真(新)説! ハロウィーン伝説 ~カボチャとスイカが一年中競い合っている話~
刑部村出身の貴は進学のため上京し、都内のマンションで一人暮らしをしていた。ハロウィーンの前日に母(絹江)と弟(勇次)が、村で収穫したカボチャを持って訪ねてきた。村に古くから伝わる、カボチャ伝説という行事の一環で、言い伝えを守るために持参したのだった。だがこのカボチャ伝説、じつはもう一つのハロウィーン伝説だった。母と弟がカボチャと一緒に村の亡霊も連れてきてしまった為、貴はいろいろなトラブルに巻き込まれていく。『真(新)説! ハロウィーン伝説』、新ジャンル? ギャグホラー(ミステリー、サスペンス)が始まる。
プロローグ
ここは都内某所にある、マンションの正面入口。セキュリティ完備の、ありふれた造りのマンションだ。玄関には高級感を出すためか、電球色の照明が灯されている。外玄関の自動ドアを抜けると、各住居への集中式ドアホンが設置されている。今、三○七号室の呼び鈴を押すべく、得体の知れない不思議な生物が静かにドアをくぐり抜けた。いや、見間違いでなければ、ドアを開けずにすり抜けたように見えた。玄関の照明に照らし出され、壁に映ったその影は、頭部が異様に大きく、マントのようなものを身に纏っているように見えた。その影はマンションの入り口付近で、辺りの暗闇の中に溶け込むように消えた。そしてこの物語はこのマンションの一室、三○七号室から始まる。
今のは夢だったのだろうか、いや、夢であってほしい。見渡すとそこは見覚えのある風景だった。それもそのハズで、そこは自分の部屋なのだが、その事実に気付くまで何秒経過したのだろう。どのくらいの時間が経過したのか自分ではわからなかったが、ほんの数秒だったと思う。
(そういえば、風邪気味で寝てたんだっけ。今何時頃かな。)
枕元の時計に目を向けると、午後七時を少し過ぎていた。少し休んだせいか、いくらか身体が軽くなったような気がした。
(母さんたち、そろそろ来る頃かな。)
十月の下旬ともなると、少し肌寒さを感じる。風邪気味なのも、その影響によるものだろう。私は、部屋の明かりを点けるため、毛布をどけて立ち上がった。照明が灯ると再び毛布をかけたが、先ほどまであった天井が回ったり揺れたりする現象は感じられなくなっていた。
(そろそろ来る頃だな。)
そんなことを考えていた矢先、玄関のチャイムが鳴った。
『ピンポーン。』
チャイムが鳴りそうだから目がさめたのか、チャイムの音で目が覚めたのか、まだボーッとしている私には、理解できなかった。それでもチャイムが鳴ると条件反射のように反応し、応対してしまう自分がいることに気付いた。そして、チェーンロックをはずし、玄関のドアノブに手をかけ、ドアを開けた。いつもなら確認用のドアスコープから外の様子を確認してから開けているのだが、誰が来たのかがわかっていたから無意識のうちに開けていたのかもしれない。
「早かったね、母さん。」
「貴、寝てたのかい?」
(貴………、そう、これが自分の名前だったっけ。)
「ちょっと風邪気味でね。さっきまで熱っぽかったんだけど、寝てたら大分楽になった。」
「貴、大丈夫なのかい?」
「兄さん、大丈夫?」
(俺のことを兄さんと言うこいつは、えーっと……… 、確か弟の勇次だったっけな。でも、おかしい。何故家族の名前がすぐ出てこなかったんだろう。)
姿・形は家族でも、いつもと少し様子が異なる、どこか違和感のある人物達であることに気付くまでには、もう少し時間がかかるのだった。
「少し風邪気味でね。ちょっと横になってたんだけど。」
「貴、薬は飲んだのかい?」
(俺の名前を知ってるってことは、母さんたちに間違いない。単なる思い過ごしか。だが待てよ、母さんの名前は何だっけ。えーっと、確か絹江………、だったよな。)
疑っているのか、用心深くなっているのか自分でもわからなかったが、こんな考えが一瞬にして頭のなかを通り過ぎたのは確かだ。
ようやく現実に戻った俺は、会話の続きを思い出しながら、次の言葉がやっと口から出たといったような感覚だ。
「飲んでないよ。さっきまでに比べれば、大分楽になったしね。横になってたからかな。まあ、ここで立ち話も何だから、入って入って。」
安心したからか、言葉も軽くなってきた感じだ。
「思ってたより、早かったね。」
「遅くなるといけないと思ったからね。早く着いた分、買い物を済ませてきたのよ。」
リビングまでの数メートルを話しながら歩いた。そのあとを弟の勇次が荷物を持ってついてきている。今まで横になっていたため、ソファーに毛布が乗っている。簡単に丸めてどかして、三人が座れるスペースを確保した。腰を下ろすと母さんが、
「そろそろ豊穣祭の季節だね。父さんはその準備で忙しくて来られなかったんだよ。」
(父さん? 不思議なことに父さんの名前だけはすぐに出てこなかった。)
「この野菜はうちの畑で採れたものよ。それと、この果物は駅前で買ってきたの。じゃあ早速夕飯の支度するわね。台所、借りるわよ。えーっと、台所は………、」
俺が台所の方を指さすと、
「こっちだったわね。」
(母さんが何故台所の場所を知らないのだろう。初めて来た訳でもないのに。)
やはり、どこかに違和感がある母さんだ。勇次の方に視線を移すと荷物をほどきながら、野菜と果物を次々と取りだし、テーブルに並べていった。
「一本でもニンジン、食べると口が汚れるハクサイ………、」
キュウリを手で折って、
「切り口がそっくりで、これが本当のウリ二つ。」
「何言ってんの?」
「他人ン(家)ちで食べてもオレンジ、そんなバナナ………と。」
「………。」
俺は何も言えなかった。すると今度はトマトを取り出して、
「兄さん、何をとまどってるんだい?」
勇次がトマトを持つ手を押し戻すようにしながら、
「………、もういい。」
思わず俺は一歩引いた。
(勇次の奴、やっぱりいつもと違うな。こんな変なこと言うような奴じゃないんだが。)
一方の勇次は勇次で、
(兄さん、まだ体調が悪いのかな。元気づけてやろうと思って、ちょっとした冗談を言っただけなのに、あまり反応してくれないな。)
お互いに目があったとき二人でほぼ同時に、
「ワッハッハッ。」
また視線をずらして、
(やっぱり変だ。)
勇次もそう思っていたに違いない。
「そう言えば兄さん、さっき豊穣祭の話をしてたよね。」
「ああ。」
「今年が何の年か覚えてる?」
「何だっけ?」
「今年は四年に一度のカボチャ祭りの年だよ。」
「あっ、そうそう。」
この熱っぽさは、これから始まる出来事に、体が反応していたのかもしれない。
「兄さん、カボチャ祭りといえば、昔から刑部村に伝わるカボチャ伝説っていうのがあったけど、覚えてる?」
「もちろん覚えてるさ。」
(刑部村? 自分の出身地だから、これも間違いない。)
心の中で、そう自分に言いきかせているもう一人の自分がいることに気づいた。さてここで、刑部村のカボチャ伝説の概要を説明しよう。
昔、N県の刑部村に、六兵衛という飲んだくれが住んでいた。満足に食事もせず、朝から晩まで酒ばかり飲んでたらしい。ある日、とうとう鬼(死神)に目を付けられた六兵衛は、畑仕事の最中に動けなくなって、その場に座り込んでしまった。
「とうとう迎えが来たか。幻覚か夢かは知らんが、死ぬ前に大好きな酒を、あと一杯だけ飲ませてくれないか。」
「よかろう、少しだけ時間をくれてやる。だが、貴様の死はもう決まっていることなので、今さら逃げても無駄だぞ。」
「つまみには………、これがいいか。」
懐から取り出したのは、ニンニクだった。
「な、何だ………その臭い物は。」
「吸血鬼でもねぇのに、ニンニクが苦手なのか?」
「そいつを、は、早くしまってくれ。」
「鬼の弱点見ーっけ。なあ鬼さんよ、ここはひとつ、取り引きしようじゃねぇか。」
「じょっ、条件は何だ!」
「こいつをしまう代わりに、命を取らないってのはどうだい? 確かに、こんな生活してたら何時死んでもおかしくはねぇ。だが、そちらの都合で命を取られるのも納得がいかねぇんだ。なぁ鬼さんよ、このまま生き続けたらあと何年くらい生きられるんだ? あんたならわかるだろう?」
「酒の量を減らせば、寿命まであと十五年ってとこかな。」
「じゃあ最低でもあと十年は命を取らないと約束しろ。」
「わ、分かったから早くつまみを懐にしまってくれ。」
こんなやり取りのあと、確か六兵衛は生き伸びたんだっけ。でもその十年後、再び六兵衛と鬼は再会している。
「十年経ったので、迎えに来た。」
「あと、五年は生きられるんじゃなかったのかい?」
「最低で十年は命を取らない、という約束だったはずだ。」
「じゃあ仕方ねぇな。酒の量は減らしたが、約束は守らねぇとな。命は貴様にくれてやる。その代わり、最後にあの林檎の実を食わせちゃあもらえねぇか。そのあとなら、命でも魂でも、あんたの好きなようにしていい。」
「いいだろう。だが、あんな高いところ、手が届かないな。」
六兵衛、辺りを見回して、
「あの梯子を拝借しよう。」
林檎の木に梯子を立て掛け、
「ちょっと、あの実を取ってきてくれないか。俺が梯子から落ちて死んだら、あんたとの約束は果たせなくなる。」
旨い言い訳を考えたものだ。
「分かった、取ってきてやろう。」
鬼が梯子に上り、林檎の実に気を取られている隙に、六兵衛は梯子を外してしまった。
「な、何をしている。降りられないじゃないかーっ。」
「ニンニクの他に、高い所も苦手なのか。あんたのそういう人間臭い所、嫌いじゃないが、命が掛かっている以上、こちらも譲れない部分はあるんでね。今後、二度と命を取らないと約束するなら、梯子を掛けてやるよ。」
「わ、分かったから梯子を掛けてくれ。早く降りたいんだーっ。」
こうして、鬼は地に足をつけることができた。しかし、昔の酒が祟ったのか、六兵衛は二年後に死んでしまう。これでも一応、寿命を全うしたことになるのだろうか。六兵衛の魂が肉体から離れて、さまよい始めたとき再びあの鬼と会うことになった。
「六兵衛か。人生に悔いはないか? 俺の力で魂を切り離した訳ではないので、極楽はおろか、地獄にも行けず、永遠にこの世をさまよい続けることになるだろう。」
「ならばせめて、足元を照らす明かりをください。」
「ここには何もないが、そこにあるカブをくり抜いて提灯の代わりに使うがいい。」
話はここまでなので、俺から話しだした。
「それが後にカボチャに変わったらしいけど、村に伝わる伝説は、だいたいこんなもんじゃなかったかな。」
「俺も最近知ったんだ。近所の万屋の、おトメばあさんに聞いたんだ。」
(最近って、何時頃? おトメばあさんは、七年前に亡くなったはずじゃ………。)
そんな事を考えていると、刑部村の風景も少しずつ蘇ってくる。村のことを考えていたら、
急に現実に引き戻されるような声が耳に入った。
「夕飯できたわよーっ。」
「今いくよーっ。」
