すべてを幸福にする力を持つ聖女と言われた妹、妹が幸せでないと力が発揮されないと姉は両親と妹に使用人扱いされ、妹の奴隷にされる毎日だった。そんな姉が王太子の婚約者になったが妹の罠により婚約破棄され…。
「私が幸せでないと、すべてが不幸になるのよ!」
「そうだね、リリー、私たちのかわいい娘」
「そうね、リリー」
私は目の前の妹を見ながら、お茶を入れます。両親はそうだねそうだねと頷き、ほら新しいあなたが食べたいといっていたケーキだよと勧めます。
「ぬるい! このお茶ぬるいですわ。私は不幸ですわ!」
お茶を一口飲み、ぬるい! と私に投げつける妹、とても熱いですが……火傷をしてしましましたが、熱いなどと言おうものならまずいので私はすみませんと頭を下げます。
「おい、入れなおせ!」
「はい……」
私は使用人ではなく、この子の姉です。エリザベスといいます。ベッティお姉さまと妹はいつも慕ってくれました。わがままなところもありましたが、私たちは仲の良い姉妹でした。
しかしそれは7歳で妹のスキルが「人々を幸福にする」というものであるとわかってからは、私は妹の使用人、奴隷となりました。
私のスキルは「水をどこでも作り出せる」という平凡なもので、これが分かったとき、両親は絶望したものです。
両親のスキルはともに、植物などの成長促進、癒し手という優れたものでしたから。
水を作り出せるなんて下位の貴族じゃあるまいしとよく言われました。
でも1歳下の妹のスキルがわかるまでは、まだ幸せではあったのです。
妹のスキルがわかってからは、両親は私を無視して、妹ばかりをかわいがり、妹も増長し、私を使用人として扱いました。
それから6年たちましたが、私は姉でもなく、両親の娘でもなくただの使用人です。
私は割れたカップを片付けながら、すぐ入れなおしますと頭を下げると、私の頭を靴のまま妹はけり上げました。
……妹が幸福でないと、周囲が幸福にならない、だから私をいたぶるのが幸せならそれでいいと両親も思っています。
私はずっとこんな風に過ごすのでしょうか?
しかし……。
「どうしてエリザベスが殿下の婚約者に?」
「リリーでは?」
私が王太子殿下の婚約者になり、やっと解放されると私は希望に満ちました。
スキルではなく、殿下の婚約者は潜在魔法力の高さで選ばれます。年頃の貴族令嬢たちの中で私がいちばん高かったそうです。
私はああやっと幸せになれると思い、王宮に行きました。
悔しがる妹、間違いではと言い続ける両親とやっとさようならができると思いましたが……。
「幸福をもたらす聖女が婚約者となるはずだ。お前が婚約者になったのは間違いだ。婚約を破棄する!」
二か月後に私はこう殿下に宣言されたのです。私は婚約を破棄され、王宮の外に放り出されました。
何が何だかわからず、家に帰ろうとして、家の外で妹と両親にあったのです。
「あら、水を出すしか能がない、能無しですわ、お父様、お母さま」
「そうだな、能無し、どうしてこんなところまできたのだ? お前にふさわしい場所に行け!」
「よく顔を出せたものですわ……」
私は門の外に放り出され、妹が新たな婚約者になった。お前みたいな能無しはいらないなんだ! と両親と妹に冷たく宣言されたのです。
私はここからどうやって町までいったのか思い出せません。
雨が降り出し、私はどうしようかと道端に座り込みました。
「……大丈夫かい? 気を失っていたようだけど」
私は気を失ったようで、目を開けたときには、私と同い年くらいの青年が、大丈夫? と温かいお茶を差し出しながら私に尋ねてくれました。
「……私」
「驚いた、道端にあなたみたいな若いお嬢さんが倒れていて、いやあ、見つけたのが私でよかったです」
青年は見慣れぬ黒髪に黒い目をしていました。旅の魔法使いだと彼はいいます。確かに東方に多いそれは色彩だと思い出しました。
「……ありがとうございます」
彼は私を助け、介抱までしてくれました。そして熱を出した私を看病してくれて、数週間たち、私がなんとか一人で家事をできるほど元気になると、私が高い魔法力を持っているのがわかったので、弟子となってくれないか? と聞いてきたのです。
「弟子? とは」
「そろそろ弟子を持てって協会に言われてて、君さえよければですけど」
どうも年齢は私と同い年くらいに見えますが、私よりはるかに年上のようでした。
私は行くところもないのでぜひと彼にお願いをしたのです。
彼の名前はユラといいました。東方に多い名前だそうです。
私は彼の弟子となり、一緒に旅に出ました。
大魔法使いと彼は言われているようで、世界最強の称号があるとわかったのはこの後のこと。
そして私は妹のスキルの最大の欠点を聞いたのです。
「ああ。幸福ね、あれは確かにすごいですが欠点もあります。寿命を削り、それを幸福として変換するのです。たぶんあなたの妹さん、あと数年生きればいいほうですね。18歳までは生きられた人がいませんので」
さらっとユラがいいながら薬を調合しています。東方の彼の館で私は彼の補助をしながら生活をしていました。
ユラ曰く、幸福さえ巻き散らかさなければ人並みに生きられますけど……と言い淀みます。
「確か、幸福を封印する方法もありますけど」
「いえ、結構ですお師匠様、あの子は短く太く幸せに生きるのが望みでしょうから」
私はにこりと笑い、申し出を断りました。大魔法使いの弟子となり2年、私も水の魔法使いの中では中級の上となり、協会の中でも活動ができるほど成長しました。
きっと妹は短く太く幸福に生きるでしょう。幸福がなくなればその反動で不幸せが起きるそうです。
ああとても楽しみです。きっときっと我が国に訪れる不幸、妹が早く死んでくれたらいいのにと私が笑うと、あなたがされたことを考えたらそれでもあなたは優しいほうですね。とユラが笑いました。
「お師匠様、それではこれで出来上がりですね」
「はい、エリ」
私たちは師匠と弟子、でも今はもうすぐ結婚します。私は幸せになりますわ、私自身の力で。
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