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絵を描く意味

 無謀な計画を立てるべきではない。

 そんな教訓を得た僕は、自分のペースで歩を進めて行こうと思う一方で、焦燥感に似た感情が自分の中で渦巻いているのを感じていた。


 最近、絵を描くことがめっきりと減ってしまったのだ。かといって、勉強しているわけでもない。

 ただ、同じ日常を繰り返しているのだ。


 例えるならば。

 無限に続く迷路に迷い込んでしまったような感覚。漠然とした不安。暗闇を一人歩いているような無力感。

 色々言い方はあるけれど、この感情に支配された人間の行き着く先は決まって絶望だ。

 何より、僕がそうだった。そしてその結末はもう知っている。

 これの恐ろしい所は、このままではいけないと強く思うほどに、まるで沼の様に深く深くへと沈んでしまうことだ。


 一度絵から離れた方が良いかもしれない。凝り固まった思想を、ほぐさなければいけないからだ。

 一人の子供としての、久山樹(ひさやまたつき)としての人生を生きるのが良いのかもしれない。


 野原を駆けるのもいいだろう、草木を愛でるのもいいだろう。いや、草木を愛でるのではお爺さんになってしまうか。

 思えば僕は、前世でも、子供らしいことを何一つとしてしていないじゃないか。

 あるかどうかも分からぬ未来のために、今の希望を捨てるんじゃあ本末転倒もいい所だ。


 第一、僕は今、アニメにご執心なのだ。アニメも一応、絵に関することではあるが、何枚もの絵によって映像となって動く様は見事なものだ。静止的な絵とは一線を画した凄みが有る。僕も最初見た時は、あっ!となって驚いたものである。

 そして何よりストーリーだ。まさに、本と絵とが融合した感じで、今まで脳内で想像するしかなかったものが、実際に動いているのを見るのはなんともいえぬ感動がある。


 なかでも僕が好きなのは、顔があんぱんのヒーローが街を救う物語である。

 最初は母親に見せられて、いかにも子供向けな陳腐な物語だと思いながら、アニメの物珍しさに惹かれて視聴するだけであった。

 しかし、何度も見ていくうちに気づいた。

 自らの体を削ってまでお腹が空いている者にパンを分け与える。これはキリスト教の精神そのものではないか!

 幼い頃からキリスト教の精神に浸らせて、すんなりとクリスチャンにさせるという魂胆か。よく考えられているではないか。だが、僕には丸分かりだ!

 なーに、初歩的なことだよワトソン君。


 とはいえ、面白いものだ。表面の意味だけでなく、それが作られた背景まで読み取ることによってその絵に込められた裏の意味を読み取る。此の様な工夫がなされる事でより楽しむ幅が広がるし、違った見方もできてくる。何より、作品を他人よりも理解しているという愉悦がすごいのだ。誰か、他の人に教えてやりたい、そんな感じがしてくる。

 まさか、もうパンのことが好きになるとは思わなかったが。


 自分でも単純だとは思うが、ヒーローというのも悪くはないな。困っている人に駆けつけて颯爽と帰っていく。

 人のためになるという点で、ある種、最もやりがいのある仕事であるだろう。


 人の役にために尽くす。

 なんと崇高な響きなのだろう。それと比べると僕の、絵が上手になって、チヤホヤされたいだとかいう、承認欲求の塊の様な目標が、ただ己のが欲望を満たしたいがための、なんとも、チンケで、下衆な考えなのだろうと思えてくる。


 僕はなんのために絵を描きたいのだろうか。褒められたいのだろうか。自分の限界を知りたいのだろうか。なんだかよく分からなくなってくる。僕は、なんで、絵を描きたいのだろう。

 いや、これを考えるのはやめだ。何か深いドツボにハマりそうな気がする。


しかし、ヒーローを目指すと言ったって、僕は非力で、何か特別な才能があるというわけでもない。ましてや、倒すべき─それこそアニメみたいな─明確な敵もいるわけじゃない。


何処かふわっとしているなぁ。とりあえず、敵をワンパンで倒せるヒーローになるために、筋トレでも始めようかな...。



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