声が重なったので見回すと、勇次はすぐ隣にいた。妄想中もずっと隣にいたのだろうか。いや、考え事と言った方がいいのか。妄想にふけっていた恥ずかしさもあってか、勇次の顔をまともに見ることができず、無言のまま二人でリビングに向かった。ドアを開け部屋に入ると、母の作った夕飯が並んでいた。一人暮らしの為、普段は一人で済ませる事が多い。三人で夕食を取るなんて、何カ月ぶりだろう。
「さあ、二人とも座って座って!」
器に盛られた料理を、一通り眺めていった。ほうとうでもあるのかと思ったが、普通のメニューだったので、思わず聞いてしまった。
「ほうとうは?」
(この名前、いやだなあ。俺が放蕩息子みたいで………。いや、そんなことはどうでもいい。)
「麺が手に入らなくてね。あれは特殊な麺だから。今から打ってたら遅くなっちゃうし。」
なるほど、確かにそうだ。メニューは、けんちん汁のような煮物・野菜の天麩羅・サラダ、
といったところ。
「母さん、カボチャが入ってないよ。」
「今日は食べたくないんだよ。」
(カボチャは好物だったはずなのに………。それに、カボチャ祭りに合わせてカボチャを食べないと意味ないじゃん。今年は不作だっていう訳でもないだろうし………。)
突然、部屋が真っ暗になった。
「えっ、停電?」
「母さん、落ち着いて。勇次も無事か?」
「俺なら、ちゃんとここに居るよ。」
「さっきから遠くで雷が鳴ってるから、変電所か近くのトランスに落雷でもしたんだろう。この辺りは、わりとすぐ復旧するはずだから、少し待ってるとしよう。」
(ハロウィーンが近いこの季節に、雷なんて珍しいな。嫌な事件でも起こらなければいいけど。この時期の雷は不吉だって言うしなあ。)
すぐに送電が復旧し、部屋が明るくなった。夕飯の途中ではあったが、殆ど食べ終わっていたので、少し慌てて食べ終えた。母はすぐに片付けをはじめた。
一、迫り来る影
夕飯が終わり、リビングでくつろいでいる。母は相変わらず台所で洗い物や片付けをしている。勇次が話しかけてきた。リビングの棚の上にある、人形が気になるらしい。
「前来たとき、あの人形はあったっけ。」
細かいことに、よく気づく弟だ。
「最近、北海道旅行した友人が買ってきてくれたお土産だよ。何でも、アイヌだかコロポックルだかの人形らしい。赤い、女の子っぽい方がレイラ、青い、男の子っぽい方がルイと言うんだ。俺が付けた名前だけどね。」
「兄さん、そんな趣味あったの。」
「いやぁ、趣味がどうのこうのという問題じゃない。男女のペアで、家の守り神のような御利益があるらしい。シーサーや阿吽像と似たようなものじゃないかと思ってるんだ。確かに、ちょっと可愛いよな。」
その人形は、民族衣装らしき物を身に纏っている。
「そう言えば兄さん、駅前で買ってきたスイカと村から持ってきたカボチャ、何処に置いとけばいい?」
「この部屋の扉横に左右分けて置こう。ちょうどいい高さの台も左右にあるし………。玄関側
から見て左がカボチャ、右がスイカだったな。」
「そうそう、村のカボチャ祭りのこと、よく覚えてるじゃん。」
「これも魔除けの呪い(まじない)になるんだったよな。」
勇次がスイカとカボチャを台に置いている様子を眺めながら、
(村の風習に沿って並べたが、呪い(まじない)がコロポックルたちと被ってしまう。相殺しあったり、喧嘩したりしないだろうか。)
後にこの想像が予想となり見事に的中してしまうのだが、現時点でその事に貴は気づいていない。
「兄さん、置き終わったよ。あとは村祭りの行事にあわせて、ここから祈りでも捧げるとしよう。」
二人で軽く黙祷した。
「そろそろ寝るか。母さんは奥の和室、勇次は寝室を使ってくれ。」
「兄さんは?」
「俺はこのリビングのソファーで寝るよ。毛布も持ってきてるから。さっき言ったように、風邪気味だから、移しても悪いし。」
「余計こじらせるかもよ。」
「暖房強めにかけて、毛布被って寝るから大丈夫だよ。母さんにも伝えといてくれ。」
「分かったよ。じゃあ、おやすみ。」
壁のスイッチを操作して、部屋の照明を落とした。ナツメ球の明るさだけのはずだが、窓から入る街の明かりが、思ってた以上に明るい。カーテンは閉まっているが、その明るさは変えられそうもない。都会というのは、常に明かりが灯っている。刑部村なら静かすぎて、シーンという音にも似た感覚が、かえって眠りを妨げるかもしれない。慣れというのは恐ろしいもので、こんな部屋でも住み慣れた都会の環境に適応している自分が存在することに気付いた。ウトウトしかけたら、その後の記憶がない。浅いけど、眠りにつくことができたのかもしれない。リビングの長い方のソファーに横たわっているが、背もたれは壁側に向いている。その背もたれの上に、和風の丸窓がついており、左右の端には縦に、竹の柱がついている。窓の向こう側は、和室への廊下になっている。月の光か街灯かは知らないが、幾筋もの光が部屋に差し込んでいる。偶然かも知れないが、それらの光がスポットライトのような役割を果たし、アイヌ人形、スイカ、カボチャを照らしている。隣の部屋で、人が動く気配のようなものを感じている。どうやら、台所にいる母のようだ。
「さて、私もそろそろ寝ようかね。」
安心しきっている俺は、和室に向かう母の影を確認もせず目を閉じたまま、感覚だけで通り過ぎるのを待った。それはさっき、このマンションに入ってきた影と同じ物だった。頭が異様にデカく、マントのようなものを羽織った、明らかに人間ではない謎の生き物。てるてる坊主のようなツルツル頭ではなくデコボコしていて、シルエットだけでは判別できない謎の生き物だ。
(あれっ? 眠っているはずなのに、なんでこんな感覚があるのだろう。これは一体、誰の目線?)
二、夢の中へ
スポットライトが当たっている、スイカとカボチャが意思を持った。目を開いただけなのか、頭を横に百八十度回転させただけなのかはわからない。何か喋ってるようだ。耳を澄ませて聞いてみよう。動きや動作などから、スイカの台詞から耳に入ってきた。
「おい、カボチャ! 目を覚ませ。それとも起きているのか。」
「とっくに目覚めてるよ。」
「早く仲間を増やそう。」
「そうだな。」
飾ってあった台の下に、どのように折り畳んであったのかは知らないが、急に手足が生えて立ち上がった。会話は、まだ続いているようだ。すると、カボチャが言った。
「よいしょっと。やっと自由に動けるようになったな。人間共が寝静まる、この時間まで座ったままというのは結構疲れる。」
「ああ、まったくだ。早く眠ればいいものを、我々の活動の邪魔をしているのか。」
「兎に角、イライラするよな。」
スイカはまだ、台の上にいる。手足が生えてきたのかどうかは分からないが、顔の目や口以外は動かない。
(あれっ? あの二人の人影は?)
よく見ると、勇次と母さんだった。
「計画は順調に進んでいます。」
(母さん、カボチャたちと何を話してるんだろう。)
「兄さんは風邪気味なので、深い眠りについたようだ。」
カボチャが突然、
「おい貴の奴、目を開けているぞ。」
「話は聞かせてもらったよ。」
立ち上がって、
「母さん、勇次。さっきから変だと思って、様子を伺ってたんだ。母さんは、カボチャが好物だったはずだ。勇次、おトメばあさんは七年前に亡くなったはずだ。お前ら姿と形は母さんと勇次だが、いったい何者なんだ!」
母さんがスイカ側で、
「そうかい、バレちまっちゃあ、しょうがないね。」
玄関側に歩きながら、
「ワーッハッハッハッ………、」
カボチャ人間になって、戻ってきた。
「勇次、お前もか!」
「ワーッハッハッハッ………、」
キッチン側に引っ込んで、カボチャ人間になって戻ってきた。
「貴、あんたも早くカボチャ人間になりなさい。刑部村の関係者で、人間の姿をしているのは、あんただけなんだから。」
「さっき仲間を増やすとか言ってたけど、どうやって俺をカボチャ人間にするんだ?」
「簡単だよ、兄さん。ちょっと首に噛みつくだけだ。多少チクッとするけど、そのあとは少し眠くなって、自分が小さくなっていくような、夢の世界に入っていくような、そんな気がするだけだ。夢心地のまま、変身は完了する。」
「なんだか吸血鬼みたいだな。」
「いい加減、ドラキュラの話から離れろよ。確かにカボチャ伝説にもニンニクは出てきたけど………。」
「まさか本当に、ニンニクと十字架が本当に苦手なんじゃないだろうな。」
懐からニンニクと十字架を取り出して二人に見せる。カボチャ人間が二人とも、
「うわーっ。」
悲鳴をあげ頭を抱え、その場にしゃがみ込んだ。
「しっかり効いてるじゃないか。」
二人とも立ち上がって、ドヤポーズしながら、
「冗談だ。我々にそんな物効かぬわ。」
続けてカボチャ人間のもう一人が、
「貴、観念しなさい。」
噛みつこうとして、近づいくる。
「カボチャをかじった事はあるが、かじられるのは嫌だ。」
「………、そういう問題じゃないけど………。だいたいそのニンニクと十字架、どこから持ってきたんだ? 最初から持ってたなんて、不自然過ぎる!」
「ここは俺の夢の中。ご都合主義でも何ら不思議はない。」
(母さんと勇次を助けないと。少しでも時間稼ぎをしておこう。)
「兄さん、自分で言っちゃってるよ。」
(時間稼ぎもそう長くは続かない。相手の力量もわからない以上、下手に手出しはできない。第一、母さんと勇次を傷つける訳にもいかないし………。)
「誰か助けてくれ!」
女性戦士が登場した。棚の上の赤い方の人形がなくなっている。
「やっと呼んでくれましたね、待っていましたよ。」
「君は誰?」
「私はレイラ、人形の化身です。ご覧の通り、一応戦士やってます。でも実戦は、あまり得意ではありません。私はどちらかと言うと、ヒーラーとしての役割が大きいですかね。」
カボチャ人間の一人が言った。
「おいおい、自分の弱点をバラしちまっていいのかい?」
「問題ありません。もうすぐルイも目覚めるはずですから。」
(ルイ? いったい誰の事?)
そう思った途端、目の前に閃光が走った。どうやら後ろから殴られたらしい。
(誰だ、後ろから殴った奴は。)
だがその瞬間、何かに目覚めたような気がした。今度は青い方の人形がなくなっている。
「目が覚めた、タカ坊? やっと動きだしたわね。本当に昔から寝起きが悪いのね。ちっとも変ってないわ。」
(その呼び方と声には、聞き覚えがある。)
「いつの間に俺は、ルイと名乗らなければならなくなったんだ?」
「この世界では名前なんてどうでもいいの。それより今は、カボチャとスイカの争いを止める方が大切。その為には、人間の力が必要になったの。」
「いや俺、人形なんですけど。」
「姿と形は人形でも、意識は人間でしょ?」
(彼女が戦士で、俺も戦士。いや、この世界では冒険者と呼ぶのが相応しいのか。それに、現実の世界に帰る方法はあるのか。俺に戦う力などあるのか。昔から俺のことを知っている彼女は、何者なんだ?)
