完璧な少年 ~ぜんぶ↑↓矢印←→の言うとおり~
俺には矢印が見える。
その“矢印”のいうとおりにすれば、すべてが上手くいった――
◆
きっかけは3年ほど前。その日、俺は泣いていた。
ご近所さんに比べて、俺ん家はだいぶ広い。そんなウチの庭の隅っこに、小さな石造りの家があった。
神様をお祀りする、“祠”ってもんらしい。
その前で、俺はいつものすすり泣き。近所の子とケンカして、また負けた後だった。
(力、ほしい?)
急に声がした。脳ミソに直接響くかのような、あやしい女の子の声。
でも、周りにそれらしい気配はない。何か変だ。
「……何が要るん? 無料違うんやろ?」
なのに、自然とそう答えていた。
(ほな、ウチに“広い世界”を見せて。人間の行ける所、どこにでも行ける力をあげる)
それから、彼女? の声は、二度と聞こえなかった。
◆
おかしな話だった。だって、うちの庭に祠なんてないんだから……
ご近所さんの何軒かは、敷地内に祠がある。先祖代々住んでて、今も残してるらしい。
けど、うちはそんなに昔から住んでるわけじゃない。家の中に神棚があるし、それで充分でしょ? って感じだ。
だから、あの次の日からしばらくは、色々と気になった。
あの庭の隅っこを、何回も見直した。けど、そんなに大きいものはない。白い小石が敷き詰められているだけだ。
で、家族に聞いてみても、手ごたえがない。
「何かの見間違いちゃう……?」
って言うだけだった、不思議そうな顔で。
(昔、何かあったんかな?)
そう思って、古い地図をあたったこともある。
ウチが建つ前は、ただの田んぼだった。
結局あれは、何だったのか……?
◆
もう一つ、あの日起きた不思議なことがある。
……いや、あの日から続いている、というべきか。
あの日、家に帰った俺は、さっそく妙なものを見た。
部屋の中を、蚊が一匹飛んでいる。その上に、忙しなく動く矢印があった。
蚊が向きを変えれば、“矢印”もそっちを向く。加速すれば大きくなり、減速すれば小さくなる。
そのまま、壁かなんかに止まると消えて、また飛び立ったら復活した。
で、しばらく見ていると、蚊よりも先に“矢印”が動くようになった。ん、左腕に来た……サヨナラ!
……あ、もう晩飯の時間か。
(変なもん見たなぁ……)
と思いながら、部屋を出た。
◆
次の日。色んなものに“矢印”が見えて、めちゃくちゃ疲れた……
特に避難訓練がきつかった。全校生徒の“矢印”見ちゃって、ぶっ倒れるかと。
あ、でも、校長先生がマイク取ったときは面白かった。全校生の半分ぐらいの“矢印”が、ブワーッてそっち向いてさ。
……もしかして、あれが「空気読む(物理)」ってコト…… !?
そんな小学校からの帰り道。友達と別れて、家の近く。
「お? よぉボンボン!」
うわぁ、今日もおる……道変えたのに…………
「お前金あるやろ? 金。今日もちょーだい」
茶髪の男2人が、こっちに来る。近所の中学生らしい。
……にしては、シャツ出すぎだし、いっつも帰りが早すぎると思う。サボり?
「持ってません。見りゃ分かるっしょ?」
「ほな、お家から持ってったらええんやで~?」
「そうそう、それともケンカする~ ?? 」
いやもう飛び掛かってるやん……
拳や蹴りの前に飛んでくる、“矢印”をよける。これ便利やな!
「お? 今日は調子ええやん !! 」
「おぉ、ほなこれはどうよ?」
げぇ、これは無理、顔に当たる! ……しゃーない。
「プ゛ャ゛ア゛ッ !! 」
「あ、やべ。鼻やってもた!」
そのまま、腹に頭突き。仕返し。
「フンッ……うわ汚ッ、血ぃ飛んだ !!」
「……しゃーない、帰るぞ!」
2人は走り去った。怒られればいいと思うよ?
「あ゛ーも゛ー……ティッシュは……」
鼻血だけで済んでよかった……。
◇
あれから約3年。俺はいつしか、
「文武両道のパーフェクト・ボーイ」
って言われるようになった。
……こっ恥ずかしいネーミングだな! もうちょっといいのあったでしょ?
それはさておき、ここは中学校のグラウンド。雲一つない青空から、初夏の日差しがガンガン照りつけている。
「いや~、暑ぅ~!」
「ほんまになー、もーちょい日陰ほしいわー」
「せやな~……」
親友のYと、そんな話をする。
今から体育、今日はサッカー。退屈な集団行動とか体力テストとかが終わって、みんないきいきしてる。
……いや、みんなでもないか。そこのメガネくんとか、あっちのミイラみたいなデカい奴とか、めちゃくちゃ嫌っそ~な顔してる。
大丈夫? 成績に響かない ??
……ん? この“矢印”は……女子か。手ぇ振っとこ。
「「「『キャ~ !! 』」」」
おぉ、めっちゃ盛り上がってる~。かわいいね。
「いや~、お前も変わったな~……」
「お、やっぱり?」
「まあそらな、俺が転校してきた頃は、もっと大人しそうやったもんな~……」
腕組んで、うんうんと頷くY。
「親かお前は」
「ハハッ、ご冗談を……お、そろそろやな」
「やな。また後でー」
それぞれ敵味方に分かれて、位置についた。
◇
へいお待ち、ゴール一丁 !!
「よっしゃー!」
俺には矢印が見える。この“矢印”が、いろんなことを教えてくれるのだ。
“矢印”のいうとおりにすれば、すべてが上手くいく……!
「ナイスI、さすが天才!」
「今日も頼むで~、3点奪取 !! 」
お読みいただき、ありがとうございます m(_ _)m
続きはありません。ご了承ください……
???「空気が読める(物理)魔法だよ」
【追記】一部加筆/修正しました
(2025/06/21)