教えてくれませんか
黒を基調とした端正な燕尾服に、白い手袋をはめた長い指。
隙のない佇まいは、まさに上質な執事を思わせる。
しかし、異様なのはその姿――青白い肌に、闇の中でもはっきりと映える深緑の髪。
オールバックに整えられた髪は一糸乱れず、額の形すら完璧に際立たせている。
―――執事……だよね見た目的に
彼の顔立ちはまるで彫像のように整っていた。
端正な鼻梁と薄く形のいい唇が、どこか超然とした気品を醸し出していた。
長く鋭いまつげの奥で、深い緑色の瞳が静かにこちらを見つめている。
その目には感情の揺らぎがない。
ただ、じっと見つめるだけの冷たい静寂。
「――ああ、なんという僥倖でしょう。こうして再びお目にかかれるとは……。夢のように儚く消え去ったあの日より、幾星霜。この時を待ち焦がれておりました」
「げに偉大なる主、メリジューヌ様」
彼は静かに膝をつき、私を見上げる。
薄闇に揺れる青白い肌、冷たい光を宿した瞳が、じっとこちらを捉えて離さない。
とんでもないイケメンレイヤーだけど……。
ひとまず状況を確認したい。
職場に連絡もしなければ。
「あの……メリュジーヌ様って一体なんですか?それと、ここはどこですか?」
静寂を切り裂くような問いかけだった。
その瞬間、目の前の執事の表情がわずかに揺らぐ。
瞳がかすかに見開かれ、細く整った眉がほんの一瞬だけ震えたように見えた。
しかし、それはほんの刹那。
次の瞬間には、まるで何事もなかったかのように。
彼は再び優雅な微笑を浮かべていた。
「成程。目覚められたばかりで記憶が混濁されているのですね」
「致し方ない事でございます。長きにわたる睡眠でございましたから」
彼はゆっくりと背を正し、私を見つめる。
その瞳にはどこか懐かしむような、
あるいは嘆くような感情が宿っているようにも見えた。
「メリュジーヌ様は、この城の主にして我ら暗魔の血族の長」
執事の言葉はまるで詠唱のように静かに紡がれた。
「そして、ここは"夜霧の城"。星なき空の下、長きに渡り我らが眠り、そして目覚める場所――貴女様の居城でございます」
彼は窓際に歩いていくと重厚なカーテンをわずかに開いた。
窓の外には、果てしなく広がる暗黒の空。
霧が蠢き、闇に溶けるように城の尖塔がそびえている。
執事は静かに笑んだ。
「おかえりなさいませ」