「それはいずれ、分かるわ。」
「俺の心を読み取っているのか。それとも直接頭の中に話しかけているのか。テレパシーを使っているのか。いずれにしても、今はあなたを信じるしかなさそうだな。」
「カボチャ人間は二人、こちらも二人、二対二なら勝てるでしょ? 倒さなないまでも、取り敢えず今は、カボチャ人間たちを隣の部屋にでも閉じ込めておきましょう。」
「ああ、人質にもなりそうだしな。」
刀を抜き、カボチャ人間どもを脅しながら、何とか隣の部屋に押し込んだ。リビングに戻り、入口のスイカに向かって、
「おい、そこのスイカ! さっきからジッとしてるけど、お前も目を覚ましてたよな。話くらい聞かせろよ。」
「その前にカボチャ同様、動けるようになってもよろしいでしょうか。」
「お前も手足が生えたのか。」
「その通りです。」
「襲いかかって来ないだろうな。」
「そんな事しませんよ。あなただって、早く本当のことを知りたいでしょ?」
「よし、立て。」
「ありがとうございます………、よいしょっと。」
「まず最初に、お前たちスイカは、人間の敵なのか味方なのか。」
「どちらでもありません。敵だと言えば敵だし、味方だと言えば味方だし………。要は人間次第なんです。」
「どういう事?」
「あなた方人間たちが、カボチャの味方をすれば敵になるでしょう。私たちスイカの味方をしてもカボチャが敵であることに、変わりはありません。昔からカボチャたちとは、反りが合わないというか………。」
「同じ瓜科の植物なのに?」
レイラが説明に加わった。
「刑部村のカボチャ伝説には続きがあります。」
「詳しそうだね。俺をタカ坊と呼ぶあなたは、刑部村の幼馴染、清美姉さん(キヨネエ)でしょ?」
「思いだしてくれたのね。」
「刑部村と俺のことにも詳しい女性といったら、一人しか思いつかないよ。でも刑部村出身者で、人間のまま残ってるのは俺だけだって、さっき言ったよね。」
「私も今は、刑部村に住んでないの。」
「………、そうか。」
スイカ人間が会話に割り込んできた。
「そう、あれは今から四〇〇年以上前のこと。新暦一六〇〇年、慶長五年九月十五日に起こった関ヶ原の戦いでの事だ。我々は、徳川家康が率いる徳川家側に付いていた。徳川家にとって我々は守り神のような存在だったからだ。一方のスイカ一族は、石田三成に加勢していた。」
「一般的にカボチャは冬の食べ物とされているわよね。ベータカロチンが多く含まれているから、風邪の予防になるというのが、その理由よね。ま、最もあの時代にベータカロチンの存在を知ってる人なんて、いなかったでしょうけど。」
「一方、スイカと言えば夏。暑い日に水で冷やしたスイカは最高! ひとつまみの塩でも振りかけてやれば、美味しさは倍増。」
「徳川家と石田家はそこまでしてでも対立したかったんだと思うわ。」
「史実にもあるように、家康殿はカボチャやサツマイモのような、甘い天麩羅が好物だったから………、というのがその理由らしいが。」
話を聞いているうちに、我慢できなくなって、ついに俺も口出しをした。
「ああ、知ってる。その天麩羅の食べ過ぎが原因で、今で言う胃癌のような病気で死んだとされている。それよりカボチャたちと何があったのか、もっとその先の話もしてくれないか。」
レイラが言う。
「………、先に説明しておいた方がよさそうね。」
スイカ人間とルイが顔を見合わせて、
「関ヶ原の戦いがあった年………、」
そう言うと、一六〇〇年頃に時代が飛び、場面が変わった。
三、異世界への扉
ここは一六〇〇年頃の、とある街。町人たちが普通に歩き回っている、ありふれた風景だ。
そんな道の中ほどで、カボチャ人間とスイカ人間が、今まさにすれ違おうとしている。左側からカボチャ人間たちが、右側からスイカ人間たちが、ゆっくりとした速度で歩いてくる。カボチャ人間たちが立ち止まって、近付いてくるのを待っていた。スイカ人間たちは、踊りながら、歩いていたのだ。大道芸でも見ているかのように、何人かの町人はスイカ人間の踊りを眺めていた。
「よーし、今回も決まったな。俺たちには名前が無いが、主題歌がある。」
カボチャ人間が、スイカ人間たちに気付いたようだ。
(んっ、スカスカスイカ。)
(むっ、土手カボチャ。)
カボチャ人間が先に話しだした。
「いやぁ、スイカさんたち、こんなところで会うなんて奇遇ですな。」
スイカ人間の一人が、
「まったくです。カボチャさんたちこそ、三人でどちらかお出かけですか。天気もよく、散歩日和ですからね。」
六人ほぼ同時に、
「ハッハッハッ。」
六人ともほぼ同時に目を逸らし、背を向けて、
(いつか殺してやる………。)
仲がいいのか悪いのか、息はピッタリ合っている。カボチャ人間の一人が続けて、
「あなた方には主題歌と踊りがあって羨ましい。その歌と踊り、我々だけに披露していただけませんか。私たちもその曲と踊りを参考に、自分たちの主題歌を作りたいのです。」
「ですが我々スイカは、徳川のお屋敷には入り辛い。」
「ならば裏口というか、緊急脱出用に造られた、秘密の抜け道をお教えしよう。」
「バレたら我々だけでなく、あなた方もただでは済まされないぞ。」
「我々は人間ではない。スイカやカボチャが抜け道に転がってたって、気にも止めないでしょう。いざとなったら保護色を使って、全員で壁になりすましましょう。姿を消してもいいし………。」
「よし、その作戦で行こう。」
「ではまた後ほど、お城の中でお会いしましょう。」
レイラとルイが、その様子を眺めていた。
「ねえレイラ、あいつら何言ってんの? 今度は忍者の真似事でもするつもりなの?」
場面が変わる。お城の中の一室のようだ。どれくらいの時間が経過したのかは分からない。カボチャ人間が左側に三人。右側から、スイカ人間たちが、テーマ曲に乗って登場。
「主題歌がスイカの行進って………。でも面白いもんですな。何度見ても飽きない。そうだ、ここで我々の自己紹介をしておこう。まず私がゾルテ、隣がゲルガ、そしてカボチャから直接手足が生えているそいつはバルバと申します。」
(目、鼻、口をくり抜いたカボチャから、直接手足が生えているような姿をしてる、ちょっと毛色の違う奴。ハロウィーンの仮装では、子供パンプキンなどと呼ばれているあいつがバルバか。バルバみたいに容姿に特徴があれば区別もつきやすいが、他はみんな同じに見える。正直名前なんてどうでもいいんじゃないの?)
自分から見て、奥から順番に紹介しているようだ。レイラが話しかけてきた。
「最初に注意しておくけど、ねえルイ。今見ている光景は、異世界。さっきまでの夢とは違うので注意してね。」
「夢と異世界って、どうちがうの?」
「うーん、難しいわね。大雑把に言うと大差はないんだけど、強いて言うなら、夢は未来への希望、異世界は過去。あなたがタカ坊で、私が清美なら夢、冒険者ルイとレイラなら、過去ってことよ。人形の衣装は剣士っぽいけど、冒険者になった記憶はないでしょ? 自分の目で見たことのある風景や情景でないと夢の中には登場しないし、過去の風景は、自分で見たことがある訳ではないので、想像で造り出しているに過ぎないってこと。」
「レム睡眠とノンレム睡眠………、みたいなもの? ちょっと難しいね。」
「少し違うけど、似たようなものかしらね。『中らずと雖も遠からず』………、と言った処かしら。要は自分で常に意識してれば、迷う事はないはずってことよ。意識して夢を見る人はいないと思うけど………。だからこの世界では、人との接触には充分な注意が必要なの。聞いたことくらいはあると思うけど、過去の自分や先祖との接触は御法度。相手を傷つけたり殺したりしたら、その時点で自分が消滅、もしくは生まれてこなかったという事実に塗り替えられてしまうこともあるのよ。」
「でも最近の研究では、バランスを取りながら他の方法で存在することも可能性だって聞いたけど………。たとえば東京から大阪に行くのに、新幹線を使おうが在来線を使おうが、高速バスを利用しようが、方向さえ間違わなければ到達できる。」
「でもその方法だと、あなた自身に違いはなくても、家族が別人になることも有り得るわ。血縁だけで言うなら、従姉や親戚の家族の一員、記憶の一部だけを持つ、別の自分に生まれ変わってるかも………。」
「まぁ、接触しないに越したことはないね。でも、カボチャやスイカはたたっ斬っても構わないだろ?」
「それも必要最小限にね。相手が襲ってきた場合だけにしておきなさい。カボチャとスイカが戦って、勝手に自滅していくのを見てる方が楽じゃない。」
「そうだね、ちょっとこのまま様子を見ていよう。あいつら、こっちに気づかなければいいんだけど………。」
植木の影から、再び部屋を覗き込む。スイカ人間が話しだした。
「我々からすれば、カボチャさんたちは羨ましい。馬車になって昔話にも登場してるじゃないですか。スイカの馬車なんて聞いたことにもないもんな。」
「我々はスイカさんたちの方が羨ましいですよ。同じ瓜科の植物なのに、あなた方は果物屋に並んでいる。一年のうち、夏にしかお目にかかれないのが残念ですが。我々カボチャ一族は、一応一年中八百屋に並んでいる。昔は冬の食べ物とされていたようだが………。身体が温まる調理方法が多いから風邪など引かずに、冬を乗り切れるというのが理由らしい。」
「成程、夏と冬………、ここでも我々は対立していた訳か。」
「スイカさんたち、あなた方には高級な果物としての自覚は有りますか?」
「夏しかお目にかかれない………という意味で、稀少価値の問題でしょう。もっとも、いまでは温室栽培などで、一年中手に入るようになったようだが。流石に日照の問題などから、冬は小振りの物しか出回らないけど。それがまた、価格高騰の問題を引き起こしているんじゃないかな。」
「正直、その高級果物感が気にいらない。我々カボチャ一族は品種改良を繰り返し、一年中手に入る野菜の仲間に入れたのだぞ。」
「今は温室栽培などで、スイカも一年中手に入るようになったんだ。そんなことも知らんのか、このイモ侍、土手カボチャ!」
「土手カボチャだと? 一番言ってはならぬことを………。我々に対しての最大の侮辱、一番の差別用語だぞ。己ーっ、そこになおれ、たたっ斬っくれるわーっ。」
カボチャ三人が抜刀して奥から順番に、スイカたちに斬りかかる。奥から順番に、掛け声とともに頭上に斬り下ろす。
「えいっ。」
「はーっ。」
「やーっ。」
「そりゃ。」
二組目までは、見事に真剣白刃取りを成功させている。バルバもスイカ三号に斬りかかる。
「とう。」
「いてっ!」
真剣白刃取り失敗。みんなが一斉にスイカ三号に目を向けると、その隙を突いて刀を奪い、
形成逆転となった。
「殿中でござる、殿中でござる。カボチャ殿が乱心なされたーっ。」
と、なったかどうか定かではないが、カボチャの乱心によりゾルテは切腹、スイカ一族は出入り禁止となった。この時の残っている記録によると、介錯人はゲルガとバルバだったという。切腹の直前、ゾルテが一句残している。
『風さそう 花よりもなお我はまた 春の名残を如何にとかせん』
これは、浅野内匠頭の辞世の句だが、ここではゾルテが詠んだことにしておいてください。
「然らば御免!」
実際の切腹は、腹を切ったあと、自ら手を突っ込んで内臓を引きずりだした。苦しみが長引かないよう、直ぐに楽にするという意味で、介錯(斬首)したのだという。カボチャ人間の内臓などたいしたことはなさそうだが。この日の出来事を境に、カボチャとスイカの仲が悪くなったのかどうかも定かではない。もしかすると、もっと以前から小競り合いを続けて来ていたのかもしれない。
「レイラ、これってどう見てもスイカたちが悪いんじゃあ………。」
「でもこのあとの関ヶ原の戦いでは、徳川家が勝っている。スイカたちも何か追い詰められてたから、あんなことをしたんじゃないかしら。真剣白刃取りの事も作戦だったのかもしれないわ。」
「一度マンションに戻ろう。兎に角、原因を調査しないとあとにも先にも進めないしね。」
自分でそう言ったあと、目の前が真っ暗になった。
四、スイカの秘密
マンションに戻った。いきなり、現実に戻されたような錯覚に陥った。
『ドン、ドン、ドン。』
という音が響き渡る。
「開けろーっ、ここからだせーっ!」
(そうだった、となりの部屋にカボチャ人間二人(母さんと勇次)を閉じ込めておいたんだっけ。)
入口側のスイカは、台の上に乗っている。
「おいスイカ、戻ってきたぞ。また動きだしてくれ。」
「………よいしよっと。ああ、お帰りなさい。早かったですね、どちらまでお出かけで?」
「ちょっと、関ヶ原の戦いの時代を見て来た。あれ、お前たちが悪いんじゃないの?」
「話はあとで。今はあのカボチャたちを何とかしないと。」
とうとうカボチャたちが、扉を破って、この部屋に戻って来た。襲いかかって来るカボチャ人間二人。
「うわーっ。」
俺は思わず声をあげてしまった。だがその声に驚いたのか、一瞬の隙をついてスイカが間に割って入った。スイカ人間が言う。
「こちらも応援を呼ぼう。スイカ人間二号、出て来い。」
もう一人、スイカ人間が出て来た。続けてスイカ人間が、
「これで、スイカ人間、カボチャ人間、戦士、全てが二対二対二となった訳だな。」
一触即発と言った状況だが、現実(夢の中だが)は違った。睨み合いながら、抜刀の態勢を取っていた。すると突然視界が開け、美しさと幻想な光が重なりあい、心が躍るような音楽が鳴り響きだした。曲はクラシックなのか、祭囃子なのか分からない。レイラとルイは、何かを口ずさんでいるようだ。歌っているのか。美しい照明と音楽の中で六人がダンスでもしているかのように美しく舞う。まるで別世界にでも迷い込んだかのようだ。このままこの状態が続いてほしい、もっと眺めていたい、そんな感情に支配された。照明が消え音楽が止まると、俺とレイラ、スイカ一号の三人に戻っていた。
