機関とは言え、胡散臭い連中の巣だな」


「いや、よその国の占星庁や異端審問庁も似たようなものだって聞くぜ」


「何考えてるのかよく分からない連中に生殺与奪権を握られてるのに普段それを意識もせずに生きるってのが、ラスティマ圏の人間の宿命なんじゃねえのか?」


「まぁ、色々深くは考えずにおくに限る」


「詮索が虎の尾を踏む事になりかねんからな」


専属護衛は好き勝手に言っている。

だが彼らの意見が世間一般の異端審問庁の評価。

不気味だと嫌悪感を持たれてもジェラルディーナは文句も言えない。


一方でーー


山賊の首領と幹部は賞金首だったらしく、商隊主は

「生首を大きな街まで運んで賞金を受け取る」

つもりのようだ。


悪党の賞金首など普通は

「領主の管轄下の警備兵詰所へ提出するのか?」

と思いそうになるが、賞金をかけているのは領主ではない。


金持ちの商人が

「身内が殺された」

場合に賞金をかけるというのが、この国の通常モード。


人探しや賞金首などは住民台帳を扱う町役場の住民課職員が

(住民から依頼と金を受け取って)

依頼引受人を公募している形だったりする。


住民課職員など戦闘職ではないので

「生首を見たら悲鳴をあげて倒れそう」

なイメージがあるが…


実際には

「行方不明者が惨殺死体で発見される事も多い」

世の中。


「発見された死体の身元確認を行方不明者の身内と共に済ませる用件も数多くこなす」

ので、住民課職員には検死の心得もあり、案外死体に慣れてる人が多い。


白骨遺体の骨格から病歴や民族性を割り出す人類学も

「この遺体は誰で、犯人は何者でどんな目的で殺したのか?」

という事を知る必要性があって発展したものだ。


外国人が外国人を殺して死体を遺棄したり

外国人が現地人を殺して死体を隠したり

そういった事件の背後に現地への侵略や淘汰が含まれていたりもする。


国防という点で、国の権威者はそういった部分を曖昧にせずに観察し、干渉・調整する必要がある。

人類学を(法人類学とも呼ばれる)発展させるための人類学者への投資も必要。


複数の国々が陸続きで連なってる大陸国家群では

「人種の区別やアイデンティティの在処の違いは蔑ろにできない敵味方識別情報」

として理解されている。


寄生虫の乗っ取り侵略のような手口に警戒心を持つから

基本的によそ者は、特に外国人は警戒される。


死体から何処の誰かなのかを割り出し、生きてる人間からも骨格や話し方のイントネーションで人種や故郷を特定。

仕草で育ちを把握、格好で階級を把握。


そういった「他人を値踏みする識別力」は官衣貴族やそれに連なる官吏達にとって必須の知性なのだ。


町役場の職員を見るだけで

(どの道、領主のコネで構成されているので)

「その土地の領主の質が判る」

というもの。


(山賊達は骨格や言葉からして外国人の寄せ集まりだったけど…。ここの役場の人達はその事実をどの程度重視するんだろう?)

と気になる。


そんな事もあり、ジェラルディーナは生首の引き渡しに役場まで付いて行きたかったが…


「何処に教皇庁の回し者がいるか分からないんだ。マジでお前、いい加減に大人しくしとけよっ」

とダニエーレにキレられて、流石に諦めた…。


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