Ⅲ
気が付けばこの集落で二日が過ぎていた。白狐はまるで夢を見ているように、時間が過ぎて行くのを見送った。
寝て、起きて、食事をして、その繰り返し。長明は白狐の世話を任されたという役目通り、大抵傍にいて不便がないように気を配った。
白狐は彼と様々な他愛ない話をし、表面上の友好は深まったように思われたが、自分が笑む度に心の奥底に空いた空洞が疼くような虚しさも覚えた。
よそ者を良く思わない連中がいるという大家の忠告に、白狐はさしあたり従っている。実際、真夏の暑さに晒されながら営まれる漁師たちの仕事ぶりを眺めていれば、胡乱気な眼差しとともに追い払われるので、遠目から見物する他ない。
漁民たちの生活は、白狐には物珍しいことばかりだった。朝早く、まだ陽も昇らない内に漁に出る男たちは、網にかかった魚を引っ張り上げ、えんやこらという威勢のいい掛け声とともに昼前に戻ってくる。彼らの船は小ぶりな木造で、どれもこれも大海原に漕ぎ出せば枯れ葉のように心許ない。横波にでも煽られると簡単に転覆してしまいそうだが、男たちはひとつの船に三、四人乗って感心するほど上手く操った。
腰布の他はろくに衣服を着けず、ほとんど裸体で浜辺を行き交う男たちの逞しい背中に、滂沱と流れる黒髪が渦を巻いては煌めいている。随分日に灼け、背も高いが、彼らが月辰族であるということは疑いようもない。
そうやって午後から船の手入れや力仕事に勤しむ男衆を横目に、女たちは日蔭で背負った赤子をあやし、寄って集る蠅を追っ払いながら手際よく魚を捌く。干物にするのか小刀で腹を裂いて腸を抜いて、投げ捨てるように笊の上に積み上げる。
その手さばきは職人の技のような鮮やかさで、厨に足を踏み入れたこともなかった白狐は間近で見物したい気持ちと、自分がそうした庶民の日常の仕事も経験したことのない無力に苛まれた。
そんな罪悪感のようなものを察したのだろうか。竈の熾し方が分からないとか、湯の沸かし方が分からないとか、白狐の世間知らずぶりに長明はいちいち驚き呆れたが、貶さず根気よく教えてくれるので白狐は彼の家で不用意に自尊心を傷つけずに済んだ。
お陰で、野菜の皮を剥いたり、茶を淹れる程度の家事は不器用なりに覚えつつある。それが良いことなのか悪いことなのかはともかく、イダニ連合国の不老不死の絵空事が肉体を生かし続けるのと同じように、白狐は無自覚に初歩的な生きる術を身に着けていた。
数えて四日目の朝である。家の主である長明は他の集落の者たちがそうであるよう早起きでくるくるよく働き、白狐もまた昼過ぎまで寝る惰性を正すようになった。
山の向こうから太陽の片鱗が顔を覗かせる。午前の浜辺は船がすっかり出払い、何だか明るくがらんと寂しい。東の方から雲が迫り、翳った波打ち際で集落の子どもたちが小蟹や貝を捕って、海藻を引っ張り上げている。
「日出でて渔き、日入りて息う。井を鑿りて飲み、海を漕いで食う。帝力何ぞ我にあらん哉」
不思議な歌が聞こえる。子どもたちが口ずさむ、調子外れな童謡。白狐は目を凝らし、きゃあきゃあと笑い合う彼らの中に、あの少年が混じっていないか何度も確かめたが、彼らの日に灼けてそばかすのある無垢な顔の中に、あの神秘的に整った無表情を見つけることは出来なかった。
点在する岩の上には、数羽の首の長い鳥が濡れた両翼を広げて乾かしている。あれは鵜なのだと教えてもらった。
