ep85 国際平和維持軍
「どうすんだ?」
トレブルが判断を求めてくる。
俺は一瞬考えたが、
「いや、普通にしよう。ここで変に避けていくのも不自然で怪しくなる」
すぐに方針を下した。
「今なら人混みに混じって逃げていく分には問題ないんじゃねえのか?」とトレブル。
「いや、別の場所から観察している人間がいないとも限らない。今はいつも通りに振る舞うのがベストだ」
「なるほど。了解だぜダンナ」
トレブルとブーストは合意した。
その中で、シヒロは緊張感をむき出しにしてあからさまに固くなっていた。
「シヒロ」
俺はそんな彼女へ身を寄せて、安心させるように肩へポンと手を置く。
「く、クローさん?」
「大丈夫だ。奴らも俺の顔までは知らないはずだ」
「は、はい」
「シヒロ。俺が祭りを好きかどうかさっき聞いてきたよな?」
「え?あ、はい」
「正直、自分でもよくわからないんだ。俺はあまりそういうものに縁がなかったから。ただ、今日はお前と一緒に回るつもりだ」
と俺が言った途端、シヒロの目がぱぁっと輝いた。
「ダンナ。来たみたいだぜ」
トレブルの言葉と同時に、三人組の軽装備の兵士風の男が俺たちの所へ向かって歩いて来るのが視界に入る。
戦後の平和祭の市中で、さすがに甲冑などは着けていない。
だが、周りの視線や彼らの佇まいから、彼らが街の警察ではなく軍の者だというのがすぐにわかった。
「シヒロ、トレブル、ブースト。小腹が空かないか?なんか食うか」
俺はいたって普通に口をひらいた。
「そ、そうですね!」
「ああ」
「ついでに酒も飲もうぜ」
阿吽の呼吸で応えた三人は、おもむろに手近な屋台で飲食の物色をはじめる。
「おい、そこの銀髪の者。お前だ」
三人組の一人が俺を見るなり遠めから声をかけてきた。
「......」
とりあえず俺は聞こえないフリをする。
「そこのお前だよ。銀髪の」
「ん?俺、ですか?」
ここではじめて俺は反応する。
「私達三人は国際平和維持軍の者だ。お前はこの町の者ではないな?」
「ええ。旅人です」
「連れもいるよな?」
「はい。そこの屋台にいる三人です」
「ガラの悪そうな男二人と...少年か?随分と妙な組み合わせだな」
「武器の所持は?例えば剣とか」
「この通りありませんよ。俺は戦えませんので。なのでそこのガラの悪そうな二人の友人に護衛を頼んで旅をしているんです。少年は俺の従兄弟です」
「なるほど......そうか。では祭りを楽しんでくれ」
国際平和維持軍の三人組は必要な確認を終えると、特にそれ以上なにかを疑う様子はなく去っていった。
「......」
うまく誤魔化せたのだろうか?
とりあえずは事無きを得たようだ。
同時に、俺の頭にはある疑問が浮かんでくる。
(この状況で〔フリーダム〕の来襲はあるのか?)
もしそうなれば、フリーダムと国際平和維持軍がぶつかり合う可能性が出てくる。
それはおそらくフリーダムも望んではいないはずだが。
とはいえ、軍がいることを知らずにヤツらが来てしまうことはあり得る。
(いや、そもそも国際平和維持軍は今どの程度の規模の部隊がサンダースに入ってきているんだ?)
今の今まで俺が知らなかったということは、大きい部隊は来ていないと考えるのが妥当だ。
とすると、余計に判断に迷うな。
大部隊が入ってきているのなら、フリーダムの事は彼らに任せてしまうのがいい。
だが、少数部隊しかいないのなら、万が一フリーダムの襲撃が起こると街も人も被害が大変なことになる。
いや、勇者...はなくとも、それに続く実力者がいる少数精鋭の部隊ならばあるいは......。
「あ、あの、クローさん?」
考えこむ俺の顔をシヒロの小さい顔が覗き込んできた。
「ダンナ。どうしたんだ?」
「もうヤツらは行っちまったぜ?」
トレブルとブーストも酒瓶を片手に訊いてくる。
「いや、何でもない。とりあえず問題はなさそうだ。せっかくだ。祭りを楽しむか」
俺がそう言うと、シヒロは嬉しそうに微笑み、トレブルとブーストはニヤリと笑った。
俺もかすかに微笑んでかえし、歩き出そうとした時。
「ねえねえ、おにーさん」
背後からこっそり近づいて来たであろう一人の女がいきなり俺の腕に巻きついてきた。
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