ep64 休憩
*
あれから俺たちは、街の警察が駆けつける前に屋敷を後にし、宿屋へ直帰して寝室で休んでいた。
「シヒロ、大丈夫か?」
「だ、大丈夫です。でもすいません。久しぶりにいっぱい魔力を使ったから」
「気にするな。お前のおかげで余計な被害を未然に防ぐことになっただろう」
「は、はい」
まだ日中だったが、シヒロの身体を慮ってすぐに宿屋へ戻ってきたのだった。
俺はベッドに腰掛けるシヒロに向かい、それとなく尋ねてみる。
「シヒロは確か......アラニスとかいう村から来たって言ってたよな?」
「はい?そうですが?」
「親御さんは心配していないのか?」
「お母さんが心配しています。貴女のやりたいことをやれって応援もしてくれていますが」
「行商人の親父さんは?」
「お父さんは二年前に亡くなりました」
「そうだったのか。スマン。余計なこと聞いちゃったな」
「い、いえ!二年も前ですから!」
「シヒロ」
「クローさん?」
「答えたくなかったら答えなくていい。シヒロには魔族の血が混じっていたりするか?具体的には両親のどちらかが魔族か、あるいはじいちゃんやばあちゃんに魔族がいるとか」
「え?ぼ、ぼくは純血の人間ですけど......なななんで?」
「そうか?いや、そうか、そうだよな。スマン、また変なことを聞いてしまって」
「クローさん?いったいどうして?」
「勘違いしないでくれ。仮にお前が魔族だったとしても俺はお前に対して何も変わらない。ただ、シヒロが秘める魔力に不思議なものを感じて聞いてみただけなんだ。気を悪くしたなら謝る」
「はあ」
「シヒロ。お前には非凡な魔法の才がある」
少しズルいが、俺は話題をズラすように、誤魔化すようにそう言った。
「ぼ、ぼくに?」
「ああ。それは間違いない。それはシヒロの想像...いや、創造にも寄与するんじゃないかな」
「えっ、そ、そうですかね?」
「ああ」
「あ、ありがとうございます」
シヒロは目を逸らしてはにかんだ。
俺から妙な質問をされ、彼女が腹の内でどう思っているのかはわからなかったが、問題はなさそうだ。
仮に問題があったとしても、残り少ない俺の人生の、短い旅の中の一時に過ぎないし......。
「あ、あの、クローさん」
「なんだ?」
「クローさんは、純血の人間なんですか?」
「人間だよ。お前の方こそ魔族かって?そうだよな。魔剣使いなんて言われているぐらいだからな」
「い、いえ!訊かれたついでにぼくも訊いてみただけです。えへへ」
俺はシヒロを見やりながらアイツに呼びかける。
『おい。お前の言ってることと違うぞ?』
『違うとは?』
『いやだからシヒロは純血の人間だってよ?』
『だから何なのですか?』
『おいおい。お前のキャラ的にそういう間違いは良くないんじゃないか?』
『ワタクシはその娘が魔族だと断定した覚えはごさいませんが?』
『そりゃまあそうだが』
『それを貴方が早合点しただけでしょう?』
『ああもういいよ!俺が間違ってたよ!』
『いえいえ、事物を理解するのにまず仮説を立てて臨むのは文明人として間違いではありませんよ?』
『いやもういいから!』
実は、俺が早合点したのには理由があった。
それは、単純に魔族というものにワクワクしたからだ。
先の大戦が終わって以来、世界平和の名の下に国境が撤廃され、従来の国家という概念は事実上消滅。
それからというもの人間以外の種族が人間の生息地域に暮らすことも珍しくなくなってきているという。
とはいえ、まだまだ世界にあまねく行き渡っているわけではなく、今のところ俺は人間以外の種族に出会ったことがなかった。
いや、待てよ......?
俺が戦った〔フリーダム〕の中に人間以外の種族もいたのか?
最初に出会ったドレッド頭のヤツなんか、今思えば異様な雰囲気だったよな......。
それはともかく、俺は人間以外の種族に会ってみたかったんだ。
だから、もしシヒロが魔族だったらと思うとワクワクせずにはいられなかったというわけだ。
『ところで、クロー様』
『なんだ?』
『この後はどうするつもりで?』
『それは〔フリーダム〕次第だが......』
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