空の色はどこか湿気に濁っている。昼過ぎには雨になるだろうという長明の言葉通り、船が戻って来る頃には怪しげな風が吹き始め、やがて音もなく降り出した。雨というより海霧のようで、遠い水平線が灰色に煙っている。
「濡れてしまいますよ」
取り込んだ干し物を畳む長明が、白狐の背中に声を掛けた。湿った潮風は身体にべたつき、お世辞にも心地良いものではなかったが、家に籠った暑さよりはましだ。
「蒸しますね」
「雨が降るとこんなものです」
白狐は薄い汗でべたつく襟元を少し緩め、家の中に戻る。それから長明の隣に座って、見よう見真似で午前中に干していた寝具を畳んでみた。
大きな白布に四苦八苦しながらどうにかそれらしく畳むと、長明は「子どものお手伝いを見守っているようだ」と笑う。同じ家で過ごす内に、彼は時折親しみからくる揶揄いのようなものを白狐に向けるようになったが、白狐は案外それが不快でもなかった。
「ここの子どもたちは、よく働きますね」
白狐は心から感心して言う。自分が貴族の儲君であったことや病弱であったことを差し引いても、漁師の子どもたちは男女関係なく、よく大人の後をついて彼らなりの仕事に勤しんだ。まるで遊びの延長に仕事があるように。
「労働力が足りないだけですよ」長明は嫌味なく朗らかに目を細めた。
「子どもは小さな大人なのです。男は十三になれば船に乗り、十八で一人前になります。とはいえ、大人になったからと言って自分の船を持てるわけではありませんが……」
船は村の財産である。その程度の知識はあった。船も、技術も代々受け継がれ、漁村の営みは変わらず続いていく。彼は肩を竦めた。
「いずれ漁師になるか、漁師の嫁になるかしかない、狭い人生です」
「でも、あなたはどちらでもないですよね」
長明は、この集落には皆それぞれ役割があると言った。彼は漁師の仕事もせず、他の力仕事に駆り出されることもあまりない。傍目から見ていると、白狐の世話や家事をするほか彼はこれといって仕事をしているようには見えない。
「あなたは、大家の親戚として何か特別な役割に就いているのですか?」
長明は、大家の名が出たことに意表を突かれたような顔をしたが、すぐ取り繕って笑みを貼りつける。
「特別、というほど大した役割ではないですが」
「長明の仕事は一体何なんです?」
「うーん、そうですね」
彼は干し物を畳む手を少し止め、考える素振りを見せた。「外に行って、魚を売ったり、ここでは手に入らないものを買ったりするのも私の仕事ですね」
それは数ある自身の仕事の中から無難なものを選んだような言い方だった。外、という言い方が白狐には何だか引っ掛かる。
「外というのは?」
言われて初めて長明は自身の言葉遣いがもたらす違和に気付いたらしい。
「ああ、すみません。籠った生活をしていると、この村だけが世界のような気がしてくるのです。御覧の通り、ここは貧相な土地なので野菜や穀物は外から買ってくるんですよ」
ふうん……と相槌を打つ。それ以上掘り下げても、きっと彼のことだから曖昧な笑みとともにはぐらかされてしまうだろうと分かった。
静かで退屈な昼下がりだった。
乾燥させた藁で草履を編み始めた長明の手仕事を見物するのに一通り飽き、白狐はいつの間にかまだ仄かに太陽の匂いの残る寝具に包まって微睡んでいた。
白狐が寝ようが起きようが文句を付けない長明は、自分の立場をよく弁えた近習のようで、邪魔にならない。彼の礼儀正しさは、本当に他の集落に物売りに行くためだけに躾けられたのだろうか?
