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きっと頑張るから。

この一週間自分なりにネットで調べてみた。

結果はPTSDというのが一般的な答えのようだ。


ちょっとした怖い体験がトラウマになってしまうらしい。

きっとDIPの事故の現場に居合わせてしまったからだ。


そんな風に自分を分析して解決策を考えても何もすることができない。

歯がゆかった。


七海に聞いてみた。


『怖いと思うなら辞めちゃえばいいんじゃない? 』

そんな風に応える人は多いと思う。


でも私のことを知る七海はそんなことは言わなかった。


「いつものように桃が納得するまでやってみればいいんじゃない? 」


そうだ、それがいつもの私だ。


萌恵ちゃんと明里さんに相談すると、明里さんは『海に行ってみよう』と提案した。


****


今回は『アクチーニャ』としてではなく萌恵ちゃんと明里さんが友達として協力してくれた。


場所は西伊豆、ウミウシの聖地浮島だ。

ここのビーチは遠浅で、白い砂で構成されている為、とても開放感のある素敵なビーチだ。


そして大瀬崎のようにビーチのどこからでもEN/EXが可能だ。


ビーチの右側には頭を出す事ができるハーフトンネルがある。



浮島サンライズダイブセンターに着くとスタッフの『しし丸』が迎えてくれた。

しし丸は茶色毛のハスキー犬だ。

奇遇にもうちの『太郎丸』と名前が似ている


「よしよし、うちにも君に似ている子がいるんだぞ」


「いらっしゃい」


しし丸に話しかけていると中からセンターの堀部さんとマキさんが出迎えてくれた。

人柄のよさが顔に出ている堀部さん。


『いっぱい楽しんでいってくださいね』と送り出してくれた。


私は器材を装着するとまずはダイブセンターにある小さな浅いプールに潜ってみた。


『よしっ、大丈夫! これならいけそうだ』


ビーチを見ながら念入りにブリーフィングを始める。


「桃さん、ここは浅いし、もしも透明度がよければ、あっちのハーフトンネルとかも楽しんでみませんか? 」


「そうだね。おもしろそう」


そんな二人の会話を微笑んで見ている明里さん。


計画は浅いところからエントリーして徐々に水深を下げて行く、もしも不安ならば、浅い所へ戻るという単純なものだ。

決して無理はしない。


しかし、私は大瀬崎での気持ちが一時的な事であってほしいという願いのもと、ここまでやってきたのだ。

できれば、良い結果につなげていきたい。

みんなの気持ちも無駄にしたくなかった。


——水深4m


ダイビング開始だ。


いつもと変わらない感じ。

むしろ透明度も15mくらいあるし日差しもキラキラして気持ちいい。


みんなでOKサインを出し合う。


ダイコンで水深を確認しながら5m、6mと水深を下げていく。


耳抜きとともに少し体の圧迫感を感じ始める。


——水深7m


まだ異常がない。このままなら普通にダイビングできそうだ。

せっかく2人が連れてきてくれたんだ。


もう少しがんばらなくちゃ!



——水深8m


..少し呼吸が苦しくなってきた。

2人に×マークを出すと、浅い方へ後退した。


水深6mくらいに戻るとなぜか呼吸が楽になった。


まずは無理をせず水深6m付近のダイビングをすることにした。


でも、内心私は自分の不甲斐なさに憤りを覚えていた。


エキジットすると私は2人に対して申し訳なくて.. 謝った。


「7mまでは大丈夫だった。でも、8mくらいになったら呼吸が苦しくなったの。ごめんね、ごめんなさい」


「あやまらなくてもいいよ。浅くてもダイビング楽しんだじゃない」


明里さんがやさしく言ってくれた。


「そうですよ。少しずつですよ。それに途中までは平気だったんだから、まだまだ改善できますよ」


萌恵ちゃんは明るく励ましてくれた。


「ありがとう。次は2人の期待に応えれるようにがんばるから! 」



「 ....」


「あと5分休憩したら行こう。次も私が先頭で行くから2人は後ろからついてくる形でいいよね、萌恵ちゃん。 ..萌恵ちゃん? 」


「え? はい? なんです、明里さん? 」


「どうしたの、考え込んで? 次もさっきみたいなダイビングでいい?」


「あ、そうですね。でも、今回も普通に桃さんが楽しめる浅い水深でダイビングしませんか? 」


萌恵ちゃんが私を気遣って提案してくれた。


「ううん。私、深く行けるようにしなきゃダメなの。そうしないと講習も受けることできないから」


****


2本目


何とか9mまで行くことができたが、やっぱり空気が吸いづらくなってしまった。


結局、7m付近でダイビングすることになった..




「なんでなのかわからない.. わからないよ! こんなんじゃ、こんなんじゃもう、みんなと一緒にダイビングできないじゃない!! 」


ついつい悔しさを言葉に出してしまった。


「大丈夫よ、きっと.... 」


明里さんの言葉を最後に私たちはダイビングを切り上げた。



****


「明里さん、桃さん、生ホタテフライがおいしいお店の情報があるんですが、そこへ行きませんか? 私、お腹ペコペコなんです」


明るく振る舞う萌恵ちゃんの気持ちがありがたかった。

お腹が減っているのは事実だったから、萌恵ちゃん情報のもと『磯料理マルト』にて少し遅い昼食をとった。


「あら、本当に凄くおいしいね。このホタテフライ」

「違いますよ。生ホタテフライです。でもフライなのに何で『生』なのか意味がわからないですよね」


その会話を聞いて店員さんが説明してくれた。


『当店のホタテフライは、取れたての生ホタテをフライにしたから生ホタテフライなんですよ』


「なるほどっ!! ところで、明里さん、ホタテ見て思いだしたんですが、『ミロのヴィーナス』ってあるじゃないですか? あれって何でホタテ貝の上に立っているんでしょうね」


「それは『ミロのヴィーナス』じゃないでしょ。『ヴィーナスの誕生』って言う絵画の事ね。あれってね、実は貝っていうのが〇□▽という事らしいよ」


そんな2人の会話に入って行けなくて、私はただ黙って聞いているだけだった。


****


自宅前で2人が乗る車を見送ると、なぜかひとりだけ取り残されたような気持ちになってしまった。

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