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有責のなすり付け合い

挿絵(By みてみん)


中庭のベンチには既にカップルらしき男女が隣り合って座っていた。


身を寄せ合って顔を近づけてヒソヒソ話をしては

「きゃっ」

とか

「やだぁ〜」

とか女子の方が甲高い声で嬌声をあげて

「もう〜」

と、しな垂れ掛かっている。

典型的バカップル…。


かと思いきやーー


そこにお邪魔虫のご令嬢がやって来て

「私という婚約者のある身で他の女性と距離が近いのは誤解の素ですからくれぐれも気をつけてくださいと、あれ程言いましたのに、改めてくださらなかったのですね?」

とバカップルの男のほうに向かって言い出した。


思わずジェラルディーナもロベルトも呆気にとられた。

((えっ!男のほう、婚約者が別にいたの?))


ジェラルディーナとロベルトは目配せして頷き合う。

((とっととこの場を去ろう…))


関わり合いになるとロクなことにならない。


ロベルトはトリスターノに向かって

「先輩、とりあえず人目の少ない場所まで行きましょう」

と声をかけて今出て来た校舎へとまた入る事にした。


中庭のバカップルと、男のほうの婚約者令嬢はまさに修羅場に突入しそうだ。

校舎の中の学生達も

「おっ!面白い見せ物が始まりそうだ!」

と中庭を覗き出した。


幼い頃から聴覚強化訓練はしていたのでジェラルディーナもロベルトも聞きたくないのに修羅場での会話が聞こえてきていた。


「婚約者がいるのに他の男に色目を使って浮気しているのはお前だろうが、オレ達のほうは純粋に異性間の友情を温めているだけだと言うのに、お前のような穢らわしくも浅ましい女は、何でも自分と同じレベルに引き下げる物の見方で卑しめてしまわなければ気が済まない性分らしいな」


「『純粋に異性間の友情を温める』行為に人前での口付けやサロンでの性交も含まれるというのは初耳ですわ。

そちらの貴族令嬢もどきのお嬢さん、ちょっと調査しただけで三股掛けてる事がすぐ発覚しましたのに、スゴイですわぁ〜。

入学時にいらっしゃらなかった人が編入生として中途入学なさった原因が性病による闘病生活だなんて、さぞや異性間の『友情』とやらがお盛んでいらっしゃるのねぇ」


「醜いな。自分が醜くて口喧しくて男に相手にされないからと、有る事無い事ほざいて、他人の風評を貶め社会的に抹殺でもしようというつもりか。

お前のような醜い女など、どんなに足掻いても誰も相手にしないし、そんな人格破綻した悪辣な人間性では、そもそも大勢から恨まれて、先の人生、長生きできなくなるんじゃないのか?」


「穢らわしい。その女に感染させられた性病の菌が頭にまで回って正気さえ無くしたの?長生きできないのは貴方のほうでしょう。

婚約破棄はそちらの有責で行います。契約不履行の違約金も、一方的な浮気と名誉毀損の慰謝料も相場の倍の金額で請求させて頂きますので、お支払い、宜しくお願い致しますわね」


「金を払うべきはお前のほうだ。いつも男を侍らせている淫乱のくせに、今日は随分と調子に乗る。

お前と楽しんだと証言する男は大勢いるんだ。醜女のくせに、自分の容姿を自分で恥じて身を慎む謙虚さすら持ち合わせない尊大な雌犬めが。

ナメた口を利きやがるなら二度と見られない面にしてやっても良いんだぞ」


「…頭が悪いのも大概になさいませ。これだけ証人となる人々の耳目が集まってる中で虚言で女性を貶めた挙句に暴力まで振るえば即退学ですわ」


「おいコラ、ビビってんのかぁ?怖いんなら『申し訳ありませんでした。お金は言い値で支払います』って今すぐ謝りやがれ。クソビッチ!」


などといった罵詈雑言が耳に入ってきて

(聞いてるだけで耳が穢れそう…)

とジェラルディーナは気が滅入った。


男女間の憎しみ…。

それは前世の夫との間で嫌という程に味わった。


「あの男、本当にクズだね」

ロベルトも不愉快になったらしい。


トリスターノは、ああいうものを見慣れているらしく

「どちらが有責かをなすり付け合う婚約破棄間近の婚約者同士というのは、大抵ああいう様子だ。人間性の本性が丸分かりになるんで次の世代の家同士の付き合い方を検討する材料にはなる」

と冷静なコメントを発してくれた。


「野次馬は単に面白がってるだけじゃなくて、『あのクズが家を継いだら…』とか考えながら人間性を分析してたんですね?」


「家を継ぐ嫡男同士だと、そういう視点になる。勿論、次男以下の自由な身の者達はただ面白がってるだけかも知れない」


トリスターノ・ガストーニに言わせると

「何をどう捉えるのかは、どうやら各人のポジションに応じて変化する」

というものらしい。


「婚約者がいるのに浮気して更に相手の有責で婚約破棄しようとしてるさっきの令息の場合、どういう評価になるんでしょう?」


「白を黒に、黒を白に、加害者と被害者とを入れ替えて見せる誤認誘導は『そうしたい』と願う個人単体では決して実現しない。

貴族社会では有力なコネクションの有無が問われる課題だ。

さっきの令息も、有力なコネクションが有れば彼の思い通り婚約者令嬢側の有責で婚約破棄できるし、有力なコネクションが無ければ物事の道理に従い彼の有責で婚約破棄される。

それらのコネクションが自国内の既存権力に属するものなら、君達はそれを認識する事もないだろうが、それらのコネクションのが異邦権力由来なら異端審問庁に回される問題になるので、君らの親族のよく知る所となる筈だ」


「…そうなんですよね。異端審問庁は異邦権力に対抗するものとして存在許容されている組織だから、自国由来の権力に対しては目を瞑らざるを得ない。それがどんなに悪質でも…」


「…そういう話をされると自分の未来に夢も希望もなくなるような…」

ロベルトが顔を顰める。


社会間の仁義なき闘いは団体戦・派閥戦でもある。

加害者と被害者が入れ替えられる胸糞詐欺も普通に罷り通るのが世の中…。


「(ハァァーッ)…とにかく、備品室には誰も居ませんし、備品室へ行きましょうか」

ロベルトにそう言われてジェラルディーナは頷くものの


(人目に付かない所に行くと「ビビアナ嬢を怒らせる」事に失敗するかも知れない)

と少し不安に思った…。



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