表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恒久魔王のこども達  作者: なし
3/3

第3夜


「魔物憲章によれば、魔王の跡継ぎ選びが始まると跡継ぎ候補同士の戦いは禁止され、決闘をした場合は両者の継承権を剥奪するそうだ。クードとガルマンダは父王の期待を裏切り、跡継ぎ競争をリタイアしてくれるのか?」

 今にもぶつかり合うすんでのところで、魔王の五番目の王子エスカルペイドがにこやかに割って入りました。

「なんだと、跡継ぎじゃなくなるだと!? 本当かクード」

「ふ、ふん、わらわが知らぬはずなかろう。もちろんそうじゃ。お主ごときと直接争う気など全然なかったのじゃ」

「ふふ。さあ、ふたりとも! もう競争は始まっているのだ。早く人間の味方になってこなければ」

エスカルペイドに促され、クードもガルマンダも我先にと急ぐ気持ちで心はきゅっとしまった紺色になりました。クードはどっしんどっしんと、ガルマンダはバッサバッサと、それぞれの全然ちがう体で神殿を出ていきました。

「エスカル兄様、魔物憲章っていうのには脱落のルールが決まっていたの?そんな大事なこと、どうして魔王や神官は説明しなかったのかな」

 ロックスは気になってエスカルペイドに聞いてみました。あのすぐ喧嘩になってしまうふたりにはとても不利なルールです。

 エスカルペイドの代わりに、ペンデルフィアがため息を吐きながら教えました。

「魔物憲章というもの自体が、うそである……。クード姉上とガルマンダ兄上の諍いをやめさせるためにだましたのだエスカルペイド兄上は」

「ふふふ、ペンデルフィアの言う通りさ。ふたりの急ぎようといったら、おもしろかったろう?」

 ロックスは、エスカルペイドの、冗談を信じ込ませるようなところが少しだけおそろしくも感じます。でもこれは、エスカルペイドなりのクードとガルマンダが怪我をしないための方便でした。

 ロックスがエスカルペイドを少し苦手に思うのは、言動だけのせいではないかもしれません。兄に悪いとは思いつつ、ロックスはエスカルペイドの匂いが得意でないのです。

 エスカルペイドはクードからロックスまでの四体よりも上の世代のこどもで、魔王と半魚人から生まれました。半魚人というのは、人型で、二足で陸を歩くのですが、全身鱗があり頭が魚で腕などに水かきがある、水中で暮らす種族です。半分魔王に半分半魚人なので四分の一魚人というわけではありません、エスカルペイドも半魚人の姿をしています。とてもよくできたひとで機転が効くのですが面白がるのが好きで、笑顔は人間の目には少し不気味に映ります。ロックスが苦手とする匂いは、魚くささや潮の香りが半魚人の肺とエラ両方を用いて行う独特の呼吸で強く広がるためです。

「クード姉様とガラマンダ兄様は、魔王のこども同士では戦えないと思い込んだまま冒険を進めていくんだね……」

ふたりの行く末が不安なロックスは呟くように言いました。

「良い薬かもしれぬな」

すぐ上の兄・姉をなだめるのに何十年も骨を折ってきたペンデルフィアはちょっと嬉しそうです。

「あの力持ちふたりが出発してしまったのだから、私たちものんびりしていられないぞ」

にこにこしたエスカルペイドはさも旅立ちが楽しみなようにロックスとペンデルフィアのお尻も叩こうとしてきます。

 にこにこ顔のエスカルペイドの心に、どぎまぎする赤紫が見え隠れして、ロックスは不思議に思って見つめました。ロックスとエスカルペイドは間に六体も兄弟姉妹が挟まって三百も歳が違うのですから、ロックスにはエスカルペイドの考えを探り当てることはちょっと出来ません。でも、なんとなく何か隠しているような、遠ざけようとしているような、変な感じがします。

 そもそも、魔王が恒久魔王になるおめでたい式典に出席するこどもの少なさも気になってきました。これまでに登場した五体以外の魔王のこどもは、誰も来ていないのです。魔王クロスも特段それを気にせずに、跡継ぎの決め方を発表しました。ロックスは気になってきました。

でもペンデルフィアは珍しく朗らかに、ロックスの手を引き促します。

「よし。ロックス、我らも冒険を始めるべきだろう。行こう。我はまず、郷に帰るとしよう」

 エスカルペイドに見送られ神殿を出たところで、ロックスはペンデルフィアに問いかけてみることにしました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