両手の中に
イルカとのランデブー♪
こんな素敵な体験のあとに暗い顔のわけがない。
「おはようございます♪」
「おお、今日は元気だね。よかった、よかった」
「腹の調子が良くなったんじゃねーの」
いつもの調子の太刀さんと相良さん。
そんな様子を見てお父さんが目を細めているのを見ると照れくさい。
(ごめんね。心配かけて。)
私は事務仕事をしながら裏の階段の音に耳を澄ました。
時々、工場の音やコンプレッサーの音でかき消されるけど。
かすかに [ カンカン ] という鉄の階段を登る音が聞こえてくる。
私はすかさず裏の階段へ小さく走っていく。
哲夫さんが部屋のドアノブに手をかけていた。
「哲夫さん」
「やぁ、桃さん、おはようございます」
哲夫さんが笑顔で挨拶を返してくれる。
「哲夫さん、ごめんなさい。心配してくれているのに、あんな事言って」
「はは。そんなの当たり前ですよ。僕たちは毎日のように顔合わせているんですから。だから色々な顔を見ることが出来る。僕は気にしていないです。それよりも、ちょっと待っててください」
哲夫さんは部屋に入ると両手で大切そうに何かを持ってきた。
「お誕生日、おめでとう、桃さん。この前僕は渡せなかったから」
「あ、ありがとう! 哲夫さん、とっても、とってもうれしいです」
「あの、差し出がましいんですが.. まだ夏の間に、また太郎丸の散歩に一緒にいきたいのですがダメでしょうか」
「は、はい。い、いつでもお越しくださいませ(;’∀’)」
また変な言葉づかいになってしまった..
****
「あれ、何それ? 」
太刀さんがすかさず手に持ったプレゼントを発見する。
うっかり手に持って来てしまった。
「おお~、何だ、桃それは? 」
今度はお父さんだ。
「なななな、何でもないよ」
私はすぐに机の中にしまいこんだ。
お父さんが後ろでニヤニヤしているのがわかった。
仕事が終わって部屋で包みを開ける。
落ち着いた深い色の箱
ふたを開けると、[ カチャ ] という音と共にあの曲が優しい音色で流れてきた。
(そう、あの時、この場所でギターを弾きながら歌っていた曲だ※)
蓋の裏には文字が刻まれている。
Dear Momo Happy Birthday 輝きをくれるあなたの幸せを祈って
~~年 8月22日
「ありがとう.. 哲夫さん.. 」
※「ももは今日も潜伏中! ①潜降54m 種と水」