「どうタカ坊? この世界にあなたも入りたいと思わない?」
続いてスイカ人間が言う。
「ソファーで寝ている自分は、自分じゃないと思えばいい。そして常にルイだと思いつづけること。そうすれば異世界への行き来だって、自由に出来るようになるさ。………で、さっきの話の続きだけど、関ヶ原の戦いの時代に行ったんだよな。勿論戦いの場面は見ていないだろうけど。その戦場のすぐ横にスイカ畑があってな。大勢の人が流した大量の血が地面に吸い込まれた。その大量の血を吸ったから、我々スイカは赤くなったんだ。」
「えっ、嘘 ………、」
言い終える前に被せるように、
「………を言ってどうなる。君たち人間がクリームなどと呼んでいる黄色いスイカがあるけど、あれがスイカ本来の色なんだ。だから黄色いスイカは、スイカ人間に変身できない。血を吸って赤くなったスイカは、吸血鬼が血を求めて彷徨うように、本能的に………」
「本能って、明智光秀が織田信長を………、」
「それは本能寺………本能寺の変だろう、そこまでしてボケたいのか………、いや待てよ。まったくの無関係とは言い切れないかも知れんぞ。本能寺の変は一五八二年、関ヶ原の戦いのわずか十八年前。農民の不満などが募って一揆にまで発展し、当時の幕府の人たちの耳にまで届いていたとしたら………。」
「俺は、もっと沢山の情報がほしい、それだけだ。」
「なら話は早い。本能的に動いている我々との戦いは避けられない、それだけだ。」
「レイラ、ここが片付いたらカボチャのことも調べよう。」
「ええ、このあと刑部村に行く必要がありそうだけどね。」
黄色がスイカ本来の色というのは事実らしい。どちらが甘いかはわからないが、含まれている栄養素や成分が異なるらしい。赤いスイカにはリコピン、黄色いスイカにはベータカロチンが多く含まれている。スイカ人間が続けて、
「関ヶ原の戦いが影響しているかどうかまでは知らないが、その後刑部村に火災が起こった。周りを山に囲まれた盆地のような、隠里のような村は、瞬く間に炎に包まれた。隣の村に助けを求めようにも、あの時代にはスマホはもちろん、電話すらなかったから、村はほぼ全滅した。ようやく逃げ延びた人達が村に残るも、人口は既に三分の一ににまで減少した。勿論この時に、村を離れた者も大勢いた。」
この説明に、返す言葉が出て来なかった。スイカ人間が更に続けて、
「この火災で、スイカ畑もほぼ全滅。炎の熱で、スイカ自らが持つ水分が実の中で沸騰し、次々と破裂していった。熱かっただろう、苦しかっただろう、できれば助けてやりたかったものだ。」
やっと言葉が見つかって、
「だけどそれは不可抗力だ。人間が焼きスイカでも作ろうとしたんなら話は別だが。」
「ほぼ全滅したスイカ畑で、別の作物を栽培する事になった。それが刑部村の特産品、カボチャだって訳だ。まだ残っていたスイカを踏みつぶしたり、苗を引っこ抜いたりして、その上から土を被せたんだ。人間たちにしてみれば、焼畑農業と変わらないのかもしれないが、それじゃあ我々の先祖は浮かばれない。でも人間を恨んでいる訳ではない。我々を肥料扱いして、先祖の上に被せられた土に、植えられたのがカボチャだというのが気に入らないだけだ。」
「事情は分かったけど、レイラはこの事、知ってたの?」
「私も知らなかったわ。村の歴史には記載されていなかったと思うけど。火災による被害のことは、学校の図書室で読んだ記憶があるわ。しかも、刑部村は同じような被害に二回もあっているのよ。」
スイカ人間が更に、
「知らなくて当然。あの時代に文書で残すなんて、考えもつかなかっただろうしね。更に言うなら、石田軍の落ち武者が刑部村に辿り着いたんだ。スイカの栽培を続ければ、石田軍の関係者だと気付かれてしまう可能性もある。スイカの栽培を止めて、カボチャに切り替えなければならなかったという屈辱、さぞかし無念極まりなかったことだろう。」
「隠れキリシタンみたいな生活を強いられたって訳か。」
「まあ、そんなところだ。カボチャ祭りは四年に一度だが、それまでの三年間はスイカ祭りをやってたらしい。元はスイカの慰霊祭が始まりだと聞いている。これらの出来事は、………文書の記録としては残っていないが、刑部村のとある場所に、壁画として残されている。さあ、お喋りはここまでだ。カボチャたち、いつまでも隠れてないで出て来いよ。」
カボチャ人間が二人で登場。
「待ちくたびれたよ、スイカ一号君。」
スイカ一号が、
「ところでレイラさん、ちょっと私に噛まれてみませんか。」
「嫌よ。」
「こちらも人手不足でな。戦士がもう一人欲しいんだ。カボチャ人間たちとのバランスを考えると………。大丈夫、ちょっとチクッとしたあと、眠くなるような、身体が小さくなっていくような、そんな感じがするだけだ。変身はすぐに完了する。」
「抗えるうちは戦うわ。」
「とりあえず、もう一人呼んでおくか。スイカ二号、出てこい!」
戦いが始まる。美しい照明と戦闘の音楽。先程と違っているのは、戦いシーンだということ………くらいか。照明と音楽、幻想的な雰囲気の中での出来事自体に変わりはない。照明と音楽が止まると、元の景色の中に立ちすくんでいた。カボチャ人間とスイカ人間を斬り刻み、倒れている彼らの骸の前で呆然としていた。自分にとっては、一瞬の出来事のようだった。割れたカボチャとスイカが転がっている。根や葉、茎などがしなびた状態で、実からは切り離されていた。いつの間に倒したんだろう。呆然としていたら、
「ルイ、刑部村の調査に向かいましょう。壁画に何かのヒントが隠されているかもしれないわ。」
五、刑部村の調査
気がつくと、刑部村にいた。午後、又は夕方か。でも、何だか様子がおかしい。現代ではなく、過去の刑部村にいるらしい。ここは村外れのようだが、刑部村にこんな処あったっけ。辺りを見回すと木々に囲まれ、小さな神社の前に立っていた。
(ここがカボチャを祀っている神社?)
正面に扉がある。賽銭箱を避けるように階段を登ると、扉に手が届く場所だ。勝手に開けて入ってもいいものなのだろうか。罰が当たりそうだ。こういう場所って、封印とかされていないのだろうか? 兎に角入ってみよう………、勝手にそう思って扉を開け、中に入った。太陽の光が届かないせいか、薄暗く感じる。扉の無い小さな祠のようなものがある。
(こういう場所って、刀などを奉納してるんじゃなかったかな。)
形は歪だが、御神体らしきものが祀られている。
(これがカボチャの御神体か。)
古いものなのでよくわからないが、カブのランタンのような、現在とは違う形のマスクのようなものが安置されている。横には、ボロボロの縄と呪文のようなものが書かれた紙きれが置かれている。しめ縄とお札かもしれない。洞窟の中にいるような感じだ。マンションのリビングルームくらいの広さがある。暗闇に目が慣れてくると、辺りがぼんやりと見えてきた。和室っぽくも感じるが、周りの壁は岩を削っただけのように見える。
(象形文字がハロウィーン伝説、古代文字がカボチャ伝説かなのか。この奥が続いているようだが、何が有るんだろう。)
「ねえタカ坊、奥に進んでみましょうよ。」
「ああ。でも不思議だね、清ねえがいると怖くないっていうか、心強ささえ感じるよ。」
「そう、それはよかったわ。もしかすると、ここってダンジョンなんじゃないの? さっき、カボチャ人間とスイカ人間を倒したけど、経験値が上がってるかも。」
「確かに清ねえはヒーラー、俺が冒険者って感じだね。」
そんな会話をしながら、壁画と古文書に目を通した。壁に資料が貼ってあるのか、壁画なのかは分からないが、読まなければならないような気がした。古い字など理解できるのか。いや、読む事すらできないかも知れない。だが不思議なことに、文字が直接脳内に語りかけてくるようで、面白い程、内容が頭に入ってくる。
「よし、だいたい理解できた。清ねえが言う通り、奥に進んでみよう。」
清ねえは黙ったまま、頷いた。二、三十歩歩いただろうか、直ぐに行き止まりになった。壁に何か立て掛けてある。刀のようだ。
「清ねえ、これってまさか、聖剣デュランダルじゃないよね。」
「聖剣デュランダルを知ってるの?」
「一応はね。でもそんな取ってつけたかのような都合のいい設定ってある? アニメや漫画じゃあるまいし………。第一、こんな大きくて太い剣、この鞘には収まらないよ。」
「多分………、多分だけど、まず今腰に付けてる刀を抜いてみて。そして、この剣と交換するの。そうしないと、ここから出ることもできないし………。聖剣デュランダルは縮んで、刀の鞘に収まるはずよ。抜刀すると、元の大きさに戻るはずだわ。小刀はもう一本あるでしょ?」
「ああ、でも本当に漫画で読んだ通りなんだな。どこまでも、都合のいい設定になってる。」
「あと、そこにある拳銃も持って行くといいわ。彼らは特殊な妖術のようなものを使う………、剣だけじゃ不利になることも考えられるから。」
(この時代に拳銃? そうか、ここは過去の刑部村ではあっても、俺は現代から来たからな。ここでは、未来から来たと言った方が分かりやすいか。この時代でも火縄銃くらいは、あったかもしれないな。それとも種子島か。西部劇でもレボルバーくらいは、存在してたかもな。)
そんな事を考えていると清ねえが、
「その拳銃は、懐にでもしまっておきなさい。見せびらかす物でもないし………。あなたはあくまでも冒険者、剣で勝負するのよ。それを使うのは、最終手段。脅しのために、空に向けて発砲するくらいに留めておきなさい。」
「分かった。でも清ねえ、あの壁画に記されてた年表、凄く気になったんだけど。」
「分かってるわ。」
「今が何年か知らないけど、近い未来の予告も記載されてなかった? 二〇二四年が空白のままなのと、二〇二〇年のケ〇ール人って何? ケ〇ール人ってウル〇ラQに出てくる奴だけど知ってる?」
「知らないわ。」
「第一九話、『二〇二〇年の挑戦』に出てくる未来人の話。内容はともかく、何でこんなことが壁画に書かれているんだ? 壁画の内容もだいたいは理解できたけど………。」
こうしているうちに、いろんなことが分かってきた。時空や場所の移動は、カボチャ人間やスイカ人間の血を見る必要がありそうだ。しかし、その血を見た途端に彼らは活動を停止し、茎や葉をつけた植物に戻ってしまう。茎や葉が身体に変化しているようだから、血液も植物から出る青臭い水分に戻ってしまう。我に帰る、現実に引き戻されるといった感覚と似ているようだ。だとすると、人間で言う斬首が手っ取り早い。
「とりあえず、今来た通路をもどろう。」
(この祠、やっぱり荒らされてるんじゃないのか。いろいろ気になる点もあるけど………。)
外に出られて、一安心といった感じだ。埃臭い空気から解放されて、外気を浴びることができる嬉しさを改めて実感した。当たり前のことで、こんなにも感激するのは何年振りだろう。
清ねえが話しかけてきた。
「何か分かった? 結構満足そうな顔してるように見えるけど。」
「清ねえも、いろいろと理解できた?」
「タカ坊と同じよ。まだ、推理の段階でしかないけど。」
「今のは、ダンジョンでよかったんだよね。。まさかこの辺にギルドはないと思うけど。」
「こんな田舎に冒険者組合なんてないわ。隣の街まで行かないと。」
「でも、冒険者登録はしなくても大丈夫なの?」
「この世界でお金は必要ないんじゃない? スライムやゴブリンのような初級モンターだけをを相手にするなら、登録の必要はないと思うけど。それに、カボチャやスイカも初級モンターの部類に入るはずよ、魔力の強さは計り知れないけど。」
「じゃあ、パスってことで。あと、バハムートは手に入らないのかな。」
「あまり欲張らない方がいいと思うわ。デュランダルでも持て余し気味なんじゃないの? 使いこなせるようになってからじゃないと………。相手の力量を考えれば、デュランダルだけで十分だと思うわ。力の加減ができるようになってからじゃないと、マンションの部屋が一瞬で跡形もなくなる程の威力を持ってるのよ。」
「怖っ。」
「それにバハムートともなれば、翼竜など大型の魔獣を倒すための物。強い意志を持って扱わないと、自分の意識すら持って行かれちゃうんだから。」
「昔この村は、隠里だったみたいだね、四方を山で囲まれてるし。」
「だから落武者はここを選んだんじゃないかしら。本当にエルフの住む村みたい。」
「イ〇ズのトラックがどうしたって?」
「タカ坊もボケが上手くなったわね。」
「いやゴメン、本当に知らないんだ。」
「エルフっていうのはね、あまり戦いを好まない種族なの。尖った耳が特徴で、寿命が長いので有名。三〇〇歳以上生きる人も大勢いるっていう話よ。」
「メルヘンだなあ。まさか、清ねえがその子孫ってことはないよね。」
「私の耳は尖ってないでしょ? それに私、そんなにお婆ちゃんじゃないわよ。」
「ゴメン、そんなつもりじゃ………。」
(ちょっとムッとした顔も素敵だ。)
一瞬そんなことを思ったが、
「タカ坊、今のあなたは収納魔法を覚えた方がいいわ。」
「そんなの使えるかなあ。」
「聖剣デュランダルが鞘に収まるのも、収納魔法の一種よ。タカ坊独自の収納魔法を使いこなせるようになって欲しいの。」
「どうすればいいの?」
「収納魔法で自分自身を異空間に収納するのよ。別の空間で自分を取り出せるようにすれば、瞬間移動ができるでしょ?」