夢を見ている、としばらく気付かなかったのは、五感に残る生々しい感触のためだった。
白狐は浜梨の咲く茂みの中に倒れている。空は晴れていて、そこらには砂っぽい雑草が生えていた。太陽は眩しく、真夏の陽気は、白狐が如何にもやしのように不健康な人間であるかを際立たせる。嫌になるくらい。
体を起こし、背中や手についた砂を払う。立ち上がれば、浜梨の茂みの向こう、眼下の海岸線が弧を描いているのが見えた。まるで、と思う。まるで、あのときの続きのようだ。少年の陽炎を追って、浜梨の中に迷い込んだ──。
折り重なる枝を掻き分け、白狐はゆっくりと歩を進める。光と陰がまだらに交錯していた。柔らかな砂の地面に足が沈み込む。
あの少年はどこかにいるだろうか。それとも長明の言う通り、ただの幻覚だったのだろうか。
ぱりぱり、かさかさと耳元で鳴る葉擦れの音。坂道を下り、白狐は礫の散らばる浜辺に降り立つ。誰もいない。足元に寄せては返す、渚の音。透明な海水が揺らめきながら、波打ち際を黒っぽく濡らしていた。
太陽の眩しい。茹だるような日差しが、彼方に揺蕩う霞のように水平線を滲ませている。
まるで、夢と現の境目のように。
蜃気楼、という言葉を思い出す。海で、蜃が見せるまやかしを漁師たちはそう呼ぶのだという。白狐は沖に目を凝らし、陽炎のように曖昧になった空と海の境界線を眺めた。
──目の錯覚だろうか。じっと見つめている内に、盛り上がっては沈み込む海面が、何かの生き物のように変じた。身を捩らせ、白泡を噴きながら泳ぐ、巨大な怪物。銀色に光る背びれがちらりと垣間見えては、波間に消える。
「……」
白狐は波打ち際に立ち尽くし、遠目に見える異形に目を凝らした。徒波が見せる悪戯か、或いは。
輪郭が二重にぼやけ、再びひとつに重なり合った。波のようにも見えるし、怪物のようにも見える。遂に頭がおかしくなったのかもしれない。白狐は既に危うい領域に足を踏み入れている自覚もないまま、自身の正気を疑った。
声が降ってくる、と気づいたのはそのときだった。
「──ま、白狐様」
「したん?」
熱に魘されたように、自身の喉から出た声は心許ない。近習の名を呼んだのは、長年染みついた脊髄の反射である。気付けば目の前に天井があって、顔を覗き込んでいたのは司旦ではなく長明だった。
「……」
現実から引き剥がされた意識が、まだどこか宙に浮かんでいるようだ。白狐は訳も分からず瞬きをする。夢を見て魘されていたのだと、長明の心配そうな顔を見て分かった。
「すみません、少し転寝を」
「構いません。しかし、何か悪い夢を?」
白狐は答えられない。悪い夢──いや、あれはそもそも、本当に夢だろうか? 五感に残る生々しい海の気配。まるで魂が身体を遊離し、束の間自由に揺蕩った白昼夢のように──。
室に籠った湿気が、奇妙な汗と混じり合い、身動きすると着物に貼り付いた。暑い。息をするのも阻まれるような温い空気は、雨が運んだものか、海の妖怪のため息か。
白狐は混乱している自覚があったものの、己の目で確かめたい欲求を押さえることは出来なかった。
「……少し、表へ出てきます」
「まだ降っているのでは?」
「大丈夫です」
きっと、止んでいますから。確信を帯びた言葉は現実となる。戸を開けて外に出ると、雨に洗われたような青空が一面に広がっていた。灰色の雨雲はもう彼方へ流され、取り残された浜辺は午後の陰の中、何だか少し寂しい。はためく風が着物を煽り、白狐の薄ら汗を乾かした。
多分、呼んでいるのだろう。
家々が立ち並ぶ高台を下り、砂浜へと向かう。通り過ぎる傍ら、杭に留められた船が、眠っている猛獣のような貫禄で静かに沈黙していた。白狐の足は迷わない。ただ淡い水平線を見つめながら、夢で見た場所を探して海岸線に沿う。
