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別れと願い

11月中旬。

哲夫さんの名古屋へ旅発つ日が来た。


私はいつものように柿沢自動車整備工場で保険の仕事をしている。

この時季は季節柄、火災保険の更新や申し込みが増える。

更新において保険の見直しなども行うため、割合忙しい日々となるのだ。


お父さんは『半日休みにして見送りにいけばいい』と言うが、私は『行かなくてもいい』と返事した。

『意地っ張りめ』と小声でいっていたけど、私は聞こえないふりをして仕事をしていた。


哲夫さんは2日前、すでに柿沢自動車に挨拶に来ている。

部屋を格安で貸してもらったことやみんなの気遣いに感謝の言葉を残していった。


哲夫さんのカバンには『さくらんぼのキーホルダー』と『手作りの青いお守り』がぶら下がっていた。


私は哲夫さんが出ていくときにひと言だけ言葉をかけた。


「体に気を付けて元気に過ごしてください」


哲夫さんは『はい。桃さんもお元気で』と応えると事務所をでていった。



私はポケットに忍ばせていた哲夫さんの青いお守りと対になる赤いお守りを握りしめた。

あの時、お守りの中の想い紙にはこう記していた。



【そして私はあなたを待っています】と。

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