生まれる絶望、増える被害
「大丈夫ですか!」
「え、ええ。なんとか。助けていただきありがとうございます。」
先ほどまであの太った男に襲われていた男に話しかける。
近くで見たから気づいたのだが、どうやら結構若く青年といっても良いほどだ。
なぜこんな若いのにこの森に?まあ、それはいいとして、、、
「貴方、先ほど太った男がライツさんを殺したって言いましたよね?詳しく話を聞いても?」
「ああ、それは、、、」
それから青年は話始めた。これまで起きたことを。
青年は病気の母と弟の三人家族で暮らしていたらしい。
数日前のこと、この青年の弟が母の病気を治すんだ!といって家を出て行ったきり行方不明になったと言う。
旅人から弟のような見た目をしていた子供がこの森に入っていくのを見たと聞いたこと、そして母の病気を治す薬草がこの森にあることを知っていた青年は弟を探しにこの森を入ったと言う。
しかし、当然青年なんかがここらの魔物に勝てるわけがなく、死を覚悟した時、師匠が現れたと言うのだ。
「師匠、、、流石師匠だ、、」カイトさんは感動して泣いている。
「で、そのあとはどうなった!なぜ師匠は死んだ⁉︎」
その後、お礼をいって去ろうとしたのだが、1人では危険だと言われて師匠と共にいたのだと言う。
しばらくして、師匠と青年は奴を見つけた、いや、見つけてしまった。
そいつは弟をいたぶりながら殺していたと言う。
「そこで、、俺は、奴を殺そうと何も考えずに飛び出してしまった。そのせいで、、、」
飛び出した青年に気づいた人間モドキが青年を殺そうとし、それを師匠が庇って怪我をした状態から戦闘になったらしい。その後しばらくは師匠が優勢だったようだが魔物のスタンピートに意識がそれ、そこを突かれて殺されたらしい。だが人間モドキも相当力を使ったらしく目撃者である青年を殺してから逃げようとしていたところに俺たちが来て奴を殺した、と言うことらしい。
青年は泣きそうになりながらも僕たちに土下座してくる。
「すいません、僕が、バカなことをしなければ!、、、」
カイトさんは怒りながらも、
「もう、過ぎたことだ。今更謝られても変わんねーよ。だが、、その罪を償いたいなら。師匠の死体を火葬するのを手伝ってくれ。」
まだ街などで死んだならまだしもここは魔の森、邪悪な魔力に満ちている。このまま師匠の死体を放置すれば、師匠はグールやゾンビなどになって人々に襲いかかるだろう。それだけは、絶対にダメだ。
「、、はい。わかりました、、、確かライツさんはあそこらへんで、、、アレ、なんですか?」
そう青年が言った場所を見ると、おそらく師匠の死体と思われる死体とその近くで蠢く、真っ黒になった人のような者がいた。
まさか⁉︎急いで後ろを振り向く、そこには先ほど焼死体となったはずの太った男の姿がなかった。
カイトさんが叫ぶ。
「くっそガァ!いくら力を使ったからといって人間モドキがあんな弱いわけないじゃねーか!なんで俺は気づかなかったんだ!くっそ急いで逃げ」バシュン
「カイトさーーーーん!!!」
黒く蠢く謎の人の形をした何かが、触手のようなモノを伸ばして、カイトさんを捕まえて引きずっていく。
「くっ、お前だけは絶対に生きろォォォォォ」
そして、目の前でカイトさんは黒に飲まれて行った。
そして黒い奴はどんどん大きくなっていく。
「くっ、逃げてくださいそこの人!」
「でも、でも、カイトさんが!」
「でもじゃない!そのカイトさんの最後の頼みが貴方が生きることなんでしょう!ここは僕が出来るだけ時間を稼ぎます。早く逃げてください!あとは、、、頼みましたよ。」
僕は気付けば走り出していた。それが恐怖からなのか、自分の意思によるモノなのかよくわからなかった。僕は兵なのに、こんな青年を身代わりにするのか、涙で前が見えない、急いで腕で拭う。
早くみんなにこのことを伝えなくては。この森に迷い込んだ他の団員のためにも、さっきの青年のためにも。
奴を倒さなければ、あの忌々しい黒き怪物を!
しばらくして、傷だらけの兵によりスタンピートが魔の森に現れた人間モドキのせいだと伝わり、急ぎ討伐軍が結成される。
しかし、その討伐軍では奴を倒すことが出来ず、この国は滅ぶことなるし、黒き怪物に復讐を誓った若き兵が後の戦争にて大活躍し、英雄となるがそれはまた別の話である。