岬に近付くにつれ、足場は砂と礫が混じり合って険しく、息が上がった。打ち寄せる波が岩場に入り込んでは引いていく。水に濡れた岩盤はよく滑った。足を踏み外しかけ、白狐はあわやと前のめりになる。
「……」
飛沫が顔に撥ねた。波が足元にまで迫り、初めてひやりと身の危険を感じる。引き返すべきか躊躇したが、顔を上げて波間に光る銀色を見つけた気がして、ひゅ、と息を吸った。上手く声が出なかった。
怪物の背、だろうか。目の錯覚だろうか。海を裂き、空を衝く龍の巨躯。顔や尾は見えない。銀鱗の一枚一枚が、光を弾いて七色の輪を輝かせた。まるで突然虹が実体をもって海を泳いでいるかのように。
半ば呆然とした。ほとんどが海の下に隠れて全貌は分からないものの、片鱗だけでその異常さが分かる大きさ。白狐はその津波じみたうねりがもたらす奇妙な遠近感の錯覚と、自身が矮小化されるような、強烈な違和感に襲われた。
だが、不思議と怖くはなかった。
「日出でて漁き、日入りて息う。井を鑿りて飲み、海を漕いで食う。帝力何ぞ我にあらん哉」
不意に、口々に歌う声。はっと浜辺に首を向ければ、漁民の子どもたちの影が見え隠れした。彼らにもあれが見えるかもしれない。呼ぼうか、指でも差そうか、何か気が引けないかと再度海面に目を向けたとき、巨大な銀色の背びれは忽然と消えていた。
「──」
声も出ない。波の下に隠れた、のではない。消滅した。初めから存在していないかのように。どれだけ見回してみても、あれだけ波を暴れさせていた怪物は影も形もなかった。
本当に、自分は正気だろうか。
頭蓋骨の中がすっと冷えていくようだった。血の気が引いて、足がよろめく前に岩場から降りる。ふらりと現れた白狐に、子どもたちの視線が何となしに集まった。遊びを中断させられた姿勢のまま、大きな目の中に、好奇心もあれば、恐怖や嫌悪もある。
彼らの格好は一様に襤褸布とも海獣の皮ともつかない貧相な服に、干した動物の腱を帯にして、皆揃って裸足だった。玩具とも食料ともつかない海藻を手に、引き摺ったり、勇気のある少年は白狐を凝視したり、やや気まずい空気が流れる。
あの、と口を開くと、小柄な少女たちは蜘蛛の子を散らすように走って逃げだした。距離を置いて、数人が立ち止まってこちらを窺う。残った少年も三人ほど、目が合うと後退りした。
嫌われている。それは個々の感情ではなく、集落の中に蔓延するよそ者を排斥する自然な流れである。彼らはただ習慣に基づいた大人たちの真似をしているだけで、悪意はないのだと。白狐もその程度は馴染みがあった。異民族である司旦からどれだけ侮蔑の目を向けられてきたか。
心に根付いた思い込みを払拭するのは容易なことではない。
「こんにちは。今の歌、楽しそうですね」
極力にこやかな笑みを浮かべながら、浜辺に降りる。仲良くなれるとは思わない。ただ、緊張を解くことならできる、と思った。
「良ければ僕にも教えてもらえませんか?」
腰を落として目線を合わせる。十二、三歳だろうか。この中で年長に見える少年は、顔つきこそやや大人びているものの、発達中途の手足は棒きれのようだ。
「……」
彼らの目の中に逡巡が見て取れる。白狐にとって子どもは未知の生き物だったが、読めない長明や大家のような大人に比べ、無垢であるという点においてまだ接しやすい。
「日出でて漁き、日入りて息う」
おずおずと口を開いたのは、背後に隠れていた小さな少年だった。まだ十にもなっていないだろう。兄なのか友達なのか、頭ひとつほど背丈の違う少年に肘で小突かれ、慌てて続きを噤んだ。白狐とは口を利いてはならないと言いつけられているのだろう。
