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竹内のムフフなほわほわタイム。

東京から車に乗って、わざわざ西伊豆・土肥101のプールに行く。

都内のプールで行う選択もあったけど、自分から『土肥101』を希望した。


今日は俺、竹内純平のダイブマスタースキル評価日だ!


なぁに! 交通費の料金は自腹なんだから遠慮するものか。


だってダイブマスターを合格したら、もうこんな機会はないんだから。

柿沢さんと一緒に伊豆にでかけるなんて、もう無いかもしれないんだから。


「でも、何かわかるよ。竹内君が土肥101を選んだ理由。私もそうだったもん」

「そうなんですか? 」


「うん。私はVisitでダイマス受けたんだけど、その時、『時間を気にしないでじっくりと練習したい』ってね。 ん? どうしたの? ぼーっとして。眠くなっちゃった? いいよ、眠っても」

「いいえ、そんなことないです」


まずい、まずい! つい言葉が止まっちゃった。

柿沢さんの『~もん』とか可愛いんだよなぁ。


「ほら、ひまわりがいっぱい。ここら辺ってお花いっぱい植えてくれていいよね」


おっ、花か!


「はい。ひまわりって、なんか元気になりますよね。なんか見ているとこっちの心に伝わってくるんですよね。『生きる力』っていうか。人の中にもそういう人っていますよね、なんか—」

『はい、着いたよー。お疲れ』


「あ、はい。お疲れ様っす.. ありがとうございました」


「じゃ、荷物降ろしましょ」

「任せてください! 俺が降ろしますよ」


「いいよ。自分の荷物だけだもん。それより駐車してくるからその間にテーブルとイスを置いてくれると助かる」


せめて重いウエイトは降ろさないと.. 「よいしょ」


「あ、ウエイトは降ろさなくていいからね。カバー付きウエイトをここでレンタルするから」


「 ..はい 」


「車置いてきまーす。じゃ、あとよろしくね」


柿沢さんは、いつものサックリした感じで行ってしまった。

何か置いてきぼりにされた子供のような気持ちだ。


・・・・・・

・・


さっそく着替えて今日の段取りを聞く。

まぁ、段取りといっても俺がスキルを評価されるだけなんだけどさ。


ただ柿沢さんのアドバイスは真剣に聞いて修正すべき所は、しっかり修正するつもりだ。

だってそのために時間をいただいているんだから。


しっかりやらないと失礼だ!


それにしても、やっぱり夏って最高だよね!

まぁ、このラッシュガードっていうのがちょっと邪魔なんだけど。


それでもね♪ムフフのフ。


「何かわからなかった? なんか変な顔してたみたいだけど? 」

「え? (ヤバい) ..いや、生まれ持っての変な顔ですから。ははは.. それよりホバリングちゃんとできるかな? って」


「なに今さら言ってるの? いつもアシスタントの時、生徒の後ろでプカプカ浮いているくせに~ 変なの」

「まあ、そうですけど、ほらっ! 評価されるとなると緊張しますから」



「じゃ、もうサッサとやっちゃおうか? 」

「ウイっす。お願いします」



・・・・・・

・・



俺はダイブマスタースレートに書かれているスキルをひと通りやってみた。


「すごいね。やっぱり運動神経が良い人って違うんだなぁって思う。凄くキレがあるもん。ホバリングだって全然余裕だもんなぁ。私なんかお尻から落ちたよ」


「そんな、まだまだです」


「でも、もう直すところほとんどないからこれでOKって事でいいんじゃない? 」


まずった。早く終わってしまう..


「あ、あの、せっかくなんでインストラクター的なスキルと比較して修正できるところがあれば教えてもらえないですか? 」


「え~? う~ん。もっとゆっくりと大げさにすることかな? それと例えばバディブリージングの時なんかは呼吸のカウントを指であらわすとか、忘れてほしくないポイントの部分でこめかみを指して『覚えておいて』みたいに、見てすぐわかるような表現を加えたり.. それじゃ、私やってみようか? もしプラスに出来そうならアレンジしてみたらいいよ。」


ああ.. なんかこの緩い感じいい..


「じゃ、柿沢さんの見た後、俺、少し水中で研究してもいいですか? 」

「うん。いいよ」


手本を見た後、俺は少し鏡の前でいろいろとジェスチャーを研究してみた。


本当は今さら手本を見るまでもなかったんだ。

だって俺はいつも柿沢さんを見ていたんだから。



ああ、鏡越しに柿沢さんが手を振ってくれた。ムフフ.. 楽しい♪



俺は研究の成果を評価してもらい、24スキル評価を終了とした。



・・・・・・

・・



「ねぇ、竹内君はインストラクターとか目指しているの? 」

「いいえ。別にそこは目指してないです。大学卒業したら普通に就職を考えてます」


あ、おもしろくなかったかな?


