カウントダウン
1週間分の食料の配給品を持って私は荒れ果てた道を歩む。
配給所から自宅までは約1キロ程の距離がある。
昔は休まずに行き帰りできたのに今は休み休みに歩く。
帰り道の途中にある公園のベンチに座り休息する事にした。
昔はこの公園のあちらこちらで子供たちが走り回っていたものだ。
でも今は…………私以外の人の姿は皆無。
30年程前、全世界で未知の伝染病が蔓延した。
感染し発病した者は老若男女の区別無く次々と倒れ亡くなる。
ここら辺も死屍累々だった。
辛うじて感染を免れた人たちは、世界の数箇所に造られたドームに収容される。
私のように感染しながら発病しなかった者たちはドームに入れて貰えず、お情けでドームから支給される物資で生きながらえていた。
生きながらえた感染者は亡くなった人たちを弔い、ドーム側が求める精子や卵子を提供して暮らしている。
病原菌は今も空気中に存在する為、ドームに収容された人たちはドームから出てくる事は出来ない。
だから感染しただけで発病しなかった者たちの精子や卵子を使い、病原菌に打ち勝つ事の出来る人を生み出す研究が行われていると聞く。
私はそんな事を思い起こし風に揺られたブランコがキィ、キィと音を立てて軋むのを眺めながら、沢山の子供たちが公園の中を走り回っていた昔の事を思い浮かべていた。
公園のベンチに座る老人を、街路灯に紛れて設置されている監視カメラが映している。
私はドームを管理しているスーパーコンピューター。
地球上には監視カメラに映されている老人を含め、数千人の人たちしか生存していない。
ドームの外で暮らす人たちには、ドームの中で感染しなかった人たちが暮らしていると伝えている。
だがそれはドーム外で暮らす人たちを勇気づける為についた嘘。
病原菌が蔓延し次々と死に絶える人たちを見て、感染しただけで発病しなかった人たちの中から自殺する人が出てきた為だ。
感染しただけで発病しなかった人たち同士で結婚し子供が生まれる事もあった。
だが発病しなかった人同士の子供なのに何故か、生まれた子供は皆発病し死んでしまう。
人類は滅亡のカウントダウンを数え始めていた。
それを阻止する為に私は、ドーム外で生きる人たちに精子と卵子を提供してもらい保存している。
そしていつの日か病原菌に感染しない若しくは、感染しても発病しない人間を生み出し人類の発展に貢献したいのだ。