「………、やってみるよ。清ねえ、俺につかまってて。一旦マンションに戻ってみよう。」
「ええ。自分の希望を表現するために、まずは口に出して技の名前などを叫ぶといいんじゃないかしら。」
「収納魔法、瞬間移動!」
「そう、その調子よ。」
(清ねえと手を繋ぐなんて、何年ぶりだろう。ちょっと恥ずかしいけど………。)
自分で創り出した収納空間に二人で入り込むと、辺りが暗闇に包まれた。
六、カボチャの謎
明るくなった途端、視界が開けた。見慣れた風景だった。レイラと二人で、マンションのリビングルームに立っていた。部屋の両脇の台の上には、カボチャとスイカが乗っている。カボチャが喋りだした。
「随分と帰りが早かったじゃないか。」
(早い? 二~三時間は経っているような気がしたが………。やはり、ここと過去では時間の感覚も異なるのか。)
続けてカボチャが、
「刑部村で何を見て来たんだい?」
「壁画の年表を見て来たんだよ。」
「で、何か分かったかい?」
「いろいろとね。まずは君たち、カボチャのことから聞こうと思ってね。」
「何が聞きたいんだい?」
「まず、今この俺と話しているあなたは、ゾルテさんで合ってるよね。」
「その通りだよ。」
「質問に答えてくれるなんて、カボチャさんは随分とサービスがいいんだな。」
「何かを調べるために、刑部村へ行ったんだろう? 質問に答えるのは当然のことだ。」
「そうか………、じゃあまず年表のことから。二〇二四年は年号のみ記録されていたが、それ以外は空白だった、何故だ?」
「まだカボチャ祭りが実行されていないからだ。」
「じゃあ、二〇二〇年のケ〇ール人っていうのは?」
「あの年に何があったか覚えてるかい?」
「いや。」
「正確に言うと何もなかった………、と言うのが正しいかな。東京オリンピックが中止になったのは覚えているだろう。コロナによるパンデミックが原因だ。」
「ま、まさか………!」
「そのまさかの可能性があるというだけの話だ。もしあのコロナウィルスがケ〇ール人そのものだったとしたら? また、ケ〇ール人がコロナウィルスを拡散した犯人だとしたら?」
「まさかね。」
「厳密に言うと、ケ〇ール人は二〇二〇年から一九六〇年代の過去へ若い肉体を求めタイムトラベルするという設定だ。君たちが今やってる、タイムトラベルと同じだよ。」
「随分と詳しいんだな。ひょっとして、壁画と年表を描いたのもゾルテなんじゃないの?」
「その通り。」
「あっさりと肯定したな。」
「まあ、刑部村まで調べに行かれたんじゃあ、バレるのも時間の問題だと思ってたし………。」
「じゃあついでに。ゾルテの正体は六兵衛だろ? 行き場を失い、彷徨い続ける六兵衛の生き霊がカボチャのゾルテに憑依してるんじゃないの? 更に言うなら、ゲルガが勇次、バルバは母さんだ。」
「その通り。だが安心しろ、別に人質を取ってる訳じゃない。因みにスイカたちには、落武者の生き霊たちが憑依している。」
「石田三成か。」
「それは違う。奴は京都の六条河原で、処刑されている。平将門じゃあるまいし、刑部村まで生首が飛んで行ったとは考えられない。」
「六兵衛は何故ここにいる?」
「刑部村で見て来たんだろう? 誰かが神社の結界と祠の封印を解いたんだ。しめ縄は外され、お札まで剥がされた。カボチャ祭りの時、一時的に封印が解かれる事はある。儀式の際、俺の魂を呼び寄せる為らしいが。」
「誰が封印を解いたんだ?」
「村の馬鹿者………いや若者が面白半分でやったんだろう。最近の若者には信仰心が無さ過ぎる。祟りなど恐れもせず、『ただの迷信だ』などとほざきよる。昔は我々カボチャ一族が『悪い子はいねえかあ!』と言いながら子供のいる家を一軒ずつ回ったもんだ。」
「………それって『なまはげ』のことなんじゃあ………。」
「………そうとも言うな。」
「そうとしか言わないでしょ、いや絶対そうだ。………だけど、ここまでの話だと六兵衛、あんた案外良い奴なんだな。いろいろと教えてくれるし。」
「良いか悪いかは自分じゃわからないが、誰だって『お前の命は今日までだ』と言われて、『はい、そうですか』って訳には行かんだろ。絶対抗うはずだ。それに………それにだ、俺だって何も好き好んで壁画を描いた訳じゃない。封印されて、瞑想に耽るため座禅を組んでいたんだが、それにも些か飽きた。我々植物は根っこを通じて、いろいろな情報を入手出来る。勿論会話や意志の疎通も………。意思や感情だって持ってるんだぞ。人間のようにスマホなど使用せずとも、テレパシーのようなもので会話が可能なんだ。胡坐を組んだ足がいつしか根を張り、地中へと伸びていった。ラジオやテレビなどなくても、外の様子が手に取るように理解できるようになったんだ。」
「一種の進化みたいなものか。」
「さあな。いずれにせよ、間もなく最終決戦を行わなければならない。時間もそう残されてはいない。」
「最終決戦? 時間って………。」
そう言っているあいだに、スイカが目を覚ました。
「ごちゃごちゃとうるせえな、眠りを妨げるんじゃねえ。スイカ二号、三号、出て来い。」
音楽が鳴りだす。聞き覚えのある曲に、思わずツッコミを入れたくなった。
「またスイカの行進かよ。ちょっと久しぶりに聞いた気もするけど………。」
スイカ人間たちが、踊りながらゆっくり歩いて来た。スイカ一号が、
「よーし、今回も決まったな。」
今度はゾルテが、
「ゲルガ、バルバ出て来いよ。」
二人が登場した。
「前祭みたいなものか。やってやろうじゃないか。」
思わず止めに入った。
「まあ、待てよ。祭って言ったけど、お前たちにとってイベントみたいなものだったのか?」
ゾルテが、
「それもあるが、昔からある村の風習、しきたりを守っているだけだ。祭囃子には何かこう、ワクワクするような、踊りたくなるような、不思議な力があるんだよな。夜の祭りだったら、月に向かって吠えたくなるよ。」
「ドラキュラの次は狼男かよ………。まあいい、俺も祭りは好きだからな。」
「なら貴様から血祭りにあげてやろうか。」
ゾルテ、抜刀の構えをする。俺は慌てて、
「………その祭りは好きじゃない………。」
そのくらいしか言えなかった。こんどはスイカ一号が、
「今では、村興しの一環として開催されている。貴重な観光資源になってるって訳だ。」
俺は少し考えて、
「だんだん人間の方が悪者みたいになって来てるな。」
スイカ一号が言う、
「そうでもないさ。カボチャ、スイカ、人間が協力して祭を盛り上げる、昔からそうやってきただろう。」
「じゃあ村興しの行事のために、お前らは戦っているのか。」
「祭は楽しむもんじゃあないのかい。」
そう言い終えると、急にみんなが動きだした。再び美しい照明と戦闘の音楽。幻想的な雰囲気の中での戦い。
「レイラ、俺の後ろに隠れてて!」
「ええ。」
「来い、聖剣デュランダル!」
(そう言えば今回、レイラは喋らなかったな。俺の中での存在が薄くなり始めている?)
気がつくと、カボチャとスイカは全滅。聖剣デュランダルの一振りで、相手にかなりのダメージを与えることができたようだ。
(経験値は上がっていないようだ。そもそも、どうやって確認すればいいんだ?)
そんな事を考えていたら、また辺りが暗くなった。
七、謎の解明
再びマンションのリビングルーム。
(あれ? さっきと同じ場所だ。)
「時間と空間がつながってきたようだな。」
話しかけてきたのは、ゾルテだった。スイカは、また台の上に乗っている。動きだすことは無さそうだ。
「どういう事?」
「この戦いも終わりが近いということだ。」
「どうやったら終わるんだ?」
「貴自身の手で終わらせる必要がある。」
「この場面、さっきと同じなんだけど………。」
「気付いたか。このまま戦い続けても同じ場面の繰り返しだ。さっきと違う事をやってみるといい。」
「じゃあ、スイカが動きださないように………。」
懐から拳銃を取り出し、スイカに向ける。
「ま、待て、早まるな!」
ゾルテが言ったのと同時に、引き金を引いていた。
『パーン!』
乾いた音が鳴り響く。スイカに命中し、弾け、飛び散るスイカ。
「ルイ、撃っちゃったの?」
(レイラの声だ。よかった、さっきとは違う展開になりそうだ。)
「レイラの言う通り、脅すだけのつもりだったんだけど、まさか本当に弾が入ってるとは思わなかったんだよ。撃鉄の音か、空砲で脅かすだけだと思ってたから。」
「自分の意志で引き金を引いたのは偉いわ。やっと一歩前進したって感じね。これから先も、自分の力で乗り越えてほしいの。この戦いみたいに、違う未来を掴むためにも………。」
ゾルテが喋り出した。
「だが、早まった事をしたな。」
「えっ?」
「何故この部屋に、カボチャとスイカが置いてあるのか知ってるかい?」
「いや、壁画には何も描いてなかったけど。」
「簡単に言うと、力のバランスを保つ為だ。スイカが無くなった今、この部屋のバランスが崩れている。亡霊たちのエネルギーは、全て我々カボチャ側に集まってくる。だが安心しろ。どうせスイカもすぐに復活する。別のスイカに乗り移ればいいだけだからな。」
「分かった、兎に角先に進むしかないんだな。この無限ループの世界から抜け出すために、現実世界に戻るために………。」
話に夢中になってた俺は油断していた。スイカ人間が復活してたことに気づかなかった。ちょうど俺の真後ろにいたレイラは、ゾルテの視界には入っていなかったのだ。その隙にレイラは、スイカ人間たちにさらわれてしまった。見てた訳ではないが、たぶん二人くらいで後ろからそろりそろりと近づき、口と鼻を塞ぎ、噛みついて気絶させ、連れ去ったのだろう。
「ねえ、レイラ………、レイラ………?」
スイカ台の近くに紙切れが落ちていた。手紙のようだ。
(レイラは預かった。返して欲しければこの地図のところまで来い。)
「スイカ人間めーっ、姑息な手を使いやがってーっ………。カボチャさんはどうします?」
「俺も行くが、一緒には行動できない。多分、移動方法が違うからね。」
「ひと足先に行ってる。収納魔法、瞬間移動。」
収納空間に入り、時空が歪んで見えた。辺りが暗くなって、自分が何をしているのか分からなくなった。かなり先に光の輪がみえる。
(あそこが、目的の場所か。)
急に視界が開けた。どこかの野原のようだ。周りを木で囲まれてはいるが、林の中ではない。小さな公園みたいな空間か。少し離れたところから木々が生い茂り、その茂みが続いている。この空間にスイカ人間が既に三人で立って俺を待っていた。俺から声をかけることにした。
「待たせたな、小次郎!」
「小次郎? 今度はそう来たか。………ってここは、巌流島じゃねぇよ!」
「約束通り来たんだ、レイラは返してもらおうか。」
「まあ待てよ、せっかくここまで来たんだ、カボチャたちの話も聞こうじゃねえか。ゾルテ、ゲルガ、バルバ、出て来な。」
カボチャ人間が、三人で登場。俺が三人を見ながら、
「お前たち、やっぱりグルだったんだな。」
ゾルテが、
「まだ現状が理解できていないようだな。」
今度はスイカ一号が言う。
「じゃあ合わせてやるよ。出ておいで!」
スイカ人間に変えられた、レイラらしき人物が無言で登場。俺は声をかけてみることにした。
「レイラ、大丈夫かい? 心配してたんだよ。」
「………。」
レイラは何も言わなかった。スイカ一号が、
「無駄だ、人間の記憶は残っていない。今はスイカ人間として、本能の赴くままに行動している。もう『本能寺の変』の話はするなよ。繰り返しはたくさんだ。………勿論、清美の記憶も残っていない。」
「記憶喪失みたいなものか。」
「それは我々にも分からん。だが今まで、現状を変えない限り記憶が戻った奴はいない。」
「レイラ………いや清ねえ。俺だよ、タカ坊だよ、貴だよ、思い出してくれよ。」
「レイラ………清ねえ、聞き覚えはあるんだけど、何のことだっけ。」
ゾルテが会話に入ってきた。
「なっ? 理屈より戦った方が手っ取り早いだろ?」
「カボチャとスイカと冒険者の三つ巴戦か………、まぁ俺は一人だけど、やってやろうじゃないか。」
全員が戦闘態勢に入る。抜刀術の構え。照明と戦闘の音楽。今までと違っているのは、ここが公園らしい場所だからか、幻想的なシーンではない。照明も至ってシンプル。遠くで雷が鳴っているせいか、時々チカチカと閃光が走る。ストップモーションというか、コマ送りの映像のように見える。これも幻想的と言えば言えなくもないが………。
(んっ? ちょっと待てよ。この場面に何か違和感のようなものを感じるが………。)
………と思ったら、ゾルテらしき声が戦闘を止めに入った。
「ちょっと待って、ストップストップ!」
普通の照明に戻っても一部の人間だけが動き続けていた。立ったまま少し膝を曲げ、握りこぶしで、左右の手を胸の前で上下させている。昔一時期、こんなダンスが流行ってたときもあったっけ。踊っていたのは、ルイだった。
「何してんの?」
「いやあ、俺だけ相手がいなかったもんだからつい………。だってほら、カボチャさんとスイカさんたちは、ちょうど三対三でしょ? 冒険者としての活躍でもないと思って………。」
「ちゃんとやってください、頼みますよ、本当に。みんな一生懸命やってるんだから。祭もこんな調子で参加するつもりだったの?」
「いやあ、本当に申し訳ない。」
「分かっていただければそれでいいんだけど………。もう一つ問題があるな。」
「ああ。」
「そこの二人は何をしてるんだぁ!」
ゲルガとスイカ二号らしき二人が、奥のベンチに並んで座っている。
「俺たち、すっかり意気投合しちゃってさあ。」
(あれって、清ねえと勇次だよな。許さん、それは許さんぞ。それとも俺、フラれた?)
ゾルテが言う。
「禁断の恋………だな。」
スイカ一号が言う。
「異種間での交配は不幸を招くぞ。だいたい、カボチャとスイカのあいだに、どんな子孫を残せると言うんだ。」
ゾルテが被せるように言う。
「………あまり想像したくないな………。」
我慢できなくなった俺もついに、
「ライガーやタイゴンみたいな不幸があってはならない。」
「トマピーのような成功例もあるわ。」
(この口調はレイラか。)
「植物だけで言うなら、朝顔のような例だってあるんだぞ。獅子咲牡丹や采咲牡丹の中には、種子が出来ないものもあるんだ。変異種を作り出すのが流行ってた理由の一つらしいが、そんなのは人間のエゴだ。そもそも朝顔は、薬として輸入されたと聞いている。」
「でもトマピーは美味しいじゃない。トマトとピーマンの交配は成功したわ。」
「ライガーやタイゴンの成功例はないぞ。生まれてくる子供たちは、全部オスだと聞いている。」
(ゾルテの奴、いろんなことに詳しいな。なら、俺も………。)
「クラインフェルター症候群か。人間だと、2N=47になるんだったよな。性染色体がXXYになってるという………。」
続けてゾルテが、
「難しいことを知ってるな。俺も研究者じやないから詳しいことは知らんが、多分性染色体異常だと思う。オスなのに生殖能力がないなんて、それしか考えられない。つまりライガーは子孫を残せないということ、これだけは確かだ。一世代だけで終わる動物なんて、いくらなんでも残酷過ぎるだろう。生物学者によると、自然界での交配も有り得るとしているが、現在までその事例は報告されていない。たぶん誰かがライオンとタイガーを掛け合わせ、最強の動物を創り出そうとしたんだろう。だがそんなことは、神の領域、いや神を冒涜してるとしか思えん。因みに、台湾の動物園では作成自体を法律で禁止している。タイゴンはオスのタイガーとメスのライオン、ライガーはその逆での交配となる。」
「ターナー症候群ってのもあるよね。クラインフェルター症候群の逆で見た目はメスなんだけど、こちらには出産の能力がない。性染色体がXX、もしくはX一つだけ。XXの場合、片方のXが不完全な形状をしているらしい。人間の場合、2N=45の染色体異常が多いらしいが、クラインフェルター症候群もターナー症候群も、手術と放射線による染色体操作により治療が可能だ。」
「動物と植物は違うわ。」
「わざと異種交配するのは、よくないと言ってるんだよ。」
ゾルテが続けて言う。
「遺伝子操作でなければ問題ないと思う。バナナがいい例だ。苗を零下一九八度付近の温度で保存すると、耐寒性に優れた品種に生まれ変わる。枯れないように、耐寒性を自力で身につける訳だな。こうして生まれ変わった苗は、東京でも栽培可能となる。」
「そう、これが本当の東京ばな奈。」
「また分かりにくいボケを………。字を見ないと分からん洒落は伝わりにくいぞ。こうして進化した苗は寒さに強く、しかも皮まで食べられる品種となる。」
「スイカの次はバナナか。確かにこれなら人間も罪悪感が少なくて済むかも。でも、いくら寒さに強くなっても氷河期などには耐えられないだろう。」
「動物が寒さで死に絶えても、我々植物は種子という形でなら耐えることができる。どうだ、人間たちより優れているだろう。」
「じゃあ過去にもそんなことがあったのか。」
「勿論! 人間共は寒ければ寒い、暑ければ暑いと騒いでいる。地球の温暖化だ、COの削減だ、オゾン層の破壊だ、やれエルニーニョだ、ラニーニョだ、太陽の黒点だ、フレアの大きさだ、などと騒いでいるが、もっと根本的なことにも目を向けないといけないんだよ。太陽との距離や自転・公転、傾きなどのわずかなずれ、磁場の変動………つまり、N極とS極の入れ替わりなど数え上げたらキリがない。つまりこれらの原因が複雑に絡み合って、温暖化を加速させている可能性だって否定できないということだ。」
「えっ?」
「氷河期の逆、つまり灼熱期が近づいているんじゃないかという説もあるということだ。真面目に研究している科学者もいると聞いたことがある。我々が今まで見てきたこの星は、十~十二年のサイクルで暖冬と冷夏を繰り返してきた。だから氷河期の逆、つまり灼熱期も存在したという説だ。恐竜などの爬虫類が巨大化するためには、暑い環境が必要なんだ。寒いと草食動物のエサが減るので小型化して生命を維持し、暑くなれば肉食動物は草食動物をエサとして巨大化して繁栄するって仕組みだ。」
「なるほど、食物連鎖か。」
「ああ。草食動物で身体が大きいものは、生き残れない。暑い地域で豊富なエサを求めたのがゾウ、寒くても肉食動物に襲われない安全な生活を選んだのがマンモスだ。」
「この例えは、分かりやすいね。」
「人間と比べると、動物や植物は寿命の短い。この寿命というのも、人間の尺度で考えているだけに過ぎん。犬は一〇ヶ月で大人になり、一五年前後でその生涯が終わる訳だが、彼らにしてみれば一五年が短いと感じているのか? 人間の寿命が長くて羨ましいと思っているのか?
寿命ではなく生涯という単位で考えるなら我々同様、満足した一生を過ごしているんじゃないのか? だから我々は、進化して生き残るしか方法がないんだ。………とは言え、カボチャとスイカのハイブリッドってのは、どうしたもんかな………。」
「………だってさ。聞いてるかい、お二人さん!」
ゲルガとスイカ二号は、無言のまま話を聞いている。ゾルテが続ける。
「仮に灼熱期が来たとしたら、生き残れる生物って何だか知ってるかい?」
「動物でも植物でもないもの………。」
「昆虫だよ。分類上は動物界に属しているが、節足動物門に分類されている。」
「『界、門、綱、目、科、属、種』で分類されてる、自然界の分類方法だね。」
「左様。昆虫は環境の変化に対応できるような構造をしている。これはあくまでも実験室、研究室でのデータなんだが………。マイナス3度以下だと死に、マイナス3度~8度までは動けない状態、8~22度までが、ゆっくり成長、22~29度でよく成長、29~34度で成長や脱皮、蛹への成長が早まる、34~37度で早く成長するか成長できない、そして37度以上で死ぬ………、とある。実験室でのデータと言ったのは、周りに植物などがない状態であり、湿度も公開されていないからだ。自然環境だと、また少し違った値になるだろう。」
「いろいろ知ってるね。」
「ペットとして輸入されたヘラクレスオオカブトやコーカサスオオカブトが、日本のカブトムシとの自然交配による生態系の乱れが問題視されている。飼いきれなくなって勝手に放したりしてはいかん。逃げてしまったものは仕方ないと言えばそれまでだが、管理もしっかりしなくてはいけないということだ。ここで問題なのは、早く成長するか成長できない、という温度範囲帯があるということ。オスが早く成長し、メスが成長できない状態だとしたら? 異種間交配による進化を自然と身につけていることの証じゃないのかい? 本能的なものかもしれん。だから奴らは絶滅しないんだ。我々植物の樹液や果汁など吸いおって~っ! だから虫は嫌いなんだ!」
「ま、ま、落ち着いて。」
「この星は近い将来、昆虫たちが支配するのかもしれない。」
「嫌なこと言うなよ。」
「………なら、昆虫と人間のハイブリッドでも考えるかい?」
「ハエ男という映画があったな。でもそれじゃあ、ライガーと同じじゃないか。」
「暑さと寒さの関係から、季節がずれることを理由に、明治の改暦があったのも問題だな。我々にとっては、いい迷惑だった。『暑い、寒い』さえ識別できれば、正確な夜明け、日没の時刻などは、どうでもいい。これも人間の勝手な振る舞いだ。さて、現在の暦が使用されるようになったのは明治六年(一八七三)の一月一日からだ。それまで使用されていた天保暦では、明治五年一二月三日に当たる。 だから、明治五年の一二月は一日と二日の二日間しかなかった。」
「太陰暦は三五四日だから、太陰暦を使用していると,月と季節が数年でずれて,一致しなくなってくる。だから太陰太陽暦の「太陽暦」の部分が必要となるんだよな。太陽暦と調整して,その誤差を修正するために,約三年ごとに閏月が加えられていたんだよな。」
「そうだ。だが太陽暦も不完全だと思うぞ。天文学がイギリスで発達した為、一二進法を採用しているだろう? 一〇進法を採用してれば、閏年どころか端数すら出さずに、正確な時間を割り出せたんじゃないのかな。」
「………確かに。季節によって昼と夜の『一刻』の長さが違ってたから、昔造られた時計は、かなり複雑な構造になってたらしいよね。」
「気付いてると思うが、毎回オリンピックが開催される年にカボチャ祭りも開催される。西暦が四で割り切れる年、つまり閏年だ。これは単なる偶然なのか。」
「もしかして、カボチャやスイカの大食い・早食い競争をオリンピックの正式種目にしたかった………、とか?」
「………それは無いと思うぞ。第一スポーツじゃねぇし………。」
「オリンピックのことなども含めて壁画に記録しておいたんだが、読んでくれたのかい?」
「えっ? いや覚えていないけど………。そんなこと書いてあったっけ。古い時代のものは読み飛ばしたからなあ。」
「何故人間は歴史の勉強をするのか知ってるかい?」
「同じ過ちを繰り返えさない為………、じゃないかな。」
「………多分そうだと思う。過ちを反省するのが先だと思うが、戦いの中で誰が格好いいなどとほざいていては、歴史の意味も薄らいでしまうんじゃないのか。まあ、飛ばして読んでしまったものは仕方がないな。」
「ゴメン。」
「………まあいい。昔から地上に存在していた我々に、影響を及ぼす可能性のある事項を箇条書きで記したつもりなんだが………。正直言うと、これも人間都合だと思う。おかげで我々の体内時計は狂ったままだ。最近になって、やっとついていけるようになったって感じかな。」
「最近、ショクダイオオコンニャクやリュウゼツラン、竹など滅多に咲かない花が次々に開花している。これらの植物は花が咲くと枯れてしまうものが多い。まさか灼熱期の始まり? それとも神の怒りか。」
