スタンピートと復讐と
〜魔の森対策本部 周辺〜
「師匠大丈夫かなぁ」
若い兵は心配そうに師匠が入って行った森の方を見ている。
「心配すんなって!俺らの師匠だぞ。人間モドキなんかに負けるわけないだろ!」
「カイトさん!でも、、、」
今声をかけてきたのはカイトさん。ここに勤めて三年は経つベテランだ。
「、、、そうだなぁ、少し、昔話をしよう。」
「なんですか急に?」
「まあ、大人しく聞けって。ある所に兵の中ではそこそこ強い兵がいた。彼は英雄とまではいかなくとも、将来有望な兵であった。彼は前線に行き、魔族共を殺したいと志願したが、それは却下されてしまった。まあ、いくら強かろうと経験を積んでないから当然だよな。怒った兵は兵長の言葉を無視して、前線に赴き、そして魔族共に返り討ちにあった。」
「バカですね〜その兵。」「黙って聞いてろ。」「あ、はい。」
「その兵は怪我の治療のために後方送りとなり、ここ魔の森対策本部に来たんだ。そこの隊長はもちろん師匠だったんだが、その兵は年寄りの言う事を何故聞かなければいけない!と怒って師匠に決闘も申し込み、見事にボロ負け。以後、師匠の弟子となり鍛えてもらったってわけだ。」
「まあ、説明下手ですが要するにその兵がカイトさんと。」「そうそう、っておい」
「っち、まあいい、そんな将来有望な兵である俺に勝った師匠はお前に心配されるほど弱くねえって事だよ。わかったか?」
「まあ分かりましたが、、一ついいですか?」
「おう、なんだ?」
「将来有望な兵に(自称)ってつけましょうよw」
「テッメェ、バカにしてんのかぁ!」
しばらく僕はカイトさんに説教されるのであった。
そんなことをしている時も、時間は過ぎていく、何時間経っただろうか。まだ、師匠は帰ってきていない。
「流石に師匠遅くないですか?」「でも、戦ってる最中だったら俺たち足手纏いになるだろうし、、、」
他の弟子たちも焦り始めたようだ。それぞれが自分の意見を言い始める。
そんな時だった。ズドン、ズドン、何か重いものが倒れたような音が聞こえた気がする。
他の人も聞いていたらしい、なんだなんだと騒ぎ始める。
音は次第に大きくなっていき、バキバキバキ ズガァァァンン、そしてこっちに近づいてくる。
「え、なんかこっちにきてない?ねえ、来てるよねこれ!」
カイトさんが慌て始める。
「な、これは、、間違いねえ、『スタンピート』ダァァァァ!全員各自バラけて横に全力で走れ!巻き込まれるぞォォォォォ!!!」
な、スタンピート⁉︎どうすればいいかわからない僕はカイトさんの後についていく。
「な、お前ばらけろって言ったのになんでついてくるんだ!」
「すいません、どうすればいいかわかんなくてェェェ!」
「チクショウがァァァ!死んだらお前のせいだからなァァァ!」
魔の森を破壊しながら移動してきた魔物たちは大部分がそのまま進んでいく。だが、森を抜けたところで止まる魔物たちも多くいた。
なんとか魔物から逃げ切った僕たちは、周囲の状況を把握しようと、高台を登った。
そこから見えたのは、、、燃え盛り、ガラクタと化した本部と、魔物に襲われている他の団員。
同じ弟子として助けに行こうとした時。
襟首を後ろから掴まれて、止められた。
「何するんですか!みんなが!カイトさん離して下さい!」
「諦めろ、俺らののレベルじゃあの魔物たちは倒せない。それに俺が最初にバラけろって言ったのも囮を増やして自分の生存率を上げるためだったしな。」
「な、わかっていてそんなことを⁉︎」
「こうでもしないと俺たちは生きられねえんだよ。ちなみにあのまま固まっていたらみんな仲良くお陀仏だぞ。」
「くっそぉ、、、くそぉ、なんで、なんでこんなことに、、、」
「信じたくないが、師匠は、、、死んだんだろう。」
泣きじゃくる僕に、カイトさんはトドメを刺すかのように、考えないようにしていたことを言う。
「そんな、まだわか「わかるよ、いくら師匠でもスタンピートを1人で止めるなんて出来ない。さらに人間モドキまで一緒となると、、、っく、」
カイトさんは顔を歪める。よく見ると、目が少し濡れている。ああ、そうか、最近入った僕より、三年も一緒にいた、カイトさんの方が悲しいに決まってる。僕たちは、2人で師匠と仲間を失った悲しみに暮れたのだった。
そんな時、「助けて下さいぃぃい!誰か!ライツさんを殺した盗賊に襲われていますぅぅ!」そんな声が聞こえたのだった。
声のした方向を見ると太った盗賊のような男が別の男に斧を振り下ろそうとしていた!
「させるかァァァァァァ!!!!!」
全力で火魔法を放つ!あいつか!あいつが師匠をォォォォォ!!!
ファイヤーバレットが太った男に直撃し、男を吹き飛ばす!
カイトさんも怒り狂った表情を浮かべ、太った男に接近、斬撃を放った。
太った男が何かを言う。「ギャァァ!何をする!俺じゃないこいつを」
問答無用、死に晒せェェェェェェ!!!カイトさんの剣が奴の心臓を貫き、俺のファイヤーボールが奴を包んだ。
「ギャァァァァァァァ!!!」
太った男は、絶叫しながら、火だるまになって、、、死んだ、か、HPが0になっている。
僕とカイトさんは襲われていた男に詳しい事情を聞きに向かうのだった。