井田ブルー
「おい! おい! こんな派手なアロハ着れないよ! 」
沖縄旅行のお土産『かりゆし』を広げ、困り顔になりながらお父さんは言った。
私が「かりゆしだよ! 」と訂正してもアロハシャツと言い張るお父さん。
きっと違いなどわからないのだろう。
実は、それについては私自身わからないのだけど(笑)
でもそんな事を言いながらも
『どうだ? キマッてるだろ!! 』
と知り合いが来る度に「マンタ」と「赤いハイビスカス」が共演するそのド派手な『かりゆし』に袖を通しては、ニカッと笑顔をつくるお父さんを可愛いと感じてしまう。
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あの沖縄旅行から、ひと月が経った。
今は7月、夏真っ盛り!!
私は萌恵ちゃん率いるダイビングチーム「アクチーニャ」のイベントへ積極的に参加した。
8月には峰岸さんがオーストラリア留学へ旅立ってしまう。
私はそんな峰岸さんを送り出す萌恵ちゃんの事がとても心配だったのだ。
「アクチーニャ」のイベントは基本セルフダイビング。
だからお財布にやさしいのが何よりだった。
根府川、富戸、伊豆海洋公園、土肥、井田など潜った。
その中でもお気に入りだったのが井田だった。
井田は外海に面していてエントリーしてからゴロタを降り、そのまま真っすぐ進めば、あっという間に25m以上の水深となってしまうビーチだ。
今回はエントリーしてゴロタを左に水深10mくらいにキープしながら進む。
そしてダイビングエリアのエンド間際で水深を25mくらいまで落とし、コーラルにつく黄色いイバラタツやカエルアンコウなどを見るのを目的とした。
ゴロタを左に進むだけの単純なコース。
でも、私は井田が大好きになってしまった。
それはこの井田ビーチの属性が『群れ』にあったから。
縦横無尽に泳ぐスズメダイの群れ。
そんなスズメダイを眺めていると、突然、黄色いラインのタカベが大群で押し寄せた。
まさに群れに包まれるとはこのことだった。
そして、スズメダイとタカベに興奮している最中、なんと特大サイズのカンパチという魚が25匹、私たちの頭上を旋回し始めた。
それらの特大カンパチは小規模ながらも写真でよく見るトルネードを始めたのだ。
私のような群れ好きにはたまらないポイントだ。
やみつきになりそう....いやもう既に沼にはまってる。
『あのディープな沖から凄い大物も出そうだよね』と器材を洗いながら話していると、井田ダイブサービスの波多野さんが『かつてマンタがでたことがあるよ! 』と日焼けした顔に白い歯を輝かせ話してくれた。
ちなみに器材干しの金属パイプを利用しながら何故か筋トレしている波多野さんを見ながら『あの身体、男を感じるわ』と明里さんがウットリつぶやいていた。
ほ~..明里さんはどちらもOKなんだね。
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そして....
井田ダイビングのイベントが終わると、ついに、峰岸さんがオーストラリアへの旅準備を本格的に始めた。
私は無理に笑顔をつくる萌恵ちゃんにどう接すればいいのか少し戸惑いを感じていた。