お披露目会
とうとうやってきてしまった。今日、お披露目会が幼稚園で行われるのだ。
と言っても、楽器の演奏会であるから、まだ絵が見られると決まったわけではない。
だが、壁にデカデカと貼ってある絵を見られないと思う方がおかしいだろう。特に自分の絵は目立ってしまっているし、先生が勧める可能性だって高い。
自分の完璧な計画がここまで牙を剥いてくるとは。「ナチュラル絵の天才大作戦」、なんて恐ろしい子なの。
朝から浮かない顔をしながら幼稚園まで見送られた。
幼稚園の中はいつもと違い、演奏会用の家具の配置になっており、先生たちが準備を進めているようだった。
そういえば、自分が楽器の練習をこれっぽっちもしていないことに今更ながら気がついた。
確かカスタネット担当だったことは覚えているんだが、何分絵のことが気になりすぎて、楽器のことなんか考えている余裕などなかったのだ。
いつも気だるそうにしていたせいか、練習の時も何か言われた記憶もないし。まぁ、この年齢の子供の技量などたかが知れているし、そこまで気にする必要はないだろう。
気軽な気持ちで迎えた本番。親たちが入室が次々と入室していき、その中に僕の両親もいた。
そして結果は散々な物であった。一応リズムに乗せて微妙に叩いてみたりしたが、音楽的素養もない素人には、付け焼き刃にすらなっていなかった。
演奏が終わり拍手が鳴った時には、ちょびっとだけ罪悪感があった。ひと段落ついてから、両親が僕に近寄ってきた。
「お前なりに頑張ったのか?」
父親のその問いかけに対して、こくりと頷いた。一応今出せる全力は注いだのだ、頑張ったかそうでないか比べれば前者であるといえなくもないだろう。
僕のその返事に対して、父親がいつもする満面の笑みで返してきた。
「よく頑張ったな、上手だったぞ」
そう言って頭を撫でられた。
そのあと、僕の描いた絵を見てとても喜んでくれていた。
絵の才能があるのかも知れないと言ってくれたし、パン屋を継がせようとしてくる、なんてこともなかった。
僕にはよくわからなかった。
確かに絵は喜んでくれたが、褒めてくれることはなかった。際立って上手であった絵を褒めないで、明かに見劣りしていた演奏をなぜ褒めるのだろう。
頑張ったかどうかなんて関係がなく、結果が全てではないか。描き続けていた絵は上手で、全く練習してこなかった演奏は下手、ただそれだけだ。
ましてや、カスタネットなんていう単純な楽器 、将来性のヘチマもない物を褒めても、ただ叶わぬ夢を抱かせるだけになるということが、わからないのだろうか。
そんなものはただの自己満足で、それこそ嬉しく思うことはあれど、褒めるなんてもってのほかだ!
僕は胸がいっぱいになる気持ちだった。
発表会も終わり、両親と歩いて家まで帰ることになった。
途中で歩き連れてしまった僕は、父親におんぶしてもらった。父親の背中は大きくて、心なしか安心した。
外はすっかり夕暮れ時で、空は赤く染まっていた。その景色が前世で同僚を描いていた頃の情景と重なった。
あの頃は絵を描くことが心底楽しかった気がする。いや、僕が描いた絵を見て笑ってくれるあの時間が好きだった。
気づいた時にはベットの上にいた。どうやら途中で寝てしまっていたみたいだ、どのくらい寝ていたんだろう。部屋の扉が少し空いていて、一筋の光と共にうっすらと両親の話し声が聞こえてきた。
僕は扉の近くで聞き耳を立てる。
「朝から元気がないから心配していたけれど、このことだったのね。」
「何にでもすぐにできる子だったから逆に心配してたけど、そりゃ失敗することだってあるよな。」
「逆に今までが異常だったのよ、転んでも泣かない子なんて他にいないんだもん。初めはなんかの病気なんじゃないかって疑ってしまったわ。」
「そうだなー、それにしてもあの絵はすごくなかったか?将来どんな子に育つか楽しみだよ。」
「案外あの絵みたいにあなたのパン屋を引き継ぐかもよ。」
「それはないだろう、だいたいあの子はパンが嫌いみたいだそ。それよりも、もっとこう大きな、何かこんな田舎に収まる器じゃないような気がするんだ。」
「総理大臣みたいな?」
「そうだなぁ、とりあえずノーベル賞を六つほどとって、永久機関を発明して、そんでもってこう呼ばれるんだ。現代のレオナルド・ダ・ヴィンチってな」
「あはは、おっかしー。それもいいわね。でもとりあえずは、本人がのびのびと成長していってくれたら、それでいいわ。」
「ああ、そうだな。」
会話がひと段落したところで再びベットに戻った。そして———
レ、レ、レオナルド・ダ・ビンチ!?なぜ僕の前世の名前を知っているんだ?聞き間違いか?いや、そもそもなぜ同じ世界に生まれたと思っていたんだ?もしかしたら、違う世界に放り込まれていたのかも知れない。だとすると僕の前世を知っていてもおかしくはない。けれど、それならそれをなぜ直接言ってこないんだ?気づいていないとでも思っているんだろうか?そもそも隠す必要性が感じられないのだが。あーもうどう言うことだ!?
その日、悶々とした夜を過ごすことになる主人公であった。
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