ep84 シヒロは祭りを楽しみたい
*
宿屋に戻ると、一階の食堂でトレブルとブーストはすっかり出来上がっていた。
「ダンナも飲もうぜぇ」
「そうだぜダンナぁ」
二人は陽気にグラスを口に運ぶ。
「クローさんは、どうでしたか?」
隣でシヒロは水のコップに口をつけながら言った。
「シヒロ。お前は何か妙な気配は感じなかったか?」
「えっ?あっ!それが、ハッキリとはわからなかったんですが、何者かの気配というか…感じました。でも夕方にはもうどこかへいなくなったのか、何も感じられませんでしたが......クローさんもなんですか?」
「なるほど。シヒロのそれと完全に一致するな。俺はさっきそいつと会って話した」
「えっ?」
「オイ酔っ払い二人」
俺は向かいのトレブルとブーストに呼びかけた。
「ダンナ?」
「なんだぁ?」
「背の低い女の魔術師...いや、背の低い魔族の女魔術師といって、なにか思い浮かぶヤツはいるか?」
「藪から棒になんだぁ?背の低い、魔族の女魔術師っつったか?ダンナ」
トレブルが聞き返してきた。
「そうだ。〔フリーダム〕に限らず、お前らのようなゴロツキの間で知られてるヤツでも何でも構わない」
「はあ。んなこと言われても、たったそれだけの情報じゃなぁ。他に特徴はわからねえのか?顔とか武器とか」
「わからない」
「それじゃあどうしようもねえなぁ」
当然の回答だ。
情報があまりに薄すぎる。
俺は腕を組んでもう一度、公園でのヤツとの邂逅を思い浮かべる。
しかし、それ以上はなにも出てこない。
「あ、あの、クローさん」
シヒロがもじもじしながら何か言いたそうな視線を向けてきた。
「なんだ?」
「明日、なんですけど...」
「うん?」
「クローさんと一緒に、祭りをまわりたいなぁ〜なんて...」
「トレブルとブーストじゃ物足りなかったのか?」
「あっ、いや、そ、そういうわけじゃないんですけど...」
「?」
俺はシヒロを見ながらキョトンとする。
そんな俺を見て、なぜかトレブルとブーストが解せないといった表情を浮かべる。
「ダンナ」
「マジでわからねえの?」
コイツらは何のことを言っているんだ?
俺にはさっぱりわからない。
「は?」
「ダンナ。マジか...」
「嬢ちゃん、頑張れよ。おれたちは嬢ちゃんを応援してるぜ」
またしても二人は意味のわからないことを口走った。
「ぼ、ぼく、ちょっと水のおかわりを取ってきます!」
どういうわけか急にシヒロは逃げるように席を外した。
「なんなんだ?みんなどうした?」
俺は再びキョトンとする。
「ダンナ......」
「嬢ちゃんの道のりは険しいぜこりゃあ......」
二人はグラスを置いてハァーッとため息をついた。
*
翌日。
「クローさん!今日は一緒に祭りをまわりましょう!」
朝、顔を合わすなりシヒロが勢いよく言ってきた。
「あ、ああ。そうするか」
俺はやや気圧されるように承諾した。
シヒロはそんなに祭りが好きなのだろうか。
とにかく、今日は俺も祭りを楽しむことにした。
「あ、あの、クローさん......」
引きつづき祭りでにぎわう朝の街路を四人で進みながら、シヒロが不安そうな顔を俺に向けてきた。
「なんだ?」
「本当は、こういう祭りとかって、好きじゃなかったりします......?」
「いや、どうだろうな......」
正直、転生前の陰キャの俺からすると、好き嫌い以前にあまり縁のないものだった。
転生してから遊びまくりの日々と闘いの日々を経た今、なにか変わったのだろうか。
「やっぱり、好きではないんですね。なんか、すいません。ハハハ......」
シヒロが哀しそうに笑った。
その瞬間、ブーストが割って入ってきて、
「ダンナ!酒飲もうぜ!酒!」
俺にぐいぐいとアルコールをすすめてきた。
続いてトレブルが、
「嬢ちゃん!ダンナはまだ午前中でテンション低いんだ!酒飲めばアガるはずだぜ!」
シヒロへよくわからない発破をかける。
「......お前らなんなんだ?」
俺がつぶやいた時。
「オイあれ。国際平和維持軍の連中だってよ?」
人混みから聞き捨てならないワードが耳に飛び込んできた。
思わず俺はシヒロと顔を見合わせる。
「ダンナ。今たしかに......」
ブーストが途端に真顔になった。
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