「そこまでは分からんが、いい傾向でないことだけは確かだな。だが、その可能性もゼロではないということだ。用心するに越したことはない。」
「さっき二〇二〇年のコロナの話があったけど………。」
「そういうとこ、人間は不便だよな。我々はあんなウィルスになど感染しない。鳥インフルエンザというのは聞いたことあるが、人間にもインフルエンザはあるんだろう?」
「でも植物特有の病気だってあるじゃないか。」
「まあ有るには有るが、枯れるほどの大きな病気はない。虫に食われて枯れることがあるくらいかな。だから虫は嫌いなんだ………、おのれーっ………。」
「それ、さっきも言ったやつ! わ、わかったからもう少し冷静に。」
「だがそのおかげで、人間たちが病気や害虫に強い種類を創り出してくれた。品種改良ってやつさ。これなら我々も歓迎する。」
「品種改良と異種交配は確かに違うもんな。じゃあ逆に言うと、インフルエンザくらいにしかかからない鳥たちが一番進化してるってこと?」
「それも分からん。だが、身体が巨大化すればその分重くなるから、飛べない鳥も出てくるだろう。鶏やダチョウ、ヤンバルクイナ、キーウィなど。彼らは飛ばなくても餌が取れるような、巨大化する道を選んだんだ。また、哺乳類や爬虫類の中にも飛べる奴がいるだろう? 哺乳類ならコウモリ。滑空だけならムササビ、爬虫類ならトビトカゲだ。恐竜の中にも飛行可能な種類もいたな。翼竜に分類される爬虫類の中でプテラノドンは、翼を広げると一〇メートル以上あったと推測されている。」
「最大の翼竜と言われているよね。」
「ああ。で、話を元に戻すが、鳥たちは土の中の小さな虫などを食べることで、飛べなくなることを承知の上で大きくなった………、これも一種の進化と言えないだろうか。因みに、害虫を取ってくれる鳥たち、我々にはありがたい存在だ。鳥たち、頑張れーっ!」
「カブトガニやカモノハシみたいに、昔からほとんど姿を変えていないのも、進化の一種なんだろうか。」
「彼らは変わる必要がなかったんだよ。比較的天敵が少ない環境で生活できれば、進化の必要もなくなるだろう? カモノハシの卵を産む哺乳類というのも訳がわからんが………。そろそろ本題に入ろうか。」
「えっ? 今までの長い話で、まだ本題じゃなかったの?」
「刑部村の実家は、カボチャ農家じゃなかったのかい?」
「ああ。スイカもつくって………、ハッ!」
俺は思わず息を飲んだ。
「やっと気付いたか………。お前の実家でも品種改良をやってるんじゃないのかい? 今回の出来事は、そこにも問題がある。どうだ? 今までの話、殆どがどこかで繋がっているだろう。原因があるからこそ起こる結果なんだよ。バイオテクノロジーとかなんとか言葉を変えても、同じことなんだよ。」
「バイオより、バリュースターの方が好きなんだが。」
「パソコンの話じゃない! ………ま一応、冗談として受け止めておくよ。」
「ゲルガとスイカ二号は、別れさせないとな。分かったかい二人とも、可哀想だが………。」
「他人の恋路の邪魔は好きじゃないんだが………。」
ゾルテがこちらに背を向け、方を小刻みに震わせている。俺は思わず、後ろから声をかけた。
「何笑ってんの?」
「泣いてるんだよ!」
「その顔で泣いてるって言われても、納得できねぇな。」
「しょうがねぇだろ、こういう顔なんだから!」
(確かに、顔の表情から感情が読み取れないというのは、怖いことなのかもしれない。)
ふと、そんなことを感じた。続けてゾルテが言う。
「これから先何が起ころうとも、目的と手段をキチンと見極めることだ。目的と手段を入れ替えれば、どんなことでも言い訳できるし、逃げることだって出来る。新選組と維新志士の例を見れば分かるだろう。明治維新の達成という目的は同じでも、新しい物を守るのが新選組、古くから続けてきた物を壊すのが維新志士だったんだ。このように手段が違っていたから、争いになったんだ。」
「でも維新志士側が勝ったんじゃあ………。」
「たまたま人数が多かっただけじゃないのかい? それじぁ、『勝った者の勝利、強い者が正義』だと言っているのと大して変わらん。古い物を壊すということは、そこに破壊と殺戮が生まれる。俺には、本当に正しかったのは、新選組だとしか思えん。ま、最も、歴史にタラればは禁物だがな。」
「本当に凄いよ、ゾルテ。よく知ってるな。」
「まあ、四〇〇年以上生きてるからな。」
「いや、死んでるでしょう、六兵衛さんは………。」
「おっと、そうだった。こりゃあ一本取られたな、などと言ってる場合しゃない。俺にもこのように、冗談の一つや二ついえる、話し相手が欲しかった………。」
「ずっと祠の中に一人でいたんだからね。気持ちは分かるよ。」
「そんな言葉を掛けられたのは何百年振りかな。」
「ひょっとして、今度は本当に泣いてる、感動して?」
「馬鹿言え! これも俺が自分で選んだ結末、後悔はしていない。ただ退屈だっただけだ。だからこうして亡霊として彷徨い続けているのかもな。最後にもう一つだけ………。お前が腰に付けているアイヌの短刀、それは今まで話した知識や知能に反応する。そして、冒険者の経験値として役立つだろう。だからこんな長い話しをしたんだが、話は全部どこかで繋がっている。そのことを忘れるな。あぁ、そういえばその短刀、オリハルコンと呼ばれてたっけ。」
「オリハルコン? どこまで都合よく出来てるんだ。今度は海のト〇トンかよ、まったくパクリまくりだな。」
「ああ、きっとこの作者がいい加減なんだろうな。」
「作者とか言っちゃうし………。」
「兎に角、ここで一度抜刀してみろ。短くても、小太刀くらいの長さには変化するはずだ。」
「オーリーハールーコーン!」
「いや、掛け声はいらないよ。」
「………でも、大した威力だ。刀全体が赤く光っている。力が湧き出てくるようだ。」
「よし、成功だな。お前さんは、その力を使って、自分自身で決着をつけるんだ。お前自身に悔いが残らないように、最良の結末をお前自身の手で作るんだ。」
「ああ。そしてこの争いが終わったら、刑部村の祠の封印、修復しておくよ。そうすれば、またゆったりとした時間を過ごせるようになるだろう? 六兵衛さん。」
「頼んだぞ。約束だ。物語には始まりと終わりがあるように、この世界での出来事にも、そろそろ決着をつけなければならない。その短刀の力を使って………、お前が最後の一人になったとき………、異世界の………。」
声が途切れ途切れになり、だんだん小さくなっていき、聞きとれなくなってきた。次の瞬間、急に眩暈と耳鳴りがして、周りの景色が回転し始めた。一瞬目の前が真っ暗になったが、落ち着いてくると薄暗い照明の中にいた。
(ここは………?)
目を凝らして見ると、マンションのリビングルームの中に立っていた。
八、最終決戦
「おはよう、貴くん。」
(聞き覚えのある声だ。)
目の前には、ゾルテがいて、ゲルガとバルバ、そしてスイカ人間の三人もいる。
「おはよう? ………ってことは、俺、今まで寝てたの?」
「まあ、似たようなもんだ。巌流島からオリハルコンの話まで、直接お前さんの脳に語りかけた、つまりテレパシーってやつかな。」
「ちゃんと話してくれてもよかったのに………。」
「さっきも言ったように、残された時間は、あと少ししかないんだ。映像付きで、直接データを送っておいた。」
「データって………。」
「話は長く感じたかもしれんが、あれからまだ五分も経ってないぞ。お前さんのレム睡眠中に夢という形で送っておいた。」
「レム睡眠か………、確かに前に出てきた話と繋がってるね。」
「そこまで覚えているなら上等。結末はお前に託す。刑部村でまた会おうぜ。さあ、待たせたなスイカどもよ。村祭りの始まりのためにも、さっさと終わらせちまおう!」
ようやく話に入って来られたスイカ人間たち。スイカ一号が、
「待ちくたびれたよ。よし、ここで合ったが百年目、四〇〇年前の………、」
ゾルテが被せるように、
「どっちなんだ。」
「うるさい! 関ヶ原での恨み、今晴らしてくれよう!」
(本当に仲がよさそうだ。漫才見てるみたいで、楽しいんだが………。)
美しい照明と戦闘の音楽。今回は戦闘シーンのみ。照明と音楽、幻想的な雰囲気の中での戦い。やがて音楽が鳴り止み、部屋の照明に戻った。残ったのは俺、ゾルテ、ゲルガ、スイカ二号だった。気がつくと、俺とゾルテは背中合わせで立っていた。ゾルテが言った。
「これがお前さんの望んだ結末か。後悔しないな? また、もとの世界に逆戻りしたくなけば………。」
「ああ。もう迷いはない。これが俺の望んだ結末だ。ちょっと名残惜しい気もするけど、また新しい未来を自分で見つけてみようと思う。背中は預けたよ。」
そう言い終えた瞬間、スイカ二号が動きだした。それに合わせて、ゾルテが斬り込んだ。
「ま、待て! 早まるな。」
(わざと斬られに行ったのか?)
「うわーっ。」
ゾルテの声だった。
(これでいいんだ。今はゲルガとスイカ二号を何とかしないと………。)
「ゲルガ、スイカ二号、禁断の恋の時間は終わった。この三人で、豪華に三つ巴戦でも構わないんだが………。」
「最後まで、カボチャ人間にもスイカ人間にもならないつもりなんだね。」
「当たり前だのクラッカー。弟に清ねえを取られるのも気にいらねえし………。覚悟しろ、勇次!」
一瞬、ゲルガがひるんだ。
(もしかすると、記憶の一部は残ってるんじゃあ………。)
その隙に、ゲルガに斬り込んだ。無言で倒れるゲルガ。
「さあ残るはレイラ、お前だけだ。」
「私はスイカ二号だ、レイラではない!」
祭囃子が聞こえてきた。スイカ二号が抜刀術の構えを見せた。俺もそれに応えることにした。祭囃子が近づいてくる。俺にはボリュームが上がったようにしか感じられなかった。緊張の一瞬。時間が長く感じられる。
「………なら、目を覚まさせてやる。レイラは俺が守る、そして………、そして俺は………、清ねえが好きだーっ!」
(オリハルコン、俺の思い通りに作用してくれ!)
勢いに任せ、斬り込んだ。暫く斬り込み終わったままの態勢で立ちすくんでいた。後ろで倒れる音が聞こえた。いつの間にか祭囃子は聞こえなくなっていた。振り返り駆け寄って、抱き起こした。
「何故、わざと斬られたの?」
「ああ、タカ坊。あんなこと言われたら我に返るわよ。それに、斬られたときの痛みも加わって、正気を取り戻したみたい。」
「そんな思いをしてまで、なんで………。」
「タカ坊のため………、かな。それに、ゾルテも言ってたでしょ? 残された時間はあと僅か。時空の捻じれが戻り始めているの。現実の世界に戻れなくなるわよ。さあ、そこのスイカ台まで私を連れていって。」
「わかった。」
台の近くまで連れていくと、レイラは自分から上半身を乗せ、頭を突き出した。」
「これで斬り易くなったでしょ?」
「いや、目が合うと斬りにくい。仰向けは止めてくれ。美容院のシャンプー台じゃないんだから………。」
「ああ、つい、いつもの癖で。」
「………。」
「どうしたの? 何を躊躇ってるの? ちゃんとうつ伏せになったじゃない。この部屋で、あなたが一人だけになった瞬間、時空の扉が閉じるわ。」
「でも………。」
「貴君とは、またいつでも会えるじゃない、刑部村で………。六兵衛とも約束したでしょ?」
「初めて貴って呼んでくれたね。清美さん。」
「これが………、俺の望んだ結末だーっ!」
俺は、オリハルコンを振り上げ、スイカ人間の首を斬り落とした。
「ああ、レイラ、レイラーっ! ひょつとして、とりかえしのつかない事をしたんじゃあ………、うわーっ!」
俺は年甲斐もなく、声を上げて泣いた。いくら抑えようとしても、涙が止まらなかった。この感情も、自分では抑えることができない。何年振りだろう、こんな思いをしたのは………。突然部屋が明るくなり、リビングルームに明かりが灯った。
「何してんの、スイカ相手に………!」
「ええっ? ………えーっと、食べる?」
「いらねぇよ、床に落ちた物なんか。」
壁の照明スイッチのところには、勇次が立っていた。その場を誤魔化すため、一欠けらのスイカを口に入れた。
「変な声が聞こえるから来てみたら兄さん、スイカを落としちゃって………。」
「な、何してるって………、真面目に現実世界に帰ってくる方法をだな………。」
「食うか喋るかどっちかにしてくれ、鬱陶しい。熱でうなされて変な夢でも見たんじゃないの?」
「夢? あれは夢だったのか? あれっ? アイヌの人形も二体ちゃんとあるし………。お前、本物の勇次だよな。」
「当たり前だろ。じゃあ、早速出かける準備して。」
「出かけるって、どこへ?」
「いやだなあ兄さん、今日は四年に一度のカボチャ祭りの日じゃないか。昨日の夜、村で採れたカボチャを飾るためだけに東京に来て、今日の祭り開催に併せて、刑部村に帰るんだよ。まだ暗いけど、初電に乗らないと間に合わないからね。」
「母さんは?」
「隣の部屋で支度してるよ。兄さんも早くおいでよ。」
「ああ、思い出した。あとは鞄に詰めるだけだったっけ。俺も、準備ができたらすぐ行くよ。」
エピローグ
(しかし、まだ何か引っ掛かるんだよなあ。)
着替えなどを鞄に詰め込みながら、いろいろ考えていた。
「四年に一度のカボチャ祭、ここで会ったが百年目………か。んっ? 待てよ。単純な公倍数の問題か。公約数じゃなかったんだ。カボチャたちが祭りで小競り合いするのが、カボチャ祭りだとすると、関ヶ原の戦いと二〇○○年問題は丁度四○○年経ってて、大戦になってたっけ。………だとすると、一○○年に一度のカボチャ祭りは中程度の戦いと判断することができる。これが事実なら………、今年は祭りだけで終わりそうだな。次の対戦は単純に考えても、西暦
二四○○年………中程度の戦いは二一○○年………、気が遠くなるようなスパンで戦ってたんだな、あいつら………。二一○○年じゃ、俺だってこの世にいないかもしれないし、当分は見守ってるだけで過ごせそうだ。………まずは、六兵衛との約束を守るか。祠の掃除と封印のあと、祭りの準備に取り掛かろう!」
母さんが俺を呼んだ。
「貴ーっ、そろそろ出かけないと乗り遅れるよーっ。」
「今いくよ! 鞄も持った、あとは部屋の電気を消して………と。」
壁の照明スイッチを操作し、部屋を出た。
(あとは、鍵をかけるだけだな。)
部屋は暗くなった。玄関の方から、貴の声が聞こえる。
「一応、ガスの元栓も確認して………と。」
しばらくしてから、
『カチャッ!』(玄関の鍵の音)
この話は、植物界、動物界、いや、自然界から人類に対する挑戦、警鐘なのかもしれない。
………カボチャにスポットライトが当たっている。急に目と鼻と口が出現した。
「ケーッ、ケッケッケッケッ………!」
甲高い、不気味な笑い声とともに、スポットライトが消えた。そしてこの部屋は再び、暗闇と静寂に包まれた。
この物語はフィクションであり、登場する人物・団体名などは、すべて架空のものです。
完
解説
ハロウィーン
ハロウィーンは、アイルランド人の祖先であるケルト人達が行っていた儀式が始まりとされています。英語では、『HALLOWEEN』というスペルなので、この表記で統一しました。
ハロウィーン伝説
ジャック・オー・ランタンの話が有名。今から二〇〇〇年以上も前から、ケルト人達によって語り継がれてきた伝説。最初はカブをくり抜いてランタンとして使用していたらしいが、古代のアイルランドにはカボチャがなかったからだというのが通説。最近では世界的に有名なイベントとなっているので、暑い地域ではパイナップルをくり抜いて作ったランタンも出てきているとのこと。今も彷徨い続けているジャックの亡霊に、『私も、あなたと同じお化けです。間違って連れて行かないでください。』という願いを込めて仮装したのが始まりです。一部の国や地域では、ジャックがロックという名前に変化しています。これは、ただ単に『J』の発音の問題なのか、ジャックとい名前が使えなかったのかは定かではありません。昔調べた図書館の資料には、そのような記述がありましたが、今回は探し出すことが出来ませんでした。現在、『ハロウィーン ロック』で検索しても、ドイツのロックバンドしか引っ掛かりませんでした。でもそこは、『読み物』として、あまり深く考えないで頂けると幸いです。
カボチャ伝説
ジャック・オー・ランタンの話をそのまま日本風にアレンジ。悪魔が鬼、ジャック↓ロック↓六兵衛へと変化した以外ほとんど変えていませんが、ニンニクと十字架は後に出てくる吸血鬼と結びつけるためのものです。
刑部村
N県I市をモデルにした架空の村。横溝正史さんの悪魔の手毬唄に出てくる鬼首村と語呂が似ていることから命名。舞台版では小坂部という文字を使用していた。これは学生時代の教師の苗字から拝借しましたが、何年か前に亡くなったと聞いているので(間違ってたら御免なさい)、流石に気が引けた為の変更です。古いワープロとWordの変換順位の違いも関係していて、最初に変換された文字を使用しました。○○市○○町や○○市字○○のような、集落といったイメージ。現代なら市町村の統合や合併で、村自体の名前が無くなることもあると思いますが、私の中で出身者はいつまでも、○○村出身と名乗るような、存在が消えない村、そんな村をイメージしてみました。
登場人物、キャラクター
貴
従姉のタケシを変化させたもの。舞台版では貴史の文字を使用。二〇代後半くらいで、刑事という設定だった。今回の小説版では、冒険者という設定が加わったので一〇代後半に変更しました。舞台版では最後まで人間のままでいましたが、今回はアイヌ人形に転生したので最後まで生き残るという設定に変更しました。
勇次
貴の弟。舞台版では兄が刑事という役だったので、ある刑事ドラマの役柄からヒントを得て命名。兄よりしっかり者なのは変わっていません。
絹江
学生時代の友人の母親の名前を拝借。理想の母親像か。
清美
初登場のキャラで、舞台版には登場しません。清美の名前は昔、実家の近くにあったラーメン屋で、所謂町中華の店名。結構美味しかった………という記憶がありますが、この店、今はもうありません。貴の初恋相手で、刑部村の幼馴染。近所に住む、お姉さん的存在。二歳年上といった設定。貴との恋の行方も気になると思いますが、今回は割愛させて頂きました。物語の中では謎の美女、夢の中にいる実体のない存在を描いてみたかったからです。
アイヌ人形
作者の家にある実在の人形をモデルにしました。人形というより、縫いぐるみに近い。二体のペアでバンダナのようなものを頭に巻いており、おさげのような髪型をしている。これも民族衣装の一部だと仮定すると、男女の判別は不可能。そこで、赤い衣装が女の子、青い衣装が男の子と勝手に決めさせてもらいました。舞台版では、ルイとナパという名前で登場。しかも、ルイが女の子、ナパが男の子でした。アイヌの守護神が人形に憑依し、戦士として活躍するという設定。物語の後半でルイがスイカ人間に噛みつかれ、誘拐され、記憶を失い、レイラを名乗る………という内容。今回は、貴自身が冒険者として転生するという設定に変更したので、女の子の方は誰が転生するのか………と悩んだ末、清美の登場………となった訳です。また舞台版ではナパが物語後半の謎解き及び進行役でしたが、今回はゾルテ(六兵衛)がつとめています。たかが人形………ですが、物語の中では結構重要な役割を果たしています。
ルイ
貴がアイヌ人形に転生した状態。勿論、フランス国王から。優雅で気高い戦士のイメージか
ら。それと、若い頃の太川陽介さんの歌から。アイヌ人形とアイドルのイメージが、一部で重なった事も関係しています。五十三世の事は最近まで忘れていました。
レイラ
清美がアイヌ人形に転生した姿。貴から見れば理想の女性像………なのかもしれません。あるアニメの主題歌で使用されていた名前から拝借。謎の女性が物語の鍵を握っている………、そんなイメージから出来上がったキャラクター。
六兵衛
今回は物語の後半から、謎解きと進行役を兼ねる重要な役になっています。舞台版の場合、見ていればある程度内容は伝わると思いますが、小説だと文字だけで伝えないといけないので、ゾルテに憑依させました。はっきりと、ゾルテ=六兵衛としたのは、この小説版が初めてです。六兵衛というのは、対馬や島原に伝わる郷土料理から。徳川家康の件で『サツマイモの天麩羅』の話が出てきますが、六兵衛とは『サツマイモつながり』です。分かりにくかったかもしれませんが、こういう遊びも何箇所かに、ちりばめてみました。探してみるのも面白いかもしれません。尚、六兵衛という茶碗などの焼き物がありますが、こちらは最近まで知りませんでした。
カボチャたち
基本的に、キャラクターの名前を決める時は五十音表を手元に用意し、適当に指を押し当てた順番で決めているので、偶然似てしまう場合もあります。ゾルテ事件は関係していませんし、超人バロム・1に登場するドルゲとも無関係です。ゲルガは調べても何も出てきませんでしたし、バルバも検索上、引っ掛かるものはありませんでした。偶然とは言え、似てしまうこともあるとつくづく実感いたしました。カボチャにもいろいろあるようで、たくさんの種類が存在します。変わり種としては、そうめんカボチャやズッキーニもカボチャの仲間です。ハロウィーンで使用するオレンジ色のカボチャ、日本ではあまり見かけません。食用にもなるらしいのですが、独特のホクホク感や甘みが少ないらしく、食用にはあまり向かないようです。おもにピザやパイなどの加工用として使用するほか、殆どが飼料になるそうです。
スイカたち
舞台版でも名前はありませんでした。物語を考えていたとき、ライバルがいた方が面白くなりそうだと思い、スイカに決めました。いろいろ調べてみたら、本当に相反する部分が多く、いいライバルになってくれたと思っています。スイカについても、いろいろと調べてみました。物語では、黄色いスイカと赤いスイカが出て来ます。基本的ににはこの二色だけのようです。
その他、薄い赤色のオレンジも存在するようです。ネットで話題になっている、青いスイカは実在しません。写真や映像にフィルターをかけ画像処理しているか、着色すれば青色に染めることは可能です。黄色いスイカは、ベータカロチンが、赤いスイカはリコピンが多く含まれているようで、これらの成分が果肉や果汁の色となっているようです。そして皮の色もよく見ると違うようで、緑と黒の割合が異なるようです。黒いギザギザが多いものは中身が赤で、緑のギザギザが多いものは、中身が黄色い。昔はそんな見分け方をしていたようですが、最近の品種改良されたものに、この見分け方が通用するかはわかりません。でも割ったとき、どっちの色が出るのか、開けてみてからのお楽しみ………、そんなワクワク感も楽しみのひとつではないでしょうか。種類では、赤いスイカが一番多いようで、『でんすけ』、『ばくだん』、『ダイナマイト』など。皮がほとんど真っ黒なやつで、ブランド化されているみたいですが、糖度は高いのでしょうか? 私はあまり興味がありません。かつては『ゴジラのたまご』のように、ラグビーボールのような形のスイカもありました。アメリカなどで見かける細長いスイカは、甘みはあるのですが青臭さが強く、好き嫌いが分かれるところだと思います。これらの話も物語に反映させたら、とてつもない長編になりそうだったので、今回は割愛させていただきました。
この物語の結末は、みなさんで考えてください。映画やドラマなどでは、よくある手法だと思います。主役は、あくまでもカボチャたちですから、人間都合のハッピーエンドにはしたくなかったのです。舞台版では、刑部村での最終決戦も表現してみましたが、カボチャたちの存在が薄れてしまったので、あえてこのラストとしました。原稿は縦書きで仕上げましたので、読みにくかったら、ゴメンなさい。この作品は、学生時代に書いた『映画用脚本』、『舞台用台本』、そして今回の『小説』へと進化? してきたものです。ジャンル的にも、どれに当てはまるのか自分でも分からないので、『ギャグホラー』としましたが、いろいろな要素を含んでいると思います。ギャグといっても爆笑するほどではないでしょうし、『クスッ』と来るくらいでいいと思います。SF的な要素も含まれていると思いますので、『ここは、違う』等のご指摘などなさらずに、半分は『創作』、『作り話』だと思って読んでいただければ幸いです。