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静かに飲ませてくれませんか

「うぇーい!碧空主任の出陣をお祝いしまして乾杯~!!」


音頭とともにジョッキがぶつかり合い、店内に笑い声が響いた。

ビールの泡が弾ける音、焼き魚の脂がジュワっと滴る音。

店員の威勢のいい掛け声が賑わいをさらに引き立てる。


各テーブルでは刺身の舟盛りがどんと置かれ、湯気の立つアラ汁、

ぷりぷりとしたホタテのバター焼きが次々と運ばれてきた。


少しは私も感傷的に……なるかと思ったのだけど、

よりにもよって幹事してるのがアイツだとはね。


どういう乾杯の挨拶だよ。

ほら、森田課長に小突かれてるじゃん……。

ふつうは門出を祝ってとかじゃないの。


そんなことを思いながら

当たり障りのない会話をしながら、ビールを流し込む。


送迎会か。

やっぱり苦手なんだよな……。

こういう飲みの場って昔から。


「碧空しゅに~ん、さびしいっすよぉ」


ああ……この軽薄そうな声となめた口調。

天原だ。


「そうですか」


「反応ひど!?もっとこうなんか……ほしいっすよ!」


「なにをですか?」


「かわいい後輩なんで、こう、労いというかですねぇ」


「……がんばってください。あと、提出してくれた清算ですが領収書の画像添付してくださいね」


「え!?いやなにもこんな時に……てか、別の人はそんなん出してないじゃないですかぁ」


「あなたは計算を間違っていたりするからです。最終的な責任をもたされるのはこちらなんですよ」


「うっ……すんません」


「私がいなくなったあとに、迷惑をかけることはないようにしてくださいね」


「いや、てか、そんなことより……」


食い気味に乗り出してくる天原。

私は思わず彼の顔を凝視(ぎょうし)してしまった。


―――こいつ、顔はいいのがムカつく


はっきりとした二重まぶたに縁取られた瞳はどこか儚げ。

整った鼻筋と小さく上品な口元はまるで彫刻のようで、中世的な顔立ちだ。


―――ふつうの女ならすぐ堕ちるんだろうな


幼さすら感じる愛嬌のある笑顔。

それに心奪われた女の子は数知れずってところかな。


隣の席の女の子たちも無意識に背筋を伸ばし、彼に視線を向けた。

前髪をとっさに直す子までいた。


「そんで、碧空さんて彼氏とかぁ―――」


「おい、そういうのはセクハラだぞ!」


身を乗り出した天原を抑えてくれたのが、森田課長だった。

こうやって私が困っている時にはなぜか助け船すぐくれるんだよな。


「あ、いや課長、べつにそんな」


「すみませんね、こいつが……。まったく、変な事きくんじゃない」


うちの会社では課長クラスといえば、おじさん連中ばっかだ。

けど、この人だけは私よりも若い課長だ。

33歳ぐらいだっけ……よく覚えてないけれど。


彼の顔立ちは端正で、整った眉と鋭すぎず柔らかすぎない目元。

それが知性と穏やかさを兼ね備えていることを物語っていた。


「今まで大変お世話になりました。碧空主任がいてくれたおかげで仕事がまわっていたといっても過言ではないでしょう」


鼻筋はすっきりと通り、口元には常に余裕を感じさせるほのかな微笑が浮かんでいる。

年齢の割に落ち着きがあり、それでいて威圧感は一切ないのだ。

この人も天原とは違う、モテる大人の男なのだろうなと納得させられる。


「いえ……ありがとうございます」


「ふふ、お酒もけっこう得意なんですね。よければどうぞ」


「あ、ありがとう……ございます」


手元のグラスに注がれていくビール。

ふと天原を見ると、心配そうに私を見ていた。

なんなんだこいつ。







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