「じゃ、芹沢さんと同じだね」

「芹沢さん? 」


「芹沢さんは自分の好きな趣味だから一応上の方まで極めてみたい。って言ってたの」

「う~ん。それも微妙に違いますね。俺の場合は単純に面白そうだったから。このコースを受けること自体が面白いかなって思いました」


「へ~。やっぱり理由はひとそれぞれなんだね。それで竹内君は満足いくおもしろさを見つけてくれた? 」

「はい。今、最高に楽しいです! 」


「よかった♪ そう言われるとうれしいな」


ヨッシャ! ..可愛い~な~その笑顔





『 ——なんつって。ぷぷ。 あっ、あれっ!? そこに居るのは! 桃ちゃ~ん!! 』

「あ!  平子さ~ん!! 」


「なになに! インストラクターになったって聞いたべさ! 」

「そうなんです。新米なのでいろいろ教えてくださいね、先輩! 」


誰だろう。この人.. せっかくの『ほわほわタイム』なのに..


「私、今日は体験なんだ。そっちは? 」

「私はダイブマスターコースのプールですよ」


「へ~。そうなんだ」

「あ、紹介遅れてすいません。こちらがダイブマスター候補生の竹内さん」


柿沢さんは俺を丁寧に紹介してくれた。


「竹内純平です。よろしくお願いします」


「私は西伊豆お助けインストラクターの平子ちゃんです。よろしくね」


なるほどちょっと変わった人だな。

でも柿沢さんと凄く親しい仲みたいだ。

失礼のない様にしないと。


「じゃ、私は体験のお客さんに連絡するから。じゃぁね! 」


そういうと平子さんは大きな体を小走りで出ていった。


「パワフル系ですね」

「ははは。すごくパワフルだね♪ 親切にいろいろ助けてくれるんだ」


『パワー! 』


「な、なに!? ..急に!!? 」


あ~、はずした..『きんに君』知らないのかぁ..



・・・・・・

・・


そして、いよいよダイブマスタースキル『器材交換』の評価タイムだ。


ひとつのレギュレターを交互に吸いながら、器材交換をするのだ。


ひとつのレギュレターを交互に.. 交互に.. ムフフ♡なのだ。


手順は2呼吸で1動作。

ただ問題は柿沢さんの器材が小さいから交換した時に壊さないか心配だ。

フィンとか足に入るかな..



「じゃ、もう少し休憩したら、そういう手順で行おうね」

「ウィっす。よろしくお願いします」



『まいった! まいった! 』



「あ、平子さん。どうしたんですか? 」


戻って来たぞ、平子ちゃん ..俺の『ほわほわタイム』を邪魔しないでください..


「いやね、ドタキャンよ。まいっちゃうよね。まぁ料金は全額キャンセル料だからいいんだけどさ。暇になっちゃったよ.. そうだ、何か手伝おうか? 」


「う~ん。私たちあとは器材交換だけだし」


「器材交換か。バディブリ2呼吸で1動作でしょ? 私がやろうか? 桃ちゃんは客観的に評価することできるし」


え、ええ~!!!!!!


ちょっと待って.. 暇つぶしに今日のスペシャルを邪魔しないでください....


「え? でも、悪いですよ」

「大丈夫。手伝うよ。それに器材のサイズも彼のと桃ちゃんのとでは違いすぎるでしょ。私ならこの体格だからね」


「う~ん。竹内君はそれで大丈夫? 」

「え? まぁ、大丈夫ですけど.. (だいじょばないです)」


場の空気から嫌とは言えないこの状況。

ああ.. もうダメだ、これは決定事項だ。


[ ~♪~♪~ ]


『もしもし、はい。平子です。え? やっぱり今から来ます? はい。大丈夫ですよ。はい。じゃ、施設で待ってますので』




「ごめん、桃ちゃん。やっぱり体験ダイビングやるってさ。というわけで頑張っておくれよ」


平子さんはまたしても小走りで出て行った。


おおおおー!! ありがとう! どこかの誰かさん!!



・・・・・・

・・



「じゃ、準備はいいですか? 潜降します」



♡♥♡♥♡♥



・・・・・・

・・


スキル評価は全て終わり、俺はダイブマスターとなった。

帰りの車の中で柿沢さんからひとつ提案があった。


「ねぇ、竹内君、もし竹内君が嫌じゃなかったらダイビングチームに入る気ないかな? 『アクチーニャ』っていうの。そこの代表は『清水萌恵』という女の子なんだ。本当は私が手伝ってあげたいんだけど、今は知っての通りお店の無給奉仕中でしょ。だから私の代わりに竹内君に支えてもらえたらいいなって。ダメなら別にいいんだけど、竹内君なら信頼できるから頼んでみた」


「やります! 入ります! すぐ行きます! 任せてくださいっ!! 」


「うふっ、よかった! 頼りにしてるよ」


「うっす!! 」


というわけで俺はチーム『アクチーニャ』に入ることになりました!




柿沢さんには『心に想う人』がいるのは何となくわかっていた。

俺のことなんて目に入っていないことも。


時々、すごく寂しそうな顔をするんだ。


もし柿沢さんの笑顔が少しでも増えてくれたら俺、今はそれでいいよ。

でもいつか俺のことを見てもらえたらなって思ってる。


『アクチーニャ』いいじゃねーか。


これで俺にもまたチャンスができたんだから!

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