「井を鑿りて飲み、海を漕いで……?」
朧げな記憶を頼りに、白狐が歌ってみた。問いかければ答えたくなる心理なのか、こちらを避けて踵を返そうとしていた年長の少年が肩越しに呟く。「食う」
頷き、笑みを深くした。交流の姿勢を崩さないことは重要だった。
「通して歌ってくれませんか?」
「日出でて漁き、日入りて息う。井を鑿りて飲み、海を漕いで食う。帝力何ぞ我にあらん哉」
意外にも、歌い出したのは遠巻きに残っていた二、三人の少女たちだった。髪の毛を編んでいるのは長身の一人だけで、ほとんどが男児と変わらず肩の辺りでざっくりと切っている。
彼女たちもまた、白狐のことを見知らぬ動物のように畏れているが、同時に怖いもの見たさの興味を抑えられないでいるらしい。表情から漏れ出る仔猫のように無邪気な好奇心は、なるほど確かに場合によっては危うい領域に足を踏み入れかねない。大人たちがよそ者を避けるよう言い含めるのも当然だった。
白狐は心得たとばかりに再度頷き、彼らの旋律を真似してなぞる。庶民によくある、素朴な労作歌だった。働きながら、気晴らしに口ずさむ出鱈目な歌。少なくとも、初めの二節は。
──帝力何ぞ我にあらん哉。
一瞬、顔が強張る。声に出して初めて白狐はその歌詞がもたらす違和感に気付いた。子どもたちに勘付かれないよう、「これってどういう意味ですか?」と笑みを貼りつけて問うてみる。
「え……それは」
「んーっと」
戸惑い。答えることの誇らしさ。恐怖。そういったものが綯い交ぜとなり、彼らの口数は幾分増えていた。
「この村は、皇国の外にあるから」
「え?」
「馬鹿っ」
ぱしん、と小気味よく叩く音。小柄な少年が頭を押さえ、唇を尖らせている。こらこら、喧嘩は駄目ですよと口を挟む暇もなかった。
もう話すことはないとばかりに、年長の兄らしき──手を上げた張本人なのだが──が彼の背を押し、素早く踵を返す。他の子どもたちも、のろのろと彼らに従って白狐から離れていった。
ちょっと待って下さい。そう伸ばしかけた手は、肩越しに寄越された一睨みで宙を掻く。牽制。子どもとは思えない鋭利な目つきだった。近付けば殺すと、刃を向けられたかのように。
違う、と白狐は口の中で呟く。子どもたちは、この集落の住民は、単によそから来た見慣れない白狐を無条件で忌み嫌っているのだと思っていた。よくある、辺境の慣習だと。彼らにとって白狐は、ひっそりと営まれてきた平和の均衡を崩しかねない異質なもので、ただ本能的に拒絶されているのだと──。
違う。あの少年の鋭い牽制の中にあったのは、紛れもない理性だった。言い換えれば、子どもらしからぬ義務感。確信した。彼らは何か目に見えない、触れられたくないものを隠していて、たまたま白狐がそれに指を伸ばした。だから、手酷く叩き落とされたのだ。
「帝力何ぞ我にあらん哉」
──皇帝の力など、私に何の意味があろうか。いや、ない。たかが労作歌の一節。子どもたちが口ずさむ、無邪気な旋律。それにしては随分と不遜で、不敬な歌詞。そして、あの叩かれた少年が零した「この村は、皇国の外にあるから」の意味。
彼らは、長のことを伝統的に大家と呼ぶ。
「……」
浜辺に一人取り残された白狐は、海の方に視線を投げかけた。またあの銀の鱗の怪物が見えやしないかと、自身の正気に問うために。
しかし、見渡す限り何もない。幾重にも寄る白波が時折淡く光を反射させるだけで、海面は穏やかだった。少し、ぞっとするほどに。
狂っているのは彼らと自分、どちらだろう。考える。蜃という悪霊のことを、考える。
この漁村は、どこかおかしい。