ep98 魔法剣士vs爆破魔術師③(シヒロ視点)
しばらくして......。
カレンさんの身を挺した防衛の甲斐あってか市民の避難が進んでいる模様です。
ぼくたちの周囲にはほとんど人がいません。
「嬢ちゃん!ブースト!キラースの狙いはハッキリとはわからねえが、そろそろ女隊長さんも反撃を始めるころだろうぜ。今はフリーダムの連中も勇者軍の兵士にかかりっきりと思われる。ぼちぼちおれたちはズラかるぞ!」
トレブルさんがそう言った矢先です。
上空からなにやら不穏な空気が漂います。
「そろそろやるか」
キラースがなにかを口にしたかと思うと、また魔物の口が大きくパックリ開きます。
が、どういうわけかなにも起こりません。
つづいてキラースが魔物の背中にすっくと立ち上がって残酷な笑みを浮かべました。
「オイ!勇者の妹さんよ!いつまでそんなこと続けるつもりだぁ!?」
「卑怯者の外道が!(だが実際どうする?市民の完全な避難など現状では無理だ。それをわかっててヤツは私をいたぶって遊んでいる......)」
近くの建物の上からカレンさんがキラースに剣尖を立てるのが見えました。
何度も魔力弾を受け止めているにもかかわらず覇気と力強さと美しさの衰えはまったく見受けられません。
「そんじゃあこっちもとっておきをくれてやるぜ!
特殊技能〔ウィザードリィ・クラスターボム〕」
キラースはスッと両腕を掲げると、バッと膝をついて魔物の背中へ両手を当てがいます。
つぎに彼の両手からブウゥゥゥンと溶岩のような赤黒い魔力が生じて、まるで魔物へ送り込まれるようにドロドロと不吉に流れていきます。
すると、魔物の口内にズズズズズゥッと魔力弾が生成されはじめます。
「なんだ?なにか今までと違う?」
疑問を表出するカレンさん。
ぼくも同様のことを思いました。
色合の違いもありますが、そういう視覚的なこと以上に......キラ-スの悪虐な何かを孕んでいるように感じます。
「オイ!勇者の妹!さっきまでと違うと思ったろ?」
「それがなんだ!?」
「あらかじめ教えといてやる。
〔クラスターボム〕はただの魔力弾と違って、これ一個の魔力弾の中に三百個の魔力の小爆弾を内蔵している。
さらに小爆弾の中には六百個の爆波魔法の破片が詰まっている。
まあ扱うにもなかなか危険なシロモノなんだなぁこれが。
だからこうして魔物を利用しているってわけだが......さて、ここで問題だ」
「!?」
「コイツが爆発するとどうなるか?
無数の爆弾の欠片が辺り一面に飛び散ることになる。
もろに喰らったヤツは当然死ぬだろうが、じゃあ飛び散ったわずかな破片だけを喰らったヤツはどうなるだろうなぁ?」
「......」
「安心しな。殺傷度はそれほど高くねえ。
だがよ?
破片は皮膚から細かく突き刺さって小爆破を起こし神経を破壊する。
服や防具も関係ねえぞ。
なんなら隙間から入り込んだりもする。
しかも破片はよく飛びやがるからすこぶる範囲も広いぜ。
で、どうなるか?
不具の奴が続出すんのさ!
オモシレーだろぉ!?
歩けない奴、手が使えない奴、目が見えない奴、耳が聞こえない奴、半身不随、全身不随...」
「黙れ!!救いようのない外道がぁ!!」
「そんじゃあ今からこれを上からぶっ放すんでヨロシク。まっ、コイツをひとりで受け止めたらさすがの勇者の妹君でよ...どうなるかは保証できねえなぁ~!!」
ブオォォォォォンッ!!とその残虐な爆弾が非道に放たれました。
「オイオイふざけんじゃねえ!あれはおれたちもヤベえぞ!」
「クソッ!もう伏せるしかねえ!嬢ちゃんも伏せろ!」
トレブルさんとキラースさんが叫びます。
ほぼ同時に、カレンさんが爆弾めがけて鳥のようにバッと跳躍します。
「そんなことは絶対にさせない!!(アレを受け止めればさすがの私も無事では済まない......しかし技で弾こうとすれば確実に市民へ大きな被害が出る。それは命にかえてもできない。なぜなら私は、偉大な兄様の......勇者の妹だから!!)」
しかし、勇敢に飛び立つ魔法剣士さまに向かって必死に叫ぶぼくの口から飛び出した言葉は、カレンさんの名前ではありませんでした。
「クローさぁぁぁぁん!!!」
まさにその瞬間でした。
残虐な魔力弾とそれに立ち向かうカレンさんの間に、突然パッと何者かが出現したのです。
「特殊技能〔ニュンパギャッシュ〕」
転瞬、その者は何かの技を発動させました。
それは天に煌めく弓張月の如き一閃。
「なに!?」
「なんだ!?」
キラースのみならずカレンさんも非常な喫驚を隠せません。
それもそのはずです。
突如目の前に現れたその者の鮮やかな剣閃は、悪逆非道な魔力弾を見事にズバァァァッ!と斬り消してしまったからです。
「く...クローさぁぁぁん!!」
ぼくはもういちど大きく叫びました。
叫びながらも、不思議とこうなるだろうと心のどこかでは信じていたような気がします。
だって、ぼくにとってクローさんは......一番の英雄だから!
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