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第三話

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目を覚ます。


部屋についている窓から外を見ると、吹雪が吹き荒れていた。

これはしばらくは外に出られないなと思い、どうせなら二度寝するかとへレスは再びベッドの中に入ろうとした。そこで動きが止まる。


もう一度窓を見る。変わらず吹き荒れていたがずっと見ているとだんだんと過去の記憶と重なってきた。


……そういえば、メル姉が死体として見つかる前日こんな天気だったような。



へレスは急いで階段を駆け下り、玄関に行く。


「ちょっとへレス⁈ こんな吹雪の中どこに行こうとするの」

「メル姉のところ行ってくる!!」

「はい⁈」


母に止められるが制止を振り切って目の前にあるドアを開く。

開いた瞬間氷と風が勢いよく顔に叩きつけるが、すぐにドアを閉めて左腕で庇いながらメル姉の家を目指そうとする。


幸い、昔の記憶が合っているなら家は近くにあるからそこまできつくは無いだろう。着実に一歩一歩足を進めながら()()を持って向かう。


体は冷えに冷え、意識が朦朧とし始めた時ようやく『クライシス』と書かれてある看板を見つけた。

ドアをノックする。1回、2回、……3回。


出てこない。もしかして、メル姉はもう……。


絶望している中、がちゃっとドアが開く音がする。


「お、おかあさ……じゃなくてへレス⁈ どうしたの⁈」


顔を見上げるとエプロンを付けたメル姉が驚いた表情をしているのが伺えた。

ほっとすると同時に全身から力が抜け、その場にへレスは倒れた。


----


「来たか」

「え」


いつの間にかへレスの目の前に何かがいた。周りを見渡すとどこまでも薄暗い空間が広がっている。


「助言の通り、貴様は順調に動いてくれているようだな」

「……?」


あまりの突然さに、思考が完全に停止する。その停止度合いは時が戻った時に匹敵する具合であった。


「ああ、すまないな、混乱させてしまって。そういえば貴様は以前までの私との会話を忘れているのであったか」

「あ…え」

「それならば再度自己紹介をしよう。私は悪魔の一柱(ひとはしら)、アガレス。主君を助ける為に奮闘している悪魔である」


目が離せなかった。音は耳から耳へと通り過ぎていき、何も理解できず、つまり悪魔という単語も一旦は聞き逃してしまうほどであった。…悪魔。


「あくま。悪魔。……悪魔って、本当に、実在したんだ。空想の中だけの存在だと思ってた」

「ほう。今回は冷静だな。過去に二回ほど貴様と話をしたが、とても建設的な会話ができる状態ではなかった」


いや、冷静というか。恐怖感とか意味不明さとかが頭の中をぐるぐる回って脳がショートしたから何も考えられなくなったというか。

そう、へレスは思考を手放した。


「まあそれは良いことだ。こちらも()()()()()をしなくて済む。

今回も助言を与えてやろう。覚えようとしなくても勝手に私の()()が貴様の脳に刻まれるから安心するがよい。

『汝、メルアード・クライシスに扉を開かせるな』

さて、これからも貴様の活躍を期待している」


----


「起きた! 良かったあ。暖かいお茶入れてくるから少し待っててね」


気が付くとへレスは上を見上げていた。頭にずきんと痛みが走る。


「!!??」


その痛みが引き金となり、へレスは先程の不思議な体験を完全に思い出す。


(悪魔、アガレスだって……あんな夢を見るなんて恥ずかしすぎないか)


あまりにも子供っぽい夢を見たことに恥ずかしさを覚える。体を起こすと、誰かに支えられた。メル姉だ。


「ほら、ゆっくり飲みなさい」

「ありがとう」


ごくりごくりと喉に通らせていく。へレスは自分の体が少しずつ温まっていくのが分かった。

飲み干す頃にメル姉に横から尋ねられた。


「どうしてこんな吹雪の中私の家に来たの?」

「……。」

「もしかして、親子喧嘩して家から追い出されたとか?」

「……うん、実はそうなんだ」


そういうことにしておいた。よく考えてみればおかしな理由だとはへレス自身も思ったが、何故かすんなり受け入れた表情をしていたので大丈夫だろう。


しばらく安静にしていると、へレスはこの空間の違和感に気づいた。


「ねえ、メル姉。両親はどこにいるの? まだ眠っているのかな」

「あーえっとね。もともと母子家庭で去年おかあさんが家を出たから、今は一人暮らしなんだ。」


その返答に絶句して何も言えずにいると、慌てた様子で補足してきた。


「別に悲しくはないからそんな気負わなくて大丈夫だよ! 昔は私が稼いだお金使われてたから逆に今は嬉しいというか」


何というか。

小さい頃に疑問に思っていたメル姉の異常なまでの面倒見の良さの原因が今ようやく理解できた。


(おそらく、彼女は母親に自分がしてもらいたかったことを僕にしていたのだ)


この子が死ぬことは到底許せないような、そんな気持ちにへレスはなった。



料理を作ってくれているとの事なので、手伝うよと言ったら、包丁を扱うのは危ないからダメだと言われてしまったのでへレスは渋々食卓椅子に座った。


机の上を見ると未完成のバッグがへレスの眼に入った。


「バッグ作ってるの?」

「そうなの。今持ってる巾着袋がちょっと小さくて、大きいものを入れる用のバッグも欲しいなと思って作ってるんだ」

「もしかして、巾着袋も手作りだったり? そうだったらすごいね」

「くふふ。実はそうなのよ。コースターくらいならそこまで作るのも難しくないし、やってみれば?」


料理を運びながらそうメル姉は言った。


到着してきた料理を見る。シチューだ。へレスはすぐさまスプーンで掬い、口に入れた。


「どう味は」

「美味しいよ。毎日作ってもらいたいくらいには」

「何? 新手の告白?」


そんな会話が続く。



ご飯を食べ終えた後、メル姉に教えられながら糸を編んでいく。

不器用だったようで、かなりの時間がかかったがようやく出来た。

ところどころほつれていたが、自分的にはかなりの大作だった。


「うん、かなりの出来。上手よ。家で大切に使いなさいね」

「いや家には持って帰らないよ。はい、これメル姉にあげる」

「え、くれるの」

「少し早めの誕生日プレゼントだよ」


メル姉はじっとそのコースターを見つめた後


「ありがとう」


そうはにかみながら言ったのである。


ドンドンドンドン

第三話『